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2013年4月11日

『室内』ワークショップ・レポート(1)

大きな山に登るには、まず腹ごしらえ
SPAC制作部 米山淳一

今年6月「ふじのくに⇄せかい演劇祭2013」にて上演される
クロード・レジ演出&SPAC出演の新作『室内』の稽古が、
いよいよ4月8日より、フランス・パリで始まりました。

今回『室内』のクリエーションでは、レジさんによる稽古に先立ち、
2月末から1ヶ月に渡って俳優向けワークショップが行なわれました。
公演に向けての稽古スケジュールが常にぎっしり詰まったSPACで、
稽古とは別にこれほど長期のワークショップが行なわれるのは、
とても珍しいことです。
『室内』がどんな作品になるのかも、大いに気になるところですが、
これから数回に分けて、『室内』ワークショップの様子をご紹介します。

講師を務めるのは、フランスで活躍する女優ベネディクト・ル・ラメールさん。
ベネディクトさんのレジさんとの出会いは、今から15年前。
ベネディクトさんが入学した演劇学校で、当時レジさんが教えていたそうです。
「ふじのくに⇄せかい演劇祭2013」のパンフレットには、
レジさんとの出会いを語った感動的なコラムが掲載されています。
レジ作品で舞台デビューし、その後も長年仕事をともにし、
レジさんの演出や世界観を女優として身を持って知る、頼もしい先生です。
参加俳優は、全部で27人。
演劇のワークショップにしては、かなり大人数です。

<2月25日(月) ワークショップ初日>
 舞台芸術公園の稽古場棟「BOXシアター」にてワークショップ、スタート。

早速、台詞をしゃべったり、動いたりするのかと思いきや、まずは座学。
ベネディクトさんによるレクチャーです。
『室内』の作者メーテルリンクのことや、レジさんの演出の特徴や
世界観などについて、関連する様々な作家や作品にも触れながら、
ベネディクトさんは、とにかく語ります。

それから、レクチャーの合間、合間で、メーテルリンクやレジさんにとって
重要なテキストを、参加者全員で実際に声に出して輪読していきます。
読むのは、『室内』を始め、メーテルリンクの他の戯曲や『貧者の宝』という
エッセイ、さらにはノヴァーリスやロートレアモン、クライストといった
関連作家まで。

輪読は、レジさんの作品でとても重要な要素「沈黙」から始まります。
全員が沈黙しきって生まれた静寂の中で、参加者たちはその空間や
今そこにある空気を感じながら、テキストを静かに読み継いでいきます。
ベネディクトさんからは、「全員でエネルギーをキープして、
みんなの中心にある心臓を、全員で動かしていくような感覚で」と。
ここからして既に、静寂の中での共同作業です。

なんでも、レジさんの作品は、他の演出家の作品と比べると
少し特殊だそうです。
何も見えないほど暗い沈黙の舞台空間で、俳優はほとんど動かず、
またいかにもお芝居らしい演技はしません。
そんなレジ作品に出演する俳優が最終的に頼れるのは、
自分の内に蓄えられた想像力だけ。
作者や演出家レジさんが関心を持っている広い領域に関わる
文献や絵画や映像にたくさん触れることで、それらが自分の栄養となって、
いざ自分がスランプに陥ったりした時に、そこから這い上がるための
助けになるのだそうです。
その栄養が、上演する戯曲の台詞やレジ演出の世界観を
様々に押し広げられる想像力を生み出してくれます。

そんなわけで、今回は参加者が自由に触れて借りることができるように、
本や美術図鑑に映画のDVDまで、沢山の資料が用意されました。
(写真に写っているのはその一部です。)
ワークショップ期間中、俳優はそれぞれ自分の時間を使って、
更にいろいろな栄養を日々取り込んでいきます。

座学は3日にも渡りました。
大きな山に登るのには、これだけの準備が必要なのだということを、
改めて思い知らされた3日間でした。
最初の栄養補給を十分に終えたところで、
4日目からはいよいよ実際に、動いてみます。

レポート(2)へ続く。