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2014年9月18日

『ドン・キホーテ』照明・神谷怜奈ロングインタビュー

中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」 パンフレット連動企画◆

中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。パンフレット裏表紙のインタビューのロングバージョンを連動企画として、ブログに掲載します。

照明:神谷怜奈(かみや・れいな)
静岡市出身。2010年よりSPAC在籍。『タカセの夢』(メルラン・ニヤカム振付・演出)、『オイディプス』(小野寺修二演出)で照明操作を担当。

<SPACで舞台照明と出会う>
――なぜ照明の仕事をするようになったのですか?
 SPACとの出会いは高校の時。演劇部に所属していて、SPACが開催していた高校演劇フェスティバルに参加しました。その関係で、原田一樹さん演出のSPACレパートリー『しんしゃく源氏物語』を観劇しました。そのお芝居では、舞台装置の一部に生の竹が使われていて、それらに異なった光をあてることで四季の変化を表現していました。例えば、冬の情景を表現するために紫の光をあて、あたかも雪が降り積もった竹のように見せていました。あかりによってこんなにも世界観を変えることができるのかと驚きました。これが舞台照明をやろうと思ったきっかけで、高校卒業後、舞台照明の専門学校に行きました。
――高校卒業とともに舞台照明の道を選ぶのは、勇気のいることだと思いますが、迷いませんでしたか?
 色々とやりたいことがあったので、演劇を仕事にするかどうか、決めあぐねていたのですが、高校演劇フェスティバルに参加した時のSPACのスタッフがカッコよかったんです。皆さんとても忙しくて、やつれてゲッソリしていたのですが(笑)、すごく働く。高校生に対しても「よしっ!やろう!」という感じで。自分の仕事に対してすごく真剣で、カッコイイ大人だなと。その影響は大きいです。
――まわりまわって今回、『しんしゃく源氏物語』と同じく原田一樹さん演出の『ドン・キホーテ』で照明担当です。運命を感じますね。
 そうですね。経験不足なので荷が重いのですが……がんばります(笑)

<舞台照明の仕事とは?>
――照明の仕事では、どんなことをするのですか?
 舞台照明の教科書の冒頭には、「照明の基本は劇場に太陽をつくること」と書いてあることが多いです。太陽と言っても、ただ明るくすればいいわけではありません。四季があり、1日の中でも時間帯があり、それらによって光の変化が違います。夏の陽射しの中、人にどういう影ができるのか、そういうことを知っているかいないかで、舞台照明の表現の仕方が変わります。お芝居は嘘なのですが、全てが嘘だと誰も共感しないのではないでしょうか? どこかにリアルを表現しなければいけない。照明家は日常の変化を観察して、劇場で何を表現するのかを選択する仕事だと思います。
――具体的には、どういう風に、舞台照明をつくり上げるのですか?
 まず、舞台上にあるモノを観察します。装置、俳優、衣装、メイク、音。装置ならば色、質感、位置関係など。俳優ならば動き、役割、どういう演技プランなのかなどなど。それらを踏まえて、照明家に与えられている条件の中で最良の機材、位置、角度を決めていきます。
――舞台の上に吊っているバーに何体もの照明機器を取りつけて、俳優や舞台美術に光を当てますよね。そうやって照明のプランを考えるのは複雑そうですが、頭の中で考えるものなんですか?
 私は、3Dの画像を頭の中に思い浮かべます。劇場の横幅、奥行き、高さがあって、ここに灯体(照明機器のこと)をつけると、こういうあかりになる、ということが想像できます。そして、それを1つずつ図面に描いていきます。なので、頭と図面の両方でプランニングをしています。
――俳優さんの体にどういう影ができるかということまで、頭の中で先に見えているんですか?
 使い慣れているSPACの劇場だとだいたい見えるのですが、他の劇場だと劇場構造が頭に入っていないので、現場で合わせる部分が大きいです。
――SPACは専有の劇場を持っていますが、そういうところに創作上の利点があるんですね。
 そうですね。プランを実際に試してみて、やっぱりこうじゃないと気づいて、試行錯誤することができるのは、大きな利点だと思います。

<俳優との闘いについて>
――1人の俳優に、何台の灯体を使うのですか?
 人間っぽくしっかり見せようとすると5台くらいです。前から、上から、横から、後から、同時に照明を当てると、人の輪郭がはっきりします。幽霊っぽく見せたい時は、前からのあかりだけでぼわっと曖昧な輪郭をつくったりします。
――5台もの灯体から1人の俳優に光が当たっているんですね。役者さんは、光が当たらないところには出て行けないということですよね? 照明が俳優の動きを制約していると考えていいですか?
 そうなりますね。なので、照明家はプランを立てる時に俳優の動きを読まなければいけないんです。「この俳優さんがこの役柄を演じる場合、動きが大きくなるだろうな」などと、予測できる時は、広めのエリアにあかりを当てています。照明の仕事は、ある意味、役者さんとの闘いです。一番いい照明が当たる場所に立ってほしいのに、そこに来てくれない! ということがあることも。
――俳優は、照明のベストタイミングをわかっているんですか?
 こちらがびっくりするくらい、ピタッとベストな場所に立つ方もいます。特に主役陣は、あかりのあるところに寄ってくる習性が(笑)
――あかりのあるところに寄ってくる! 虫みたいですね(笑) 俳優との格闘と言われたのを、もう少し詳しくお聞きできますか?
 照明の特性として、光が当たっている全体が、いっきに明るくなったり暗くなったりするわけではありません(LEDを除く)。最初は真中に光が強く当たって、周りは徐々に明るくなります。例えば、30秒で照明を変化させる場合、その中の10秒目~13秒目にここに立てば俳優がもっとも綺麗に見える、なんてポイントがあったりするのです。しかし、照明操作をする時は、俳優の動きよりも先にあかりを点灯し始めなければいけません。俳優が5メートルを歩いて舞台の指定場所に出てくる、その歩き出しの足の関節の動きを読んで、照明を点灯させています。俳優が、最高の3秒の間に、ぴったりの場所に立つことができるように。日によってゆっくり歩く人や速く歩く人もいますから、0.何秒の世界です。そのわずかのズレで、「くそー! うまくいかなかった!」 ということがあります。そういう意味で、俳優と格闘していますね。
――たった何秒で見え方が全然変わるんですか?
 変わると思います。例えば、俳優が「かなしさ」を表現している場面だったとして、その「かなしさ」が「悲しい」なのか「哀しい」なのか。受ける感情の質感などが変化すると思います。照明のオペレーターは動いているあかりをプランします。あかりの変化をどう芝居にとけ込ませ、にじませていくかが勝負になってきます。

<『ドン・キホーテ』の照明プラン>
――『ドン・キホーテ』の照明プランについてお聞きできますか?
 初演のあかりをつくったのは丹羽誠さんという舞台照明家です。
――今回は再演になりますが、初演の時の照明プランを踏まえてやるのですか?
 今回は、会場が色々と変わることもあり、プランの大枠以外は大きく変わることになると思います。役者を魅せるということに重点を置きたいと思っています。俳優陣は、個性の強い方が多いです。パッションのある役者さんが集まっている。なので、役者さんが持っている魅力を隠さないように作りたいです。
――『ドン・キホーテ』は静岡県内の旅公演になりますが、照明プランはどの劇場でも同じですか?
 変更の連続です。ベースになるものは同じですが、会場の形状や設備、演出プランの変更に対応していくことになります。

<気づかれない照明を目指す>
――こういう照明を目指しているという理想はありますか?
 私は、にじむあかりを目指しています。観客が、変化にあまり気づかないあかりをつくりたい。気づかない内に、大きく変わっているあかり。役者さんの動作やお客さんの心の動きに合わせて照明を変えると、ほとんどの人が気づかないんです。すごく照明が変わっていても、例えば、俳優の手のふりと同じ速度で変わると、ほとんど気づかれない。気づかれないように、こっそり皆さんの心を変えられるあかりを目指しています。
――逆に、照明が変わったと意識させるあかりもありますよね。
 そうですね。私も学生時代はコンサートのあかりを勉強していたので、そういうあかりをつくってきました。実はあまり好きではないんです。ライティングショーにはしたくない。照明を見せるのではなく、空気を変えていくことをメインに考えていきたいです。そのための照明にしたいという気持ちがあります。

<劇場では優等生でなくていい>
――演劇の魅力は、何だと思いますか?
 演劇をやっていてよかったと思うのは、変な人がいっぱいいることです(笑)私は、生きるのが楽になりました。
――普通は逆では? 変な人が多いと生きやすくなるってどういうことですか?
 SPACの場合、外国人との交流も多いので、価値観がたくさんありすぎて、人の価値観を否定することがありません。「全然わかんないよ!」と言ってぶつかったとしても、その結果、「ふ〜ん、そういう人もいるんだね」と許容できる。それが演劇の魅力です。学校だとなかなかそうもいかないでしょう。学校の中だと生き苦しく感じる人もいるのではないでしょうか。そういう意味で、演劇は生きやすくしてくれますね。
――中高生には、舞台のどういうところを見てほしいですか?
 ボーッと見てても寝ててもいいのですが、何か心にひっかかることがあったら、それを覚えておいてほしいですね。きっとそれは、その人が日常生活のなかで振り返る必要のあることなのだと思います。生きていく助けになる何かではないかと…。
――演劇は、誰にでも楽しめるものだと思いますか?
 演劇は、つくった側が、これを受け取って! というだけでなく、観ている側が、普段の生活で何を思っているか、試される場だと思います。心の健康診断みたいな…? つまんない! と思ってもいい。ただ、つまんない! と思える状態で劇場に来てほしいです。何を思ってもいいのだという、自分をゆるす心を持たせてくれるのが、劇場です。劇場では、優等生でなくていいんです。
――最後に、中高生へメッセージをお願いします。
 お互いにいい出会いになると嬉しいです。演劇はお客さんと一緒につくるものなので。

(2014年8月1日 舞台芸術公園にて)

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SPACレパートリー/中高生鑑賞事業
『ドン・キホーテ』
9月18日(木)~11月21日(金)
県内各会場

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