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2015年4月1日

*ふじのくに⇄せかい演劇祭2015 見どころ紹介(7)* 『ふたりの女』、『小町風伝』

文芸部 横山義志(海外招聘担当)

ふじのくに⇄せかい演劇祭2015のプログラムをランダムにご紹介していきます。
今年はアングラ演劇50周年。
1960年代半ばから、唐十郎、鈴木忠志、寺山修司、佐藤信、そして太田省吾と、アングラ演劇を代表する演出家たちが次々と劇団を立ち上げていきました。
今回ご紹介する宮城聰演出『ふたりの女』・李潤澤演出『小町風伝』では、アングラ演劇の名作を、初演時とはかなり異なる演出で上演いたします。

『ふたりの女』
『ふたりの女』
『小町風伝』
『小町風伝』

 

『ふたりの女』は唐十郎作・演出で、1979年に初演されました。初演時の出演は緑魔子、石橋蓮司他。これは小劇場特有の熱気を活かした舞台でしたが、今回の宮城聰演出では、二人のヒロインであるアオイ・六条の二役をたきいみき、光一を永井健二他、劇団SPACの出演で、日本平の野外劇場で上演します。一方『小町風伝』は太田省吾作・演出で、1977年に初演されました。この作品は、かなりの量の台詞が台本に書き込まれているのに、その台詞がほとんど口には出されず、ほぼ無言劇の形で上演されました。にもかかわらず、この作品は翌年の岸田戯曲賞を受賞しています。この語られなかった台詞を、韓国を代表する演出家の一人である李潤澤が、韓国伝統演劇の手法も用いつつ、舞台の上に解き放ちます。

アングラ世代の代表的な演出家は、鈴木忠志を除いて、ほとんどが劇作家兼演出家で、自分の演出スタイルに合わせて作品を書いていました。これはある意味で、歌舞伎や文楽、能狂言も含めて、日本演劇に根強く残っているやり方なのかも知れません。そのため、こうして書かれた作品を、他の演出家が全く異なる形式で演出する、というケースはかなり稀でした。でも、一度そんな形式をはぎとって、テクストだけにしてみることで見えてくるものもあります。

『ふたりの女』と『小町風伝』は二作品とも、能の戯曲を題材としています。
『ふたりの女』は『葵上』に基づいています。光源氏の愛人である六条御息所が嫉妬に苦しみ、正妻葵上に怨霊となって取り憑く、という物語です。この二人がそれぞれ牛車に乗って祭見物に出かけたところで、家来同士が争って六条の車が壊されてしまう、という有名な「車争い」の場面を、唐十郎は富士スピードウェイの駐車場に置き換えています。主人公の医師光一と患者六条が出会うのは、伊豆の砂浜に立つ精神病院。この静岡ゆかりの作品を、宮城聰は2009年、日本平の原始林に俳優の生々しい身体を置き、スピーカーから大音響の音楽を響かせて演出し、連夜大入り満員となりました。初日にいらしていた唐さんも、なんだかご機嫌でした。(ちなみに飴屋法水さんは、東京に出てきて紅テントに参加したばかりの頃、若手発表会で『ふたりの女』の「駐車場係」の役を演じたそうです。飴屋さんはもうすぐ出る公式ガイドブックにすてきな文章を寄稿してくれています。)

『ふたりの女』
『ふたりの女』
 

『小町風伝』は『卒塔婆小町』などで取り上げられている小野小町の物語をもとにしています。絶世の美女だった小野小町が孤独な老婆となっていて、かつて自分を慕って通い詰めながら恋を成就できなかった深草少将の怨霊に取り憑かれる、という話です。太田省吾の作品では、「小町」は一人でアパートに住む年配の女性で、朝起きてインスタントラーメンを作りながら、戦時中に出会った軍人との逢瀬を懐かしんでいます。太田省吾はこの作品を能舞台で上演し、押し黙った老女が足の指先だけで、信じられないほどゆっくりと移動していく演技で話題になりました。李潤澤の演出では、この作品の夢幻能的な構造を、韓国の入巫儀礼「クッ」や仮面劇「トップェギ」などの手法を用いて表現しています。太田省吾は1992年に李潤澤演出の舞台を観たあと、「私の『小町風伝』を上演してほしい」と言ったそうで、その時に交わした約束を二〇年後に果たすことになったとのこと。この作品は2013年に東京の駒場アゴラ劇場でも上演されていましたが、その後ソウルで、より大きな劇場でブラッシュアップされたバージョンが上演され、太田省吾の奥さんだった大田美津子さんも、このソウル公演を非常に高く評価なさっています(大田美津子さんも公式ガイドブックに文章を寄せてくださっています)。

『小町風伝』
『小町風伝』
 

アングラ第一世代が切り拓いた近代の闇が、ふたたびのっぺらとした光に覆われていくかのように見える今日。残されたテクストを手がかりに、うすっぺらな光を切り裂き、身体にひっそりと身を潜めている前近代の深淵にどこまで斬り込んでいけるのか。五〇年後の私たちが、その身ぶりの本質をいかに受け継いでいけるのかが問われています。
 

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ふたりの女 ~平成版 ふたりの面妖があなたに絡む~
 演出: 宮城聰
 作: 唐十郎
 出演: SPAC
4/29(水・祝)18:00、5/3(日)18:00、5/6(水・祝)18:00
舞台芸術公園 野外劇場「有度」
http://spac.or.jp/15_two-ladies.html
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小町風伝
 演出: イ・ユンテク(李潤澤)
 作: 太田省吾
 出演: 演戯団コリペ
5/4(月・祝)16:00、5/5(火・祝)12:00、5/6(水・祝)15:00
舞台芸術公園 屋内ホール「楕円堂」
http://spac.or.jp/15_the-tale-of-komachi.html
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