こんにちは。
いよいよ新年度。学生さんや社会人など、新しい生活が始まる季節ですね。
桜咲くこの時期、『盲点たち』の俳優・スタッフは日々稽古に励んでおります。今回は『盲点たち』の少し変わったところをお伝えしようと思います。
「ふじのくに⇄せかい演劇祭2015」のガイドパンフでは、紹介文に「体験型演劇」と書いてあります。……もうこれだけで、演出家ダニエル・ジャンヌトーの『盲点たち』が普段の劇場でのお芝居とちょっと違うということが想像していただけるかと思います。会場全体を作品にしてしまう、ダニエルの演出作品の性格が垣間見れます。
今回、お客様にはBOXシアターに集合していただいてから、森の中の会場まで移動していただきます。夜の真っ暗闇の中で、お客様も俳優も含めて、その場にいる全員が目の見えない存在、「盲点たち」となります。
(※この写真はイメージです↓)
ダニエルは、その場にいる全ての人が「盲点たち」となるために、ある工夫をしました。それはエキストラ俳優の参加です。経験を積んだSPACの俳優と、公募によって選ばれたエキストラの方々。観客の皆様と合わせて、様々な人の在りようを配置することで、「俳優と観客」「舞台と観客」といった垣根を曖昧にしていきます。
ダニエルは、稽古の初めの頃、演出意図を「星座」の比喩で説明しました。
「空間にイスを配置し、どこに俳優がいるのかどうかは分からない。局所的に声がしたと思うと、他の場所からも声が聞こえる。これまで見えなかった空間は、台詞を介してまるで星座のように関係性によってつなげられる。」
このことが、会場の配置、台詞や演技にとって重要なことです。それぞれの個性が、一つの星のようになって、時に他の星と結びつき、時に離れていく。必ずしもハーモニーを生むわけではなくて、不規則に変化していく。そうして動いていくリズムが『盲点たち』の音楽性となっていきます。だから、空間の配置と、台詞は密接に結びついているんですね。
このリズムを表現することは、とっても難しいことです。俳優さんたちが日々格闘している様子がひしひしと伝わってきます。最終的には、お客様が入った状態で、『盲点たち』はどんな音楽を奏でるのでしょうか。……屋外ですから、予測できないことが起こるかもしれません。でもそれも、楽しみですね!
この「音楽性」を実現するために、もう一つ重要な要素があります。それは音響です。
パリ初演の『盲点たち』は、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所 Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique)の協力を得て制作されました。そして今回、静岡での上演でもIRCAMの技術者が来日して一緒に作品を作っていきます。……IRCAMと言えば、パリのポンピドゥーセンターに併設された、創設時にピエール・ブーレーズが指導を務めた、世界トップクラスの音響学および現代音楽の研究所です。
森が会場である本作、一見すると簡素な作りの舞台なんですが、実はものすごいテクノロジーが用いられているんですね。立体音響(3Dオーディオ)と呼ばれるジャンルは、劇場やホール音響の分野では特に専門的な知識と技能が必要です。今回、音の局所性に着目して、客席ごとに聞こえ方を計算しています。それぞれの座席の位置によって作品の印象が変わるのではないかと思います。誰一人として、“同じ作品”に触れるわけではないのです。これもまた、この作品が「体験型演劇」である理由の一つですね。
いよいよ、音響を設置しての稽古が始まります。これまで俳優とイスだけだった時空間が、スピーカーと合わせて、一体どのように変わっていくのでしょうか。
次回は、音響についてレポートしたいと思います! 『盲点たち』、ご期待ください!
創作・技術部 横田宇雄
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「新人は見た!」・・・創作・技術部の横田が『盲点たち』のクリエイションから見える様々な見どころを紹介していきます。
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SPAC新作『盲点たち』
4/25(土) ※販売終了・キャンセル待ち
5/2(土) ※販売終了・キャンセル待ち
5/4(月・祝)
5/5(火・祝)
各19時(集合時間)
会場:日本平の森
http://spac.or.jp/15_the-blind.html
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