SPAC文芸部 横山義志
2015年6月25日
午前3時半、芸術劇場前に続々と人が集まってくる。おはようございます!あ、こんばんはかな?等々。東名高速を飛ばしていくなかで、徐々に夜が白んでくる。
12時成田発。10時間のフライト。
シベリアを通り過ぎ、ウラル山脈を越えると、見渡す限り平原が広がるなかに、忽然と巨大な街が姿を見せる。人口1200万人。そこから一歩出てしまうと、あの茫漠とした大地が広がっているかと思うと、そこに降り立っていくのがどことなく不安になる。
モスクワへ。なんだか妙な感慨がある。演劇をよくご覧になる方は、チェーホフの『三人姉妹』で、何度となくこの言葉を聞いただろう。姉妹にとってモスクワは、憧れと希望の代名詞だった。
今回『マハーバーラタ』一行が向かっているのは、モスクワで開催されるチェーホフ国際演劇祭。アヴィニョン演劇祭やエディンバラ演劇祭と並んで、ヨーロッパで最も重要な演劇祭の一つである。これまでストレーレル、ピーター・ブルック、ムヌーシュキン、ペーター・シュタイン、マルターラーといった巨匠たちがプログラムを彩ってきた。
去年のアヴィニョン演劇祭で、たまたま劇場で隣の席になったチェーホフ演劇祭のディレクターが、挨拶もそこそこに「宮城さんに会いたい。いつ、どこで会えるだろうか?」と真剣な面持ちで切り出してきたのを思い出す。前の晩に『マハーバーラタ』をご覧になったらしい。それから一年も経たないうちに、モスクワを訪れることになった。
「ただいまの現地時間は、よんじ…ろくじゅっぷんでございます。」ロシア人客室乗務員が澄ました声でシュールなアナウンス。「じゅうろっぷん」と言いたかったらしい。機内でクスクス笑いが起きて、なんだかちょっとホッとする。16:30頃モスクワ着。
通関の手続きなどに時間がかかり、ホテルに着いたら20時を過ぎていた。スーパーで食料を買い込み、明日以降に備える。24時まで開いているスーパーがあったりして、ロシアもすっかり様変わりした印象。