二人芝居を観るのは、東京パルコ劇場での「オレアナ」(出演:田中哲司、志田未来)以来である。実は、私は、芝居の中では、二人芝居が最も好きだ。なぜなら、他のどの芝居よりも、舞台が緊張感と緊迫感に満ち溢れているから。「演出ノート」にもあるが、一人芝居は、一人のペースで芝居が進められるから、役者の個性を出しやすい。一方、三人だと、二人が演技している間、一人は静観できるので、芝居としては安定する。しかし、二人芝居は、二人の呼吸と波長が乱れた途端、芝居は破綻してしまう。崩れやすく脆いからこそ、生まれ出る緊迫感が、何よりも素晴らしい。そんなわけで、この芝居も、きっと、とてもよい緊張感に満ちているに違いないという期待感を持ちながら、劇場に足を運んだ。
この芝居は、角替和枝さんと美加理さんによる二人芝居である。幕が上がると、二人の力強いエネルギーが観客を舞台に引き込む。二人は、それぞれ病院に入院する患者とその付添婦である。この全く接点のない二人だが、しばらくすると、大切な人を亡くした過去があることに、お互い気づく。それぞれが、本人の役に加えて、それぞれの家族の役を演じる。その役の人物描写、感情表現の変容が、この芝居の最大の見どころ。全く違う人格を演じ分ける二人の女優の演技力は魅力的である。
そして、もう一つの見どころは、第一幕終盤の付添婦が患者に嘘をついていたことが発覚するシーン。嘘を知った後も、患者は平静を装いつつ、付添婦とのシリアスな会話を続ける。この場面も、ときおり感情が激昂し、観客をハラハラ、ドキドキさせる。
人は、強いショックを受けると記憶を一時的に無くしたり、あるいはフラッシュバックのように過去の記憶が走馬灯のように蘇ることがあるそうだ。この作品の中で、患者と付添婦は、何度かフラッシュバックに襲われる。そして、いつしかフラッシュバックが、幻なのか現実かなのかが分からなくなっていく。
この作品は、我々に、生きることは、過去の記憶や思い出を心に秘めながら、未来という死に向かっていくことなのだと教えてくれているようである。
泰井良(たいい・りょう)
1972.9.5、神戸市生まれ
関西大学美学美術史専攻を経て、静岡県立美術館学芸員。
現在、静岡県立美術館上席学芸員、俳優。
(一財)地域創造公立美術館活性化事業企画検討委員、全国美術館会議地域美術研究部会幹事など。展覧会企画のほか、市内劇団でも活動中。
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12月 SPAC新作
『薔薇の花束の秘密』
演出:森新太郎 作:マヌエル・プイグ 翻訳:古屋雄一郎
出演:角替和枝、美加理
静岡芸術劇場
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