駿府城公園での稽古も始まり、いよいよ初日まであとわずかとなりました。
嬉しいことに完売の日も増えてきております。
これから観劇スケジュールを考えてくださる方はぜひ5月5日千穐楽日がおすすめです。
さて、この作品のみどころのひとつが「仮面」です。
多くの俳優が今回仮面での演技に挑戦しています。
中には自分の顔の5倍や8倍もあるような大きな仮面も登場いたします。
その仮面についてシアタークルーの小野英津子さんがまとめてくださいました。
観劇の前にぜひご覧ください。
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「仮面」と「対面」
フランス人の文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロース(1908-2009)は、アメリカ北西岸インディアンの仮面に強く惹きつけられ、研究しました。ナチスから逃れてアメリカに移った彼が1941年、ニューヨークの米国自然博物館で展示を見たのがきっかけです。
彼の研究の基本姿勢は仮面の象徴するイメージを主観に頼って印象的にまとめるのではなく、様々な仮面をきめ細かく分析対比し、部族間交流の影響によって、目や口、舌などのどの部分がどのように変形したか、その関連性を浮かび上がらせることにあります。「一つの仮面とはそれ自体は存在せず、その傍らに常に存在するものとして、その代わりに選ぶことのできるような現実の仮面を前提としている。」と主張しています。各々の仮面は部族独自のものとして考えるのではなく、時空間を見据えた関係性を解き明かしつつ、同時に社会・経済の構造をも浮かび上がらせるというレヴィ=ストロースの特徴が仮面研究においても存分に活かされています。父親が画家で、芸術家が頻繁に出入りしていたという家庭環境が、特に仮面研究においては底力として効いているようです。彼は仮面の色彩に生き生きと反応し、細部の変化を正確に捉えています。(例えばパブロ・ピカソのアフリカの仮面に対する興味の抱き方とはかなり違います。)
さて、今回の劇「イナバとナバホの白兎」では、仮面がたくさん登場します。幾つかを取り上げると「スサノオ」、「蜘蛛女」、「ビーバー」、「太陽」です。仮面が何を語り、何を語ろうとしていないか、観客の視線をどんな風に吸収し、時にはね返すのか?劇全体に通じる仮面の役割は一体何なのか?神話に寄り添う劇ゆえに現代に生きる役者は自らの顔立ち、それに伴う個性を隠すためだけに仮面を利用しているのではなく、仮面に委ねて何かと交流しようとしているのか?皆さん一人ひとりの目で見つめてください。
ところで、北西岸インディアンの仮面は木で作られており、仮面の裏側、つまり顔に接する部分は平らなままだったそうです。「イナバとナバホの白兎」上演に向けて、役者の呼吸や動きを妨げないように、製作スタッフはどんな材料を駆使し、工夫を凝らしたのだろうか?インディアン部族特有の様式美は果たして今回の仮面に反映されているのだろうか?野外劇場の利点を際立たせるため、大胆なデザインが採用されているのだろうか?仮面と衣装のバランスはどうか?等々、製作スタッフ一同力作の仮面作品に想いを巡らせると、また別の面白さが生まれてくるかもしれません。
これらも含めて、どうぞたっぷりじっくり舞台の「仮面」と観客席から「対面」してください。さてどのような仮面が最終的に野外劇場に登場するか、ご期待!ご期待!
最後に一言。レヴィ=ストロースは青年時代、オペラの衣装と舞台装置を描いて余暇の大半を過ごしたとか。ある時期限りなく舞台が好きだった彼を、イナバの白兎ゆかりの地、ここ日本での上演に招待したかったと個人的には思っています。
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ふじのくに野外芸術フェスタ2016
フランス国立ケ・ブランリー美術館開館10周年記念委嘱作品
『イナバとナバホの白兎』
5/2(月)~5(木・祝)
駿府城公園 紅葉山庭園前広場 特設会場
◆公演の詳細はこちら
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