『高き彼物』出演者インタビューの4人目は、藤井秀一役の石倉来輝さんです。
石倉さんは、藤井秀一と同じ18歳。そして静岡での稽古期間は、初めての一人暮らしにも挑戦中。オーディション合格の喜びからここまで、石倉さんは何を考え、どのように過ごしているのでしょうか。
(収録は第一期稽古最終日2016年8月31日に行いました。)
–石倉さんが演じる藤井秀一はどういう人物でしょうか?
昭和53年の東京に住んでいる高校3年生です。受験勉強のため、長野で行われる予備校の夏期合宿に参加する予定でしたが、あることがきっかけで、猪原家の元でお世話になっています。性格は僕と正反対で、思ったことがあまり表に出ないし、溜めこんで思いつめちゃうような子です。揺るぎない自分を持っていて、自分が違うなと思うことをちゃんとわかっているのに、それを表に出さないのは彼のよくないところだなと思います。
–正反対なのですね。
僕はこの春まで秀一君と同じ高校生だったのでわかるところはありますが、秀一君ほど自分の核がないし、彼は進学校に通っているし、自分にはない経験をしています。それに、僕は思ったことが身体や言葉に出やすいところもあって、役との溝があるなと感じています。高校生という子どもと大人の間にいる中で、秀一君は今をしっかり捉えることができているように思います。
–自分と全く違う役とはどのように向き合っていますか。
そうですね。「自分を知る」ことでしょうか。さきほどお話しした「溜めこむ」ということは、秀一君はやるけど自分はあまりしないことだから、まずは自分が普段やっていることを意識するようにしています。自分を知って自分を抑制するというのが、腑に落ちています。……だけど、まだ悩んでいることは多いです。
–藤井秀一と同様、ご自身も現在、東京から静岡に来ていて、先日は川根に行くという経験をしました。そこから役や作品について想像は膨らみましたか。
すごく感じるものがありました。いくつかトンネルを抜けて山にバーっと囲まれた川根町が見えた時、すごく安心しました。初めて川根町に行ったのですが、とても居心地が良くて。秀一君が、川根町の猪原家に落ち着いてしまうのはわかるような気がします。秀一君もこうだったのかなって合点がいきました。
–秀一は川根町にある前山橋の辺りでバイク事故を起こし、友人を一人失っています。実際に前山橋の近くまで行ってみていかがでしたか?
他人事には思えなかったです。稽古で古舘さんが、僕たちのことを役名で呼ぶことがあるので、知らないうちに自分と役の境界線が曖昧になっているという不思議な感覚があります。そういった状況の中で秀一君にとって重要なところに行くと、自分にしかわからない重たい空気がありました。
自分が経験した訳ではないけれど、他人事でなくなっている感覚です。
–今年の4月に出演者オーディションが行われ、本作への出演が決まりました。応募した動機をお聞かせください。
僕は3月まで演劇の専攻がある高校にいました。演劇でご飯を食べていきたくて卒業後に色々と探している中で、このオーディションを見つけました。受かるとは思っていませんでしたが、いい機会だからダメ元で当たって砕けろと思って受けました。だから電車の中で合格通知を見た瞬間は忘れられないですね。オーディションを受ける以前にSPACの作品は観たことがあって、感動したし、すごいなという印象があったのでなおさらです。
オーディションでは、『高き彼物』の一部のシーンをリーディングしたのですが、その時に「この稽古場に通いたい!」って強く思いました。実際の稽古は僕にとってすべてが新しくて、一瞬一瞬が血肉になっている感覚があります。もっと吸収したいって欲が出てます。
–稽古場でとても積極的な姿を見ているので、その理由がわかりました。
稽古場ではまだまだ出来ないことも多くて、皆さんの足を引っ張ってるんじゃないかって悩んだりもしているので、積極的と言われるのは意外でした。すごい俳優さんばかりで日々学びです。
–演技するのが好きなのですね。
自分でないというのがいいのかもしれません。みんなに伝わるように自分のことを自分の言葉でしゃべるのが難しくて、得意ではないんです。一方、演技だと戯曲とかフィクションという共通言語の力を借りて対話が出来る、人と知り合って揺さぶり合えるので、生きている実感があります。
–藤井秀一という人物をどのように演じていきたいですか?
藤井秀一になるというよりは、僕が藤井秀一というフィクションを借りて、舞台上にどういるかというのを考えています。秀一君のように、高校生は大人になると気にならないような些細なことに思い悩んでがんじがらめになってしまうこともありますが、それはすごく美しいことだなと思います。それを、秀一君を通じて表現したいですね。
–上演に向けての意気込みをお聞かせください。
まだ経験の少ない自分が舞台に出ることになるので、自分の経験も身体も全て使って、『高き彼物』という話を通じて今見つめるべきものを大切にしたいと思っています。この機会を頂けたことに感謝し、『高き彼物』という話に自分自身の経験も身体も全てを投じて、今見つめるべきものを表現したいと思っています。
–ありがとうございました。
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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯2
『高き彼物』
一般公演:11月3日(木・祝)、5日(土)、13日(日)、19日(土)
演出:古舘寛治 作:マキノノゾミ 舞台美術デザイン:宮沢章夫
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
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