宮城作品を彩る数々の音楽を手掛けてきた棚川寛子さん。
その作曲の舞台裏に迫るインタビューの後編をおおくりします♪
【前編はこちら】
(本インタビューのショートver.は、12/15発行の「グランシップマガジン」に掲載されています)
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――棚川さんは、もともとは舞台で演技をする側だったと伺いました。俳優をしていたときの経験が役に立っていると感じることはありますか?
それはあると思います。練習中に俳優から、「ここは音が大きすぎる」「私の台詞が聞こえないから、音楽はもっと小さい音で演奏してくれない?」といったオーダーが入ることがあるんです。そういうときは、私自身も演技をしていましたから、「それはそうかも」と理解できます。ですが、舞台音楽の作り手として「この場面では絶対に音を入れたい」という譲れない部分はありますし、宮城が「この場面には音楽を入れて」と指示する場合もあるので、そのあたりはもうお互いせめぎ合いですね。
――舞台音楽を作る上で、棚川さんが大事にしていることを教えてください。
芝居全体の流れ、でしょうか。台本をもらったら、「芝居全体をどう見せるのか」「宮城はこの作品をどう着地させたいのか」といったことをまず考えます。そうやって作品を俯瞰してから、次に、じゃあ音楽はどうしようか、と全体を通しての音楽の戦略を立てて、そこから場面ごとの曲を作ることが多いです。
テンポ感も大切にしています。どんなに素晴らしい作品であっても、お客様の集中力が途切れる瞬間ってあると思うんです。それを見計らって、あえて演奏をストップしちゃうとか。無音も音楽なんですよね。急にまわりが静かになると、「ん?」とちょっと気になっちゃうみたいな、あの感じです。芝居の流れが悪くなりそうな場面でわざと曲のテンポを上げるケースもあります。お客様の期待に時に応えたり、時に裏切ったり、バランスを上手く取りながら曲を構成する、といえばいいのでしょうか。そのあたりのことを意識しながら作っています。
――舞台音楽の仕事で、どんなときに達成感を感じますか?
上演が始まる前の、「これで初日に出せるクオリティになったな」と感じたときです。ああ、よかった、とつくづく思います。
――棚川さんのお仕事について、宮城芸術総監督が何かコメントされることはありますか?
以前は具体的なオーダーがあったり、作品の稽古に入る前にミーティングをしたりもしていたんですけど、最近は、かなり任せてもらえるようになった気がします。以前は、芝居先行だったんですよ。俳優が読み合せ(俳優が台本を持って、自分の役の台詞を動きをともなわずに読む稽古のこと)をして、そのあと動作をつけて、それを見て音楽を作るという段取りだったんです。それが最近は、稽古が始まって俳優が読み合せをはじめる前に、「じゃ、音楽から行こうか」と無茶ぶりされることが増えました。そんなときは、「きたー!曲からかー!」と頭を抱えます。まあ、音があったほうが俳優が稽古しやすい、という宮城なりの配慮なのかもしれませんが。
――棚川さんから見た、「宮城芸術総監督のここがすごい!」というところがあれば教えてください。
面倒くさいことを避けないところが魅力かなと思います。
宮城は、「まあよくもこんなにいろいろな役者を揃えたな」と感心するぐらいの人数で演劇をやるんです。20~30人近い俳優が出演することもあります。俳優が多ければ多いほど制作は大変です。意見をまとめるだけで一苦労ですし、俳優によって作品に対する消化スピードも違いますから。ある面においては、少ない人数で芝居をしていたほうがラクかもしれません。それでも、わざわざそれだけ人数を集めてやるのはなぜか。宮城はよく「祝祭音楽劇」という言い方をしますが、宮城が言う祝祭性というのは、音楽や演劇そのものというよりは、年代も性別も、ときには人種も違う多様な人間がオンパレードでいる、その状態を指しているのだと思うんです。多様な人間がたくさん集まってアンサンブルな芝居をする。それ自体が、社会生活の縮図になっていて、私にはそこがすごく魅力的に映ります。同時に、恐ろしく面倒くさくもあるんですよ(笑)。でもそこを避けては面白いものは作れないと私は思いますし、宮城自身もそう感じているのではないでしょうか。面倒くささのその先にある豊かな何かを、宮城はこれまでの経験から知っていて、だから敢えて少人数の芝居はやらないのではないか、と思うんです。
誰もが避ける面倒くさいところから逃げないのが宮城の魅力だ――。そうわかっていても、いざ制作が始まるとケンカもします。怒鳴り合った末に、「もうあなたとはやりません!」と宣言したこともあるくらい(笑)。それでも、演劇を通して宮城が見たいと思っているものと、私が見たいと思っているものが似ていることもあって、「『まあこんなものでいいか』という作品を作るよりは、面倒くささの向こうにある豊かさみたいなものを少しでも形にできて、それを観てお客様が感動してくれるほうがいい。だったら、もう少し一緒にやってみようか」と自分に言い聞かせながらやっている感じです(笑)。
――今後、こんな活動をしてみたい、といった展望はありますか?
音楽だけをつくりたいとか、バンドをやりたいとか、そういったことは全然思わないんですよね。私にとって舞台音楽は、俳優の芝居と一緒になってようやく完成するもの。「こういう曲の展開は今度やってみたいな」「この楽器使えそう」と思うことはありますけど、音楽が主役になるようなものは特に望んでいません。
――最後に、2017年1月から連続上演となる、「シェイクスピアの『冬物語』」と『真夏の夜の夢』それぞれの観どころ・聴きどころを教えてください。
『真夏の夜の夢』は再再演となります。野田秀樹さんの脚本がとにかく面白く、台詞のリズムもすごくいいんです。だから、曲作りはとてもスムーズでした。そんなテンポの良さや、華やかな雰囲気を楽しんでほしいですね。恋あり、ギャグありでわかりやすいストーリーも魅力で、演劇を観たことがないという方にもおすすめです。
『冬物語』については、舞台音楽の制作はまだこれからという段階でして、どんなものになるのか現時点でまったく見えていません(笑)。今回は制作期間がタイトなので、時間との戦いになるだろうと覚悟を決めています。
観どころとしては、本作は、演技をする俳優「ムーバー」と、台詞を話す俳優「スピーカー」が2人で一役をこなす宮城の代名詞とも言うべき手法で行います。シェイクスピア作品の上演スタイルとしては、類をみないものになると思いますので、その新しいチャレンジを見てもらえたら嬉しいですね。
また、宮城はよく、「役者の動き、台詞、音楽が三位一体にならないといけない」と言っています。私も俳優も、三位一体を通してはじめて立ち現われてくる何かを探し求めていますので、ぜひ皆さんにも劇場でそれを感じていただけたらと思っています。
2016年10月 静岡芸術劇場にて
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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯4
シェイクスピアの『冬物語』
一般公演:1月21日(土)、22日(日)、29日(日)
2月4日(土)、5日(日)、11日(土)、12日(日)
演出:宮城聰 作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:松岡和子
音楽:棚川寛子 出演:SPAC
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
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