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2019年4月26日

『コンゴ裁判』~「演劇」を使って世界に介入する~

SPAC文芸部 横山義志

ミロ・ラウの『コンゴ裁判』は、昨年のアヴィニョン演劇祭で見たなかで、最も刺激的な作品の一つでした。一度だけ小さな映画館で上映されていた映像作品なのですが、これほど演劇が「世界を変える」ことができると実感させられたことは近年なかなかありませんでした。

ミロ・ラウはスイス出身で、「国際政治殺人研究所」という奇妙な名前のパフォーマンス集団を主催しています。ふじのくに⇄せかい演劇祭では2013年に、ルワンダで民族虐殺(ジェノサイド)を煽動したラジオ局を舞台にした『HATE RADIO』を発表してくれました。これもまさに「政治による殺人」をテーマにした作品でした。ラウは昨年からベルギーの公立劇場NTヘントの芸術監督に就任しています。

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▲『HATE RADIO』舞台写真
 
ラウは作品づくりやリサーチのためにしばしば紛争地域を訪れていますが、そういうときには「ジャーナリストとか映画監督とかいうとなかなか検問を通れないが、「演劇をやっている」といえば笑って通してくれる」といいます。いかにも社会的影響力がなさそうだから、というわけです。この『コンゴ裁判』は、まさにこのような今日における演劇のイメージを逆手に取った作品といえるでしょう。

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▲映画『コンゴ裁判』ポスター

ルワンダでの虐殺とそれにつづく内戦は、やがて隣国コンゴで、アフリカ内外の数多くの国を巻き込む戦争へと発展していきます。「第三次世界大戦」とも呼ばれ、600万人以上の犠牲者を出したこのコンゴ戦争を取材するために、ラウは『HATE RADIO』のあと、何度もコンゴへと足を運んでいました。そしてある日、たまたま訪れた村で、前夜に虐殺が起きたことを知ります。ルワンダに隣接するコンゴ東部では、大規模な戦争が収まった今でも、小規模な紛争や虐殺がしばしば起こっています。何人もの方が亡くなっても、加害者が裁かれることはまずありません。そこで、ラウは「お芝居の法廷」をつくることにします。

ラウは「演劇をやるのでぜひ出演していただきたい」といって、地元の州知事や、警察を所管している内務大臣にまで声をかけ、本人役で「出演」してもらうことに成功します。そして本物の証人や関係者を呼び、ハーグ国際刑事裁判所で多くの虐殺事件などを扱ってきた弁護士にも判事として参加してもらいます。

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▲『コンゴ裁判』より

そこで浮かび上がってくるのは、山間の小さな村で起きた虐殺の背景に、国や地方自治体と多国籍鉱山会社との癒着があり、さらにはそれを支える「国際社会」がある、という巨大な構図です。携帯電話、ゲーム機、コンピュータなどに欠かせないコルタン(タンタル)という鉱物は、埋蔵量の6割~8割がコンゴにあるといわれています。その産出地域が長年政治的に不安定な状態に置かれているために、極めて過酷な条件で働くコンゴの方々によって、それが比較的安値で供給されている、という現状があります。今多くの人が使っているスマートフォンを作るのにも、コルタンが欠かせません。日本も当然、この状況と無関係ではありません。1998年にはじまった第二次コンゴ戦争は「プレイステーション戦争」とも呼ばれ、2000年に発売されたPlayStation2の大ヒットによってコルタンの市場価格が急騰したために紛争が再燃したと言われています。

今、コンゴでは、この『コンゴ裁判』の上映会を通じて、各地で同様の模擬法廷をつくる動きがあるといいます。「演劇」という仕組みを使って世界を描き出し、世界に介入しつづけるラウの仕事を、ぜひ体感していただきたいと思います。

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<ドキュメンタリー映画>
『コンゴ裁判 ~演劇だから語り得た真実~』
脚本・監督:ミロ・ラウ
製作:フルーツマーケット、ラング・フィルム

公演日時=4/27(土)、4/28(日)各日15:00
会場=グランシップ 映像ホール
上演時間=100分 ※フランス語上映/日本語・英語字幕
*詳細はコチラ
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