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2021年7月30日

『忠臣蔵2021』を終えて~制作レポート~


 
 こんにちは、制作部の鈴木達巳です。
 去る6月5日・6日、舞台芸術公園 野外劇場「有度」で行われた『忠臣蔵2021』は、無事に閉幕いたしました。ご来場いただきました皆様、ありがとうございました。(舞台写真は演目紹介ページにもたくさんアップしていますのでぜひご覧ください。)

 市民参加劇として17年振りに上演された本作は、どのようにして作られていったのか。今回のブログでは、3月中旬より始まった顔合わせから振り返っていきたいと思います。
 
バラバラからのスタート


▲3月13日、静岡芸術劇場で行われた顔合わせ

 稽古初日。SPACにとって久方ぶりの市民参加劇は、制作担当の私にとって、期待と不安が入り混じる幕開けでした。
 42名の市民参加者は、10代~80代までと幅広く、経歴もバラバラ。スムーズな稽古、運営が出来るよう準備はしてきましたが、それでも各々が抱える大小様々な心配事をどこまでケアしていけるか担当制作として不安でした。
 
エネルギー溢れる稽古場


▲リハーサル室で行われたダンス稽古
 
 私の不安とは裏腹に、稽古場は前向きな雰囲気に満ちてました。
 その理由の一つに、「一年越しの参加」というのが関係していたのかもしれません。
 『忠臣蔵2021』は元々『忠臣蔵2020』として、昨年8月にグランシップ大ホールでの上演を予定していました。しかし出演者募集の最中、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて中止に。集まった参加者みなさんの「今、SPACとともに舞台に立って表現したい」という想いには、私たちスタッフもたいへん励まされました。
 

▲演出家から指示を受けて稽古に取り組む参加者
 
 また今回の参加者の中には、17年前の『忠臣蔵2004』にも参加された方がいたり、SPACの県民参加体験創作劇場やシアタースクールなどに参加した経緯で応募された方もいました。

*第1期稽古(前半稽古)の様子は下記リンクからもご覧いただけます。
◆<ブログ>2021/4/20 『忠臣蔵2021』第一期稽古(3・4月)をふりかえって
◆とびっきり!しずおか 土曜版「エール・シズオカ・カルチャー」(前編・後編の2本)

 
参加者との積み重ねで作られていく舞台


▲舞台芸術公園で行われたマスゲームの稽古
 
 5月中旬より再開された稽古は、本番で披露する演舞など、本格的なものへとシフトしていきました。
 参加者の成長度合いもまちまちで、なかなか進まない稽古ではありましたが、牧山、寺内の両演出家は、焦らずじっくり参加者と向き合って作品作りをしていきました。そこにはこのコロナ禍の時期でも参加したいという気持ちに応えたいという想いがあったのではないでしょうか。
 

▲演出助手・大橋(写真右手)からの報告を受け、ディスカッションする牧山(写真左)と寺内(写真真ん中)
 

▲演奏隊に細かな指示を伝える音楽担当の棚川(写真右手上部)
 
 後半の稽古からは、参加者も教わるという立場から一緒に作っていくという姿勢へと変化していきました。
 

▲クリエイションに関してSPAC俳優と参加者で稽古の合間も熱心に相談
 
 参加者からのアンケートには、
練習を重ねていくたびに「次はこうしようかな」と思えるようになったり、自分の殻をどんどん破っていくことができた。(20代)

限られた稽古時間の中で自分は何が出来るか、常に模索しながら、楽しみながら稽古場へ通いました。(20代)
といった声がありました。
 
『忠臣蔵2021』は彼らの物語だった

 そして本番。作品の冒頭は、昨年の公演が中止になり、今年の公演を迎えたという演出から始まります。この瞬間からこの作品は赤穂浪士達の話だけではなく、参加者の2021年の姿をも映し出す作品になりました。昨年から続くこの状況下で舞台に立ちたいと思い、集まった者達が一つの目的(舞台上演)を遂行しようとする様は、赤穂浪士と重なるのではないでしょうか?
 

▲物語序盤、参加者が『忠臣蔵2021』に応募している様が描かれる
 
 終演後の観客アンケートには、
とても面白く、考えさせられるお芝居でした。物語は少し難しい内容でしたが、表現が色々あって、それを幅広い年代の方々が思い思いに演じられている様子がとても素敵でした。(10代)

演劇は題材が何であっても現在の私たちを表現するのだと実感しました。(60代)

最後に拍手が鳴り止まない会場全体の臨場感と演者さんとの一体感には感激しました。(40代)
などの感想が寄せられました。


▲物語終盤では、参加者一人一人の写真が本人達によって掲げられる
 
「忠臣蔵2021」の根を深く、枝葉は広がる
 『忠臣蔵2021』は閉幕後、新聞等複数のメディアに取り上げて頂き、広く活動内容を伝えることが出来ました。
◆2021.6.7掲載 ステージナタリー
 SPACが“切なさ”と“お祭り感”と共に立ち上げた「忠臣蔵2021」が閉幕
◆2021.6.18掲載 静岡新聞
 苦節1年 悲願の公演 SPAC「忠臣蔵2021」

 
 そして参加者からも公演後、数多くの感想を頂きました。
 

 
大勢の仲間と創り上げる喜びも、しっかり味わう事ができました。本番の舞台には、想像以上の感動がありました。(60代)
 

 
『忠臣蔵2021』での1番の収穫は、年齢層も経験値もバラバラながら志が同じ心優しく楽しい仲間達に出会えたことだと思います。 この仲間の一員として、1つの作品を作り上げられたこと、私の「人生の中の楽しいことTOP10」に入ります!(50代)
 

 
稽古では皆さん凄いなと思うことばかりでした。演技に対する姿勢はとても勉強になりました。 演技は好きだけど自分には向いていないと思っていましたが、好きな気持ちを大切にしつつ1歩踏み出すことが大切だと分かりました。(20代)

 こちらは感想の一部を抜粋したものですが、感想文はどれも熱量が高く、長文で感想が綴られていました。
 またこういった観点の感想もありました。


 
感染症対策についても徹底されていて, 安心して参加できる現場作りをしてくださいました。スタッフの皆様にも感謝しています。とても充実した時間でした。(20代)
 

 
SPACの裏面が見れた。具体的に言うと演技していない時の役者、舞台や衣装を作るスタッフと会う事が出来た。(20代)

プロの俳優さん スタッフさんの演技や働きを毎日間近に感じ、貴重な時間を過ごす事が出来て幸せでした。(60代)

 今回は稽古前から稽古場や劇場を解放していたこともあり、スタッフが稽古から本番までどういったことを仕事をしているのかを見てもらう良い機会となりました。
 これもあってか参加者のアンケートには「舞台装置、照明、音響などの裏側をみる機会があれば嬉しい」「制作研修を受けたい!」といった感想もありました。
 
 『忠臣蔵2021』で生まれた交流はSPACだけに限らず、演出助手や俳優として参加した県内劇団の方との間にも生まれました。終演後の現在、県内劇団の公演に足を運ぶ参加者も現れ、地域交流の芽吹きを見せています。
 また今回、県外からの参加者も少なからずおり、SPACの活動を県内の枠を超えて知ってもらう機会にもなったかと思います。


▲終演後、出演者、スタッフ一同の集合写真
 
 どんな作品になっていくのだろうと稽古初日は不安でしたが、こうして終えてみると、参加者の想いが多層刷りされて完成した『忠臣蔵2021』という錦絵は、今現在しか作れない鮮やかさを持ち合わせました。
 SPACの役目は公立文化事業集団として、こういった県内外の交流を生むような発信、刺激を継続して行っていくことではないかと思います。今回の公演はそのことを気付かせてくれる事業でした。
 参加者の皆様、またご来場いただきました皆様、本当にありがとうございました。

文:鈴木達巳(制作部)

◆関連リンク
【SPAC リーディング・カフェ2021】Vol.1『忠臣蔵』