◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」パンフレット連動企画◆
『桜の園』出演者に聞く!
SPACでは「SPAC秋→春のシーズン」を中心に、中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」を実施しています。「SPACeSHIPげきとも!」では、あらすじや作品について考えるヒントが書かれた公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。
『桜の園』のパンフレットには、ラネーフスカヤ役の鈴木陽代とロパーヒン役のカンタン・ブイッスーの出演者二名による対談の様子を掲載しており、今回のブログでは、このインタビューのロングバージョンを掲載します。
※一部ネタバレを含むため、作品内容を知りたくない方は、観劇後にお読みください。
――『桜の園』という作品の魅力について教えてください
鈴木 そもそも『桜の園』というタイトルが美しいですよね。でもタイトルからのイメージと、実際の物語の内容とはだいぶ違っています。この物語は生々しくて、攻撃性があって、時には死の匂いがする。人の死に対して耐え切れなくて、逃げようとするけれども逃げ切れない。そういう生にともなう痛みについて触れている話だということは、このタイトルからなかなか想像できないと思います。
ブイッスー この物語は、ひとつの家族とその家族をよく知る人物たちの関係性で作られています。登場人物のどうでもいいようなおしゃべり、小さな言動の積み重ねが、ある日突然、まったく違う方向に走り出してしまう。そういうところが面白い話だと思います。人生はこの芝居での会話のように、笑いから悲しみに一瞬で変わってしまう。それを描いているのが魅力だと思います。
鈴木 本当にそうなんです。なんだか笑っていたと思ったら、急に悲劇がポンッ!とやってくる。実は前兆として、会話の中にずっと不幸の種みたいなものがあって、それが登場人物たちも全然気づいていない状態でとつぜん発芽してしまう。
――お二人の演じられる役についてはどう思われていますか?まずはラネーフスカヤについて。
ブイッスー ラネーフスカヤは、いつも中心にいる人物だと思います。この芝居では、物事が、常に彼女の周りで起こっていく。彼女の周りにいる人々はかならずしも良い人ばかりではないし、そういう人が周りにいること自体が彼女の欠点だとも思えますが、彼女は周りの人から期待されており、なにかするのを待たれている人だと感じます。確かに言えることは、そんなラネーフスカヤ自身に、周りの人を利用するという考えはない。そんな人物だと思います。
鈴木 チェーホフ作品は人物関係が複雑に絡み合っているので、一人の人物だけを挙げて、どういう役かというのを説明するのはなかなか難しいものがあるんです。従来、ラネーフスカヤという役は毅然とした女領主、女主人という描かれ方をしてきたし、そんなイメージが付いてしまっている気がしますけれども、今回演出家のダニエルと一緒にお芝居を創っていくうちに、ラネーフスカヤはもっともっと生々しくて人間味があふれる人物になりました。毎日の稽古で、「ラネーフスカヤは単なる役ではなく、肉体を持った人間なんだ」という意識が、私の中で日々更新されています。
▲ラネーフスカヤを演じる鈴木陽代(稽古風景より)
――ロパーヒンについてはいかがでしょうか。
ブイッスー 彼についてとなると、これはなかなか難しい質問になるんですよ。私が演じるロパーヒンは、「桜の園」で生活している他の人達の考えとは関係なしに、自分の計画をどんどん進めていこうとする人です。だから皆のことを何もわかっていないのだけれども、同時に全てがわかっている人とも言えます。
鈴木 ラネーフスカヤとロパーヒンは、登場人物の中では一番対照的な二人だと思います。ラネーフスカヤは貴族だけれども今は没落している。一方ロパーヒンは低い階層の出自だったけれども、今は億万長者になっている。お金や教養の面でも全てがあべこべの二人だと思いますが、「桜の園」という大きな一つのトピックによって二人は繋がっている。変な話ですが、稽古をしていく中で、ラネーフスカヤは無意識に、桜の園から逃れたいと思っているのではないか、と思い始めていて。そうなると生まれも育ちも全然違うロパーヒンが、ラネーフスカヤを無意識に縛っているものをカットする運命を背負っているとも考えられます。このことは、とても興味深いと思います。三幕でロパーヒンが「(桜の園を)私が買いました」と言いますが、勿論それはショックなことだけれども、同時に彼女には不思議な安堵感があって。桜の園を買ったのが彼で良かったんじゃないか、とさえ思えてくるのが不思議ですね。
▲ロパーヒンを演じるカンタン・ブイッスー
――今回は、日本とフランスの俳優が一緒に作品づくりをしていますが、いかがですか?
ブイッスー 演劇は言葉の問題ではなくて、他の人との出会いが一番重要だということがわかりました。そしてそのことを通じて、自分自身を深く信じることができました。
鈴木 一ヶ月くらい稽古をしていて、聴くことの大切さをあらためて実感しています。フランス語を自分にとってわからない言語だととらえず、相手が音声として発する言葉を超えた、身体的な言語として受けとる。そのために、「聴く」ということに集中するんです。
——演出家のダニエルさんはどんな方なのか教えてください。
鈴木 ダニエルと一緒に創作していると、ふんわりした概念的な『桜の園』というものが、生きている人間達の、血が通い合った物語を象徴するものとして焦点を結びはじめます。ほんわかとした会話の中の何気ない言葉に、実は棘があって傷つけ合っていたり、誰かを愛してるという台詞の中に、なにかを強く切り捨てているという裏の意味があったり。動きや台詞ひとつひとつにおいて精神的にも肉体的にも負荷のかかる演出で、俳優としては毎日大変なんですけれども、自分にとってはチャレンジングで面白い探求の場を、彼から与えてもらっているように感じています。
ブイッスー 陽代さんがおっしゃることはよくわかります。ダニエル自身が探しているものはいつも非常にシンプルで、洗練された、芝居の大きな芯になるものです。非常に面白いのは、最初ダニエルと私は別なものを探しているようだけれども、そのうち、結局同じものを探していたんだということが分かる時がある。その瞬間は私にとって非常にエキサイティングなもので、私はそれを刑事の捜査のようだと感じます。つまり私たちは別々の刑事で、異なる事件を追っていたのだけれど、犯人は共通だったということです。
▲演出家 ダニエル・ジャンヌトー(左)とアーティスティック・コラボレーター ママール・ベンラヌー(右)(稽古風景より)
――最後に、上演にむけての意気込みをお願いします。
鈴木 演劇はいつも「今」ということに密接に関係している芸術だと思います。特に『桜の園』というお芝居は、新しい時代を迎えざるをえない登場人物たちがどうなってしまうのか、また、その人たちの言動を見て、私たちはどう思うのか、といったところが楽しみ方のひとつです。みっともないと思うのかもしれないし、おもしろいなと思うかもしれない。でもこのお芝居を通して、人間というものを少し離れたところから眺めることができる。そのとき何を思ったかは、私たちがこれから新しい時代を生きていくのに、きっと役に立つだろうと思います。
ブイッスー 観る人の感性を刺激して、その人たちの価値観や人生が広がるような作品になるように頑張りたいです。
▲芸術劇場での夏の第一期稽古の様子
2021年8月29日 静岡芸術劇場にて
(聞き手:SPAC制作部・鈴木達巳)
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SPAC秋→春のシーズン#2
『桜の園』
演出・舞台美術:ダニエル ・ジャンヌトー
アーティスティック・コラボレーション、ドラマツルギー、映像:ママール・ベンラヌー
作:アントン・チェーホフ
翻訳:アンドレ・マルコヴィッチ、フランソワーズ・モルヴァン(仏語)、安達紀子(日本語)
出演:鈴木陽代、布施安寿香、ソレーヌ・アルベル、阿部一徳、カンタン・ブイッスー、オレリアン・エスタジェ、小長谷勝彦、ナタリー・クズネツォフ、加藤幸夫、山本実幸、アクセル・ボグスラフスキー、大道無門優也、大内米治
<静岡公演>
2021年11月13日(土)、14日(日)、20日(土)、21日(日)、23日(火・祝)、28日(日)
12月12日(日)各日14:00開演
会場:静岡芸術劇場(グランシップ内)
<磐田公演>
2021年12月3日(金)13:30開演
会場:磐田市竜洋なぎの木会館 大ホール
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★パンフレットは一般公演の物販コーナーにて1部200円でお買い求めいただけます。観劇の記念にぜひどうぞ。