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2021年11月19日

『桜の園』ブログ#3 開幕!&アーティストトークレポート 

SPAC秋→春のシーズン#2『桜の園』がいよいよ開幕しました!
演出家・俳優・スタッフ計9名のフランスからのメンバーとともに創り上げてきた日仏国際共同制作・新作です。
今回のブログでは、一般公演初日の関連企画として行われたアーティストトークをレポートします。(作品内容に言及しています。)

★あわせてお読みください★
ステージナタリー
【開幕レポート】SPAC「桜の園」開幕、ジャンヌトーが手応え「この国際共同制作が実現したのはひとつの勝利」 


 

登壇者:
岩井秀人(作家・俳優・演出家)
ダニエル・ジャンヌトー(演出・舞台美術)
ママール・ベンラヌー(アーティスティック・コラボレーション、ドラマツルギー、映像)
司会:横山義志(SPAC文芸部)
通訳:石川裕美


岩井秀人(いわい・ひでと)

作家・演出家・俳優。2003年に劇団ハイバイを結成。2012年NHK BSドラマ『生むと生まれるそれからのこと』で第30回向田邦子賞、2013年舞台『ある女』で第57回岸田國士戯曲賞受賞。近年は、パルコ・プロデュース『世界は一人』の作・演出、フランス国立演劇センター ジュヌヴィリエ劇場『ワレワレのモロモロ ジュヌビリエ編』構成・演出、NHK Eテレ「オドモTV」内『オドモのがたり』構成・出演を務める。俳優としては舞台『キレイー神様と待ち合わせした女ー』など。2020年から『いきなり本読み!』などプロデュース企画も積極的に行う。

 
岩井さんのプロフィール中にある、フランス国立演劇センター ジュヌヴィリエ劇場は、本作演出のダニエル・ジャンヌトーさんが2017年よりディレクターを務める劇場です。(出演者のオレリアン・エスタジェさんの本業は翻訳・通訳者で、『ワレワレのモロモロ ジュヌビリエ編』制作時には、通訳として大活躍だったそう!)

トークは、岩井さんが事前に「そもそもなんでこういう<我々に関係なさそうな話>を取り上げるのか、とかを聞こうと思います。」とTwitterに投稿していたという話から始まりました。
岩井さんは開口一番「やっぱり今日見て、ほんとそうだなと思いました。」と。
 
岩井/あまりにもイライラしたんで覚えにくい名前も覚えたんですけど(笑)、ラネーフスカヤになんであんなイライラさせられるんだろうって。
僕も作家なんで、もうちょいラネーフスカヤが途中で知恵を利かせるとかして、ロパーヒンの助言を聞いて事業やってみたら意外とうまくいったり、手品師が意外にも役に立ったとか、もうちょっと展開してもいいんじゃないかなと思ったんですけど。こういうときに死んだ人のことを言うのは悪いんだけど、チェーホフちょっとやっちゃったんじゃないかな、もうちょっと上手に書けたんじゃないかなと(笑)。

『桜の園』中高生鑑賞事業鑑賞パンフレット
パンフレットには人物相関図など、作品を楽しむヒントをたくさん掲載しています。クリックすると電子書籍ポータルサイト「しずおかイーブックス」にリンクします。

 

岩井/そもそも、なぜこういう100年前くらいの戯曲を取り上げるのかっていうところを僕は聞きたいんですよね。これだけ信頼していてお世話になっているダニエルさんだからこそ、それを僕は聞いてみたいって思っていて。

ダニエル/私は全くラネーフスカヤにイライラさせられません。逆にラネーフスカヤあってこそ、この作品をやろうと思ったんです。そしてすごくシンプルに、バカな言い方かもしれませんが、ラネーフスカヤこそが正しいのだと思います。彼女はビジネスあるいは領地を保存していくという物質的な側面ではなく、生きるということを選択したんです。
たしかにロパーヒンは勝利をしているかのようです。たしかに農奴の息子であった彼が、その領地を買うということは、勝利ではあるんですけれども、実際には負けているのだと思います。彼は支配というものに閉じ込められているのです。一方ラネーフスカヤはパリに向かって出発し、もしかしたらまた破滅をするかもしれませんけれども、より強く激しく生きていくということを選ぶわけです。
ですので個人的に僕は、心底ラネーフスカヤと共鳴しています。物質的な所有というものは信じていません。

岩井/なるほど。僕はとにかく、最初から最後までラネーフスカヤが一貫しすぎているように感じて。「失いたくないけど何もしない」っていう選択をしているのはどうして?ってずっと思い続けていたので。どうしてなんでしょうかね。

ダニエル/逆にラネーフスカヤこそ最も変わり、最も行動している人だと考えています。
ラネーフスカヤはこの登場人物たちの中で最も内面的な動き・変化というものを経験しています。つまり、不可逆的な喪失というものを受け入れる、死を受け入れるということです。

岩井/げっ!(笑)

ママール/この『桜の園』というのは、喪の空間を結晶化していると言えます。ロパーヒンというのは、お金を通して自分の過去をある意味破壊して、人生を進めていくわけなんですけれども、ラネーフスカヤは「死」や「失う」ということを感情のおかげで通過していくことができるんです。つまり、息子を失ったこと、桜の園を失うことを受け入れることによって、前に進むことができるようになり、そして、恋愛へと向かって進んでいくのです。


▲舞台写真より。中央左:ロパーヒン、中央右:ラネーフスカヤ
 
こうして、登場人物の捉え方について、違いを楽しみつつ議論したのち、話はそもそもなぜ『桜の園』を上演したかへ移りました。
SPAC-静岡県舞台芸術センターでは、「劇場は世界を見る窓である」という理念のもと、主に「秋→春のシーズン」において静岡県内の中学生・高校生を対象に招待公演を行っています。シーズンの作品は、「もし演劇の教科書があったら載るであろう戯曲」という観点で、洋の東西を問わずセレクト。芸術総監督・宮城聰が演出家に依頼し、古典作品を新しい視点で上演するという枠組みになっています。
 
ダニエル/宮城聰さんより、チェーホフの作品で何かどうですかという話をいただいたんです。元々自分の劇場(フランス国立演劇センター ジュヌヴィリエ劇場)では、ほぼ現代作品しか扱っていません。まさかチェーホフに手を出そうとは思いつきもしなかったけれども、すごく作家としては好きで、日本に来る機会があったからこそ出会えた作品であり、日本への恩恵を感じています。
そして、アーティスティック・コラボレーションについてですが、ママール・ベンラヌーとは一緒に作品づくりをしてかなり長くなります。気づけば15年ほど一緒に作っていて、様々なかたちでの協力関係です。僕と同じだけ演出に関わっていますし、そしていつもお互いにこのクリエーションの空間を補い合うように作っています。そして今回の映像を撮っているのもママールですし、舞台美術も二人で考えました。このような協力関係というのは演劇界ではもしかしたら珍しいかもしれません。

『桜の園』を選んだのは、非常に当時の時代・世界をしっかりと観察している作品だからです。チェーホフは、その当時の時代の本質なところを捉えていると思います。『桜の園』が書かれた1904年当時というのは、まさに、ある世界の終焉そしてある世界の出現という、境目のような時代でした。その後まもなくロシアに革命が起こるわけです。
息も絶え絶えな世界であり、様々な不平等がある世の中でした。それでありながら、様々な未来というものが震えるかのようにして存在していました。まさに私たちが今生きている時代と非常に近いというように感じています。世界中で様々な不平等や惨事などが起こったり、起こりそうになっている、その転換点的な時代であるというのが、今とすごく似ていると思います。まあ100年以上前の作品ではありますが。


▲舞台写真より。舞台奥スクリーンには開場中からママールの手掛ける映像が流れる。
 
そしてトークは再び、戯曲をどう捉えるか・どう演出するか、という話へ。

岩井/見ていて、”時代が変わっていく感じ”は分かるんです。変化に対応して生き残っていく人と、対応できずに時代に飲まれていく人っていう、そこまでは接続して見ることができる。そこから先が、そこまで精神的なことが描かれているというのが、(お客さんとしてついていくには)なかなか難しい。
お客さんとしての機能が僕には欠けていて、欠けているから作り手になったって自分では思っていて、でも僕はそれが自分の才能だと思っているんですけど。

ダニエル/演劇というのは「誤解の芸術」だと思っているので、僕たちがこういうふうに見たからと言って、必ずしも同じように見ないといけないというわけではありません。

岩井/「誤解の芸術」!いい言葉ですね。

ダニエル/今日の岩井さんは自分に賛成してくれる人を探しているんですか?(笑)
岩井さんはそんなふうに仰っていますが、岩井さんの作られる作品は非常にスピリチュアルで全く物質主義的ではないじゃないですか。

岩井/確かに、仲間を探しているのかも。僕の作品もぜひ見に来てください!(笑)
 
お互いに信頼し合っているからこそ、異なる考え方もざっくばらんにぶつけ合う、作品の解釈がより深まる時間になりました。それがゆえにトークが盛り上がりすぎ、、駆け足で最後に岩井さんは感想を付け足してくださいました。
 
岩井/こうやって違うよ・違うよ、ってダニエルと対話するのも僕はすごい面白いなと思います。どっちにしてもチェーホフには死んだ後にちゃんと文句言わなきゃって思ってますけど(笑)。
やっぱりダニエルさんの美術は、やっぱり彼にしか作れないものだなというのはすごく感じました。床面も途中まで砂だと思って見ていて、砂浜なのか、ただの砂地なのか、、いろんなふうに見えたり。背景の映像もすごい綺麗だったし、「うわ、チェーホフやん」て思いながら硬い空気になりそうなところですが、美術の布とかがめちゃくちゃ効いていて、布がコントロールできない感じでずーっと動いていることで柔らかい空気を作って、作品に入りやすくしていたと思います。
 

▲一般公演初日カーテンコール。トリプルコールをいただきました!
 
今週末20日(土)終演後は、2009年の『ブラスティッド』以来ジャンヌトーとSPACのコラボレーション作品を見続けてくださっている、演劇ジャーナリストの徳永京子さんをお迎えしてのアーティストトークを実施します。
公演は12月まで、中高生鑑賞事業公演含め残り12ステージ!12月3日(金)には、磐田市・竜洋なぎの木会館にて出張公演もございます。
日本とフランス、異なる⽂化に⽣きるアーティストたちの共同作業によって⽣まれる新しいチェーホフ『桜の園』をどうぞお見逃しなく。

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SPAC秋→春のシーズン#2
『桜の園』

演出・舞台美術:ダニエル ・ジャンヌトー
アーティスティック・コラボレーション、ドラマツルギー、映像:ママール・ベンラヌー
作:アントン・チェーホフ
翻訳:アンドレ・マルコヴィッチ、フランソワーズ・モルヴァン(仏語)、安達紀子(日本語)

出演:鈴木陽代、布施安寿香、ソレーヌ・アルベル、阿部一徳、カンタン・ブイッスー、オレリアン・エスタジェ、小長谷勝彦、ナタリー・クズネツォフ、加藤幸夫、山本実幸、アクセル・ボグスラフスキー、大道無門優也、大内米治

<静岡公演>
2021年11月13日(土)、14日(日)、20日(土)、21日(日)、23日(火・祝)、28日(日)
12月12日(日)各日14:00開演
会場:静岡芸術劇場(グランシップ内)

<磐田公演>
2021年12月3日(金)13:30開演
会場:磐田市竜洋なぎの木会館 大ホール

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