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2022年4月20日

『ふたりの女』を初演から振り返る③/砂がもたらしたもの

『ふたりの女』出演俳優 永井健二(光一役)

2015年の再演への出演に対し、若干のためらいがあったのは事実だが、稽古期間が初演より短かったこと、あえて臥薪嘗胆に身を投じることも時には必要と思い、出演を決めてみた。

「この6年で、それぞれが俳優として成長し、経験も積んだので、初演の時よりはアングラの身体性を得やすくなっていると思う。なので、少なくとも根太(ねだ)の装置は変えようと思う。ただ、根太でやっていた感覚は残したいので、砂を使って根太のような模様を床面につくり、舞台の進行に合わせて、その砂模様が崩れていく感じにしたい」
これは、再演にあたっての演出家の言葉。

かくして、あの「根太から落ちたら死ぬ」というルールから晴れて自由の身となった(笑)。

衣裳も一新され、露出多めの白塗り患者たちは、グレー&黄色を基調としたポップなものに。
そのほかの役柄も、透け感素材だった衣裳から、既製品ベースの現実感のあるものになり、メイクの白塗り具合も控えめとなった。

配役も、今回は稽古初日からめでたく固定。(初演がイレギュラー過ぎただけなのだが)
初演と再演で、俳優が交代した役もあるものの、ほとんどは同じ出演者で同じ配役。
また、再演ということもあって、演出家不在の「自主稽古の時間」も多く確保でき、ようやく自分の役柄や相手役との関係性について、試行錯誤しながら深めていける環境が整った。

自分に関して言えば、『源氏物語』や能の『葵上』などを踏まえた「葵(葵上)と六条(六条御息所)と光一(光源氏)の関係性」に、より意識を向けることができた。
演出家には、「光一はナイーブでデリケート。登場人物たちに影響されていく感じ。観客が『どっちに転ぶのか分からない』と思える、やじろべえのような存在で、芯が無く、安定していないような感覚で。」と言われ、「ふたりの女性の間で揺れ動く、どちらと決められない優柔不断な感じ」をさらに探ってみた。

学生運動に参加していた光一は、六条と関係。その後、葵と婚約し、六条の存在も忘れていたころ、六条と再会してしまう。2人の間で揺れ動くうち、葵は六条の怨念で病んでいき、光一は六条に抗いながらも、六条へと惹かれていく…
初演では「関係性を表面的になぞるだけになっていたのではないか」という反省もあったが、再演では、この三角関係を内面的にもお見せできたのではないかと思う。

この「境界が無くなっていくような関係性の変化」を意識できるようになったのは、床面が根太から砂に替わった影響も大きい。
砂模様が徐々に崩れていく様子、それは、劇中の関係性の変化とも重なり、砂の変化が演技を後押ししてくれたのだ。

ほかにも、冒頭の患者たちによる影絵ダンスの曲は、EGO-WRAPPIN‘の「Red Shadow」から、在日ファンクの「根にもってます」になり、イメージ的な楽曲から、作品の根底にあるメッセージにも共鳴する楽曲へ。
ラストシーンの光一が六条の首を絞めるところで、再演では「六条が首を絞められながら、光一に砂をかける」という演出が加わり、砂に埋もれてゆくイメージも。
こうした細かな変更が随所に施され、それらの変更は俳優たちの演技にも上手く作用する。そんな相乗効果もあった。

臥薪嘗胆のつもりで臨んだ再演は格段に演じやすくなり、良い思い出を伴って千穐楽を迎えることができた。
「次の再演は、また6年くらい経ってからかな…」
しかし、そのサイクルは4年に縮まりやって来ることになるのだが、それは、また次回。

これは、2019年の『ふたりの女』プロモーション映像。
2015年の上演映像で、砂を使った舞台の効果がよく分かる。
なお、2015年の再演からは唐さんのご意向により、「平成版 ふたりの面妖があなたに絡む」という副題が付き、この映像では見られないが「駐車場係2」という役も追加された。
劇団唐組の舞台では、唐さん御自身がその役を演じられているためか、SPAC版でもその役を演出家が務めている。
そう、『ふたりの女』は「俳優・宮城聰」を観ることができる貴重な作品でもあるのだ(笑)。

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『ふたりの女
平成版 ふたりの面妖があなたに絡む

公演日時:2022年4月29日(金・祝)、30日(土)各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
上演時間:100分
座席:全席自由
演出:宮城聰
作:唐十郎
出演:SPAC/たきいみき、奥野晃士、春日井一平、木内琴子、杉山賢、鈴木真理子、武石守正、永井健二、布施安寿香、三島景太、若宮羊市

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