昨年10月~11月にかけて上演した『ペール・ギュント』には、たくさんの方にご来場いただきありがとうございました。
一般公演初日の2022年10月8日(土)、終演後のアーティストトークでは、国枝学さん(株式会社NTT ArtTechnology 代表取締役社長)をゲストにお招きしました。
宮城聰との対談の様子をご紹介します。
観終わったばかりの舞台の感想からスタートしたトークは、いつしか国枝さんの専門分野である、芸術とデジタル技術の関わりに展開。時と共に退色が進んでしまう絵画、災害などによる被害のリスクがある歴史的建造物、演劇などの舞台芸術をはじめとする無形文化財といった多岐にわたる文化財のデジタル化による保存と継承に取り組む国枝さんは、高い解像度で記録し、実物のような臨場感で再現する取り組みについて、「テクノロジーの進歩により、ようやく作品鑑賞のレベルに耐えうるようになった」と語ります。
日本を代表する文化財のひとつでもある浮世絵。和紙の性質を上手に利用しながら様々な技法を駆使してつくられるため、臨場感ある再現をするためには、絵を「平面」ではなく「立体」として詳細に記録するのだそうです。
そうして作品の色彩や和紙などの素材の質感も含めた多様な情報などが記録された高解像度デジタルデータをモニターに表示することで、作品をズームしてみたりと鑑賞の幅が広がるとのこと。
保全のために展示日数が限られていたり、照度を落としたり、ガラスケースに入っているために近寄って鑑賞できなかったりと、「本物」の作品鑑賞は制約が多いのが大きな課題。
デジタル技術を活用し、限りなく精密に再現したものを様々な場所で鑑賞できるようにすることで、日本中、世界中の方に地域の文化芸術に興味を持ってもらい、「次は“その場所”に行って“本物”を見る」ことにつなげたい、と国枝さんはアツく語ります。
宮城は、モノクロ映像、断片的な資料といった「乏しい記録」をもとに余白を想像して継承することに価値を見出してきたと語ります。また一方で、舞台芸術をデジタルデータとして克明に残していくことで、年月や回数を重ねて変化していく演技をじっくりと味わえる、とも話しました。
最新技術を用いた文化財の保存、活用の未来を切り拓く国枝さんと、古今東西の演劇作品を現代の演出で発信する宮城。活動分野は違えど、両者には共通する文化芸術への想いが感じられるトークでした。
===『ペール・ギュント』上映会のお知らせ===
8KカメラおよびDolby Atmos(R)の機材を用いて収録した高品質な舞台映像を303インチの大画面と大音量で視聴できる上映会が、1月20日に東京で行われます。
ぜひご覧ください!
上映作品:SPAC『ペール・ギュント』(2022年)
上映日:2023年1月20日(金) 16:45~19:00
会場:寺田倉庫 E HALL (東京都品川区東品川2-1-3)
入場無料(事前申込制)
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同日20時からは、宮城が登壇するオンライントーク「アーカイブの利活用について〜公立施設の視点から〜」もあります。
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「天王洲電市 〜記録は感情を通電させる〜」 詳細はこちら
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