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2025年3月18日

ジャネルのインターン日誌 vol.2

フランスで演劇を学ぶ大学院生・ジャネルが約3か月静岡に滞在し、
インターンとしてSPACで体験したこと、感じたこと…。
SPAC新作『ラーマーヤナ』の立ち上げから本番まで、SPACの集団創作の様子を連載でお届けします!
フランス語・英語・日本語の3か国語でお読みいただけます。
<フランス語はこちら>  <英語はこちら

 
『古事記エピソード1/ヤマタノヲロチ』

SPACの俳優たちの仕事をより深く理解するためには、外側から観察するのも興味深いですが、彼らと共にパフォーマンスに参加し、内側から体験することはさらに多くのことを明らかにしてくれます。

私が抱いていた大きな疑問の一つは、「俳優は舞台の上で何を感じるのか?」ということでした。実際、私が読んだ多くの資料の中で、宮城さんはSPACの俳優たちは演じることで死者のエネルギーを感じることができると述べていました。能の「霊が現れる」演目と同じように、俳優たちは場所に宿る魂の器となり、彼らが過去の辛い記憶を再び体験することを助けたり、あるいは生者と楽しい時間を共有し、安らぎを得て成仏することを手助けしたりするのかもしれません。
これは私自身がぜひ体験してみたいことでした。私もまた、目に見えない存在のエネルギーを感じることができるのか、知りたかったのです。

また、私にとって日本語を話すことは決して簡単なことではありません。なぜなら、日本語を学び始めてまだ二年半しか経っておらず、日本語は文法の構造がフランス語とは大きく異なる言語だからです。さらに、フランスでは日本人と話す機会があまり多くありませんでした。しかし、先ほども言ったように、演劇の世界には言葉以外にもコミュニケーションの手段が存在します。私は音楽家として参加することで、俳優たちと異なる形で対話を試みたいと考えました。
また、外国人である私が日本の伝説を語ることに関わるのは、ある意味でその物語により普遍的な次元を与えることになるのではないかとも思いました。確かに、この物語は日本の伝統的な民話の一つですが、私はそれが日本人だけのものではないと考えています。つまり、外国人にもこの物語を聞く権利があり、その伝承に関わることができるのではないかと思ったのです。

そこで私は、『古事記エピソード1/ヤマタノヲロチ』の舞台公演に参加したいとお願いし、宮城さんに許可をいただくことができました。


 
私たちには稽古の時間がたったの3日しかなく、それは本当にとても短い期間でした。俳優たちの仕事の速さには驚かされました。

最初、私たちは別々に作業をしました。「ムーバー」は、過去の公演の映像を見ながら鏡の前で動きを再現しようとし、「スピーカー」は、部屋の反対側で円になってセリフのリズムやイントネーションを確認していました。一方で、演奏者たちは作曲家のひろこさん(棚川寛子さん)の指導のもと、楽譜を学び、楽器を使いこなせるように練習していました。

稽古の初めのうちは、音楽監督の指示についていくのがかなり大変でした。彼女の話すスピードがとても速かったことに加え、私自身が舞台の中でどこにいるべきかを把握するのに苦労したからです。(舞台の脚本をフランス語に翻訳して理解を深めてはいたものの、それでも難しかったのです。)

私には、それまで見たこともない楽器が渡されましたが、それはとてもシンプルな構造で、美しい音色を持つ「トーンチャイム」という楽器でした。

指示を完全に理解するのは難しかったものの、グループ全体の音楽のおかげで、楽譜が次第に直感的にわかるようになりました。自分でも驚いたのですが、ある瞬間には言葉の代わりに楽器を使ってコミュニケーションをとるようになっていました。実際、名前を呼ばれて指示を受けたとき、2回ほど、私は思わず「はい」と言う代わりに楽器を鳴らして返事をしてしまいました。

そして、少しずつ3つのグループが近づいていき、最終的には一つにまとまりました。稽古の終盤になると、3つのグループの間で自然と反応し合う関係性ができていて、それがとても面白かったです。例えば、「スピーカー」は、たとえ自分の出番でなくても、演奏者たちの演奏が聞こえると、反射的にセリフを口にしてしまうほどになっていました。

 
フランスでは、できるだけ多くの舞台作品を観るようにしています。平均すると、週に1~2回は劇場に足を運んでいます。(大学のおかげで、割引価格でチケットを購入できるからです。)

しかし、これまで多くの舞台を観てきたにもかかわらず、SPACの公演で使われる衣装ほど美しいものは、ほとんど見たことがありませんでした。だからこそ、それを実際に着ることができたのは、とても嬉しい経験でした。

もしかすると、日本の方にとっては、ごく普通の衣装なのかもしれません。しかし、私にとっては初めて身にまとう特別な衣装でした。そして、その感覚は普段とは全く違うものでした。

実際、フランスでは、たとえ古典作品であっても、黒いTシャツや普段着で演じることが多いです。見た目としても現代的になり、制作費を抑えられるという理由からです。また、歴史的な衣装を使うこともありますが、リアリズムを重視するためか、装飾性に乏しい場合がほとんどです。

しかし、今回のような衣装は、演技により大きな力を与えてくれると感じました。布の動きに体が引き込まれることで、動作により多くのエネルギーが生まれるのです。衣装は姿勢や身振りにも影響を与え、単なる視覚的な要素ではなく、演技の一部として重要な役割を果たしていると実感しました。

 
私たちは「富士山の日」に、高級ホテルでこの舞台を上演しました。舞台の背景の壁は大きなガラス窓になっており、外の自然が見えるようになっていました。自然光の中、私たちは影絵のようなシルエットで舞台に登場しました。

日本で演じるのはこれが初めてで、舞台に上がる瞬間、私は6歳の頃の自分を思い出しました。初めて舞台に立ったとき、私は演劇に恋をしました。もし当時の自分に「いつか世界の反対側で演じることになるよ」と伝えたら、彼女はどう思っただろうか?

今回の経験を最大限に生かすため、私は舞台上のすべての細かい部分に意識を向けました。しかし、公演中、私が期待していた「死者のエネルギー」を感じることはできませんでした。おそらく、私が日本人ではなく、無宗教だからかもしれません。この感覚を理解するには、もっと時間が必要だと感じました。

しかし、私は「生者のエネルギー」を強く感じました。
楽器の響きや俳優たちの声とともに、体が共鳴し合う。その力が、はっきりと伝わってきました。
ひとつのグループとして物語を語ること、一緒に舞台を作り上げること、互いに聴き合うこと、そうした「一体感」を感じられたのは本当に貴重な体験でした。

フランスでは、これは私の個人的な感覚ですが、俳優たちはそれぞれの内面世界に閉じこもっているように思います。フランスで演じていた頃、どんなに多くの俳優と一緒に舞台に立っていても、私はどこか孤独を感じていました。
例えば、相手とセリフを交わすとき、相手は「聞いている」けれど、本当に「聴いている」わけではないように感じることがありました。おそらく、自分の演技に集中しすぎているからでしょう。

舞台上で孤独を感じることは、とても恐ろしいことです。
それは、セリフを忘れる原因になり、ミスを生み、体が震え、演じることの楽しささえ失わせてしまいます。

しかし、SPACでは違いました。私は久しぶりに、一切の不安を感じることなく舞台に立つことができました。それは、決して一人ではないと感じられたからです。私は仲間たちに支えられ、そして私もまた彼らを支えている。その感覚が、私に大きな安心感を与えてくれました。

この舞台に参加できたことを、心から楽しむことができました。
そして、観客の皆さんにも、この「共有する喜び」を感じていただけていたら嬉しいです。

またSPACの舞台で演じることができたらいいなと思っています。
今回の経験を通して、本当に多くのことを学びました。
そして、まだまだ彼らから学ぶべきことがたくさんあります。

Janelle RIABI

『ラーマーヤナ物語』
https://festival-shizuoka.jp/program/ramayana/
公演日時:4月29日(火・祝)、5月2日(金)、5月3日(土・祝)、5月4日(日・祝)、5月5日(月・祝)、5月6日(火・休)各日18:45開演
上演時間:90分(予定)
上演言語/字幕:日本語/英語字幕あり
座席:全席指定(予定)
原作:ヴァールミーキ
構成・演出:宮城聰