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2025年3月2日

ジャネルのインターン日誌 – SPACとの演劇体験 vol.1

フランスで演劇を学ぶ大学院生・ジャネルが約3か月静岡に滞在し、
インターンとしてSPACで体験したこと、感じたこと…。
SPAC新作『ラーマーヤナ』の立ち上げから本番まで、SPACの集団創作の様子を連載でお届けします!
フランス語・英語・日本語の3か国語でお読みいただけます。
<フランス語はこちら>  <英語はこちら

 
ボンジュール ! こんにちは、
私の名前はジャネルです。21歳のフランス人で、私の最大の夢は舞台演出家になることす。
現在、パリのソルボンヌ・ヌーヴェル大学で演劇の修士1年生です。学士課程での研究の中で、私は人形劇や生きた身体と無生物の身体の対話に興味を持ちました。その後、俳優=人形という概念に関心を持ち始めました。つまり、感情を顔に表現するのではなく、むしろ空虚で非身体的な俳優が、その身振りや身体の姿勢を通じて感情を伝え、観客に感情を生み出す俳優です。実際、俳優が感情を抑えれば抑えるほど、観客の想像力が投影されやすいと考えています。

私の国では、ほとんどの俳優が顔を使って演技を学びますが、身体を使うことを忘れがちです。一方、日本の演劇では、伝統的なものでも現代的なものでも、俳優の身体が中心的な存在であり、テキストと比べて低い価値と見なされることはありません。このようにして、私は宮城聰さんとSPAC(静岡県舞台芸術センター)の俳優たちの仕事に興味を持ち始めました。私の修士論文のテーマは「宮城聰の演劇美学における俳優=人形」です。そのため、SPACの俳優たちがどのようにして人形のようになり、あのような精密な動作を達成し、身体を使ってイメージを構築するのかを理解しようとしています。

私はフランスで宮城さんの作品について多くの本や記事、インタビューを読みましたが、SPACの舞台作品がどのように作られるのか、創作の過程を自分の目で見てみたかったのです。俳優たちはどのように稽古をしているのか、そして宮城聰さんがどのように彼らを指導するのかを知りたかったのです。また、俳優たちの演技技術についての証言や、舞台上で彼らが感じていることを直接聞いてみたいと思いました。というのも、それは演出家が見るものとは大きく異なる可能性があるからです。そこで私は、日本に行き、SPACで研修を受けることにしました。

たとえこれまでにいくつかのインターンを経験していたとしても、海外で働くのはこれが初めてで、こんなに長期間滞在するのも初めてでした。日本の文化に情熱を持っているとはいえ、文化的な違いから間違いを犯してしまうのではないかという恐怖や、自分が馴染めないのではないかという不安がありました(私の日本語力が限られている上、ほとんどの俳優たちが英語に慣れていないため)。しかし、チーム全員が本当に信じられないほど親切で、コミュニケーションが難しい相手でも、知っている数少ないフランス語の単語を使って話しかけてくれることがあり、とても感動しました。休憩時間には俳優の何人かにフランス語の簡単なレッスンをしたりもしました。

幸いなことに、演劇の世界では言葉以外の方法でもコミュニケーションが可能です。例えば、身体を使ったり、音楽を演奏したりすることです。実際、作品づくりの最初のステップの一つは音楽の探求でした。私たちは全員で一緒に楽器を演奏し、ジャンベやシェイカー、竹を使って即興で演奏しました。これらの楽器を使うのは私にとって初めての経験でしたが、それは俳優の中にも同じように初めての人がいたので、この時間はとても楽しいものになりました。

これはまさにリズムだけで対話できた、特別で貴重な共有の瞬間でした。このおかげで、それまで一度も話したことのなかった人たちについて間接的に知ることができました。その後、ジャンベのリズムに合わせて一緒に踊りました。そして踊っている中で、これまで私に近づいてこなかった俳優たちが(おそらく英語を使うことへの不安からだったのだと思います)私に加わり、一緒に踊ってくれました。彼らはみんな素晴らしい人たちで、演劇に情熱を注ぎ、とても面白い人たちです。作品づくりの間にこんなにたくさん笑ったのは初めてのことでした。

SPACでは、作品を創る前に多くの芸術的なリサーチが行われます。そのため、午後の始めには、みんなで一緒にドキュメンタリーや演劇作品の映像を観て、インスピレーションを探ります。また、影絵演劇の部分に関するリサーチをするために、人形劇のワークショップも行いました。

フランスでは、多くの場合、俳優はテキストを覚え、演出家(舞台演出家)の指示に従うだけです。リサーチを行うのは演出家であり、俳優が積極的にリサーチを行うことはあまりありません(もちろん、これは劇団によって異なります)。一方で、SPACの俳優たちは、常に新しいことを学び、実験し続ける学生のようです。私は、この姿勢こそが彼らの強みであり、彼らの作品の高い美的品質を保証しているのだと思います。

人形劇が私の専門の一つであるため、このワークショップでいくつかのアイデアを提案しました。実際、インターンシップの目的は単に教えを受けたり情報を集めたりするだけではなく、私自身の知識を少しでも共有し、彼らの仕事を助けることにもあると考えています。

そこで、「オブジェクト シアター(théâtre d’objet/ object theater)」の原則(※1)について説明してみました。これは特定の人形劇の形態で、人間の姿を持つ人形の代わりに、カップやペン、ほうきなどの物を使うものです。その物の機能が、キャラクターの性格や特徴を象徴するという考え方です。例えば、風の神を表現するために扇風機を使うことを提案しました。この扇風機を別のキャラクターの正面に置き、そのキャラクターの髪を風でなびかせる、というようなイメージです。

(※1)詳細については、「l’Union Internationale de la Marionnette」による「World Encyclopedia of Puppetry Arts」の定義をご覧ください。https://wepa.unima.org/en/object-theatre/#

しかし、彼らは私が扇風機自体を人形として使おうとしていることまでは理解していなかったようです。それでも、扇風機で風を利用するというアイデアは採用してくれて、布や軽いプラスチックの切れ端を風に浮かせるような人形を作りました。
私の提案を聞いてくれ、考慮してくれたことがとても嬉しかったです。また、人形作りのアドバイスをしたり、実際に手伝ったりすることもできました。彼らは皆、想像力が豊かで、非常に興味深い提案をしてくれ、美しい映像を生み出すことができました。

これまでのところ、SPACで働き、彼らと私の演劇への情熱を共有することは、純粋な喜びです。皆さんを観察し、手助けし、交流することに大きな楽しみを感じています。この言葉は宮城さんやSPACのスタッフを喜ばせるためではなく、本心からそう思っているからです。
SPACが私を彼らの船に乗せてくれたことに、心から感謝しています。この先に何が待っているのか、とても楽しみです。

Janelle RIABI

『ラーマーヤナ物語』
https://festival-shizuoka.jp/program/ramayana/
公演日時:4月29日(火・祝)、5月2日(金)、5月3日(土・祝)、5月4日(日・祝)、5月5日(月・祝)、5月6日(火・休)各日18:45開演
上演時間:90分(予定)
上演言語/字幕:日本語/英語字幕あり
座席:全席指定(予定)
原作:ヴァールミーキ
構成・演出:宮城聰