※本インタビューは、『弱法師』の演出内容の言及を含みます。事前情報なしにご観劇されたい方は、ご観劇後にお読みになることをお勧めいたします。
(聞き手・構成:前原拓也)
最後に、今回の公演で行っている視覚障害者向けの鑑賞サポートについて伺いたいと思います。鑑賞サポート実施に向けて、当事者に稽古に参加していただいて意見を聞いたり、ワークショップを開催していますよね。
SPACはこれまでも鑑賞サポートに取り組んでいますが、今年の秋のシーズンでは、演目によってターゲットを絞り込むことにしました。予算的な限界もありますし、特性ごとに必要なサポートが違うため、全ての演目で全方位に開くのは難しいという判断でした。
各々の作品でどういう種類の鑑賞サポートをしていくか制作と考えましたが、『弱法師』って普通に考えると、積極的に視覚障害のある方にお勧めできる演目ではないですよね。視覚障害者について、三島さんの生きていた時代の、現代から見れば偏った表現が出てきますから。でも一方で、この作品を目の見えない当事者の方々が鑑賞できないとしたら、それも違うんじゃないかなと思ったんです。古典作品で、片足を引きずっているとか、目が見えないといった設定って多いじゃないですか。現代の私たちから見て問題を含んでいたとしても、作品にとっては大事なモチーフで、普遍的なテーマを描いている。そういう作品がこれからも劇場で上演されるとしたら、当事者の方たちの存在を前提に考え直さないといけないと思うんですよ。
とはいえ、『弱法師』の場合は初演で一度作品が完成しているので、再演でそんなに大きく変えられません。本当は、最初から目の見えない方に入ってもらって、一緒に作れたらよかったかもしれないと思うんですけど。 この作品をあえて視覚障害者に対して提示することは暴力的なんじゃないかといった葛藤もあったんです。でも、今回の『弱法師』の鑑賞サポートにご協力いただいた、スロームーブメント静岡実行委員会さんと、盲導犬ユーザーのしょうちゃんにご相談したときに、「そんなに構えすぎないで、まずは会ってみて一緒にやってみよう」と言ってくれたのが、支えになりました。最初にしょうちゃんと会ったときに、オーディオブックで『弱法師』を読んできてくれて、差別的な表現についても率直な意見を聞かせてくれました。そうやってオープンに話してくれて嬉しかったですし、私からはリアルな人間ドラマとして上演しようというのではなく、目に見えない心の中のドラマとして上演しようとしているんだ、といったコンセプトをお話していく中で、お互いの理解が深まったところもあって。
この稽古期間に、視覚障害者向けの演劇ワークショップを行いました。声を中心にしたワークを一緒にやったんですけど、皆さん楽しんでくれました。その中で、目の見えない・見えにくいお客さんがどういう風に演劇を楽しんでいるのか、私たちも学ばせてもらいました。
今週末(9/14)にはモニター稽古を行います。そこでは、いくつか私たちが教えてもらいたいと思っているトピックがあります。まずは劇場のアクセシビリティについて。駅から劇場まで、劇場から客席までにどういうご案内をすればいいか、などですね。また、盲導犬と来るときにどういう席がいいかとか、上演中に音声ガイドをどういう風に聞きたいのかということも伺いたいと思います。あとは実際に稽古を見てもらって、作品について気になるところやご質問をいただいたり、鑑賞サポートにどんなことが必要かご意見をいただこうと思っています。
情報保障ということが出発点なのですが、準備を進める中で、私たち上演する側にとっては、目の見えない・見えにくい方に向けてこの作品を上演するとはどういうことなのかを考える上で、大事なことを教えてもらっています。
この作品だけじゃなくて、今後SPACが劇場をあらゆる人に向けて開いていくために、大事なことですね。それでは、初日を楽しみにしています!
SPAC秋のシーズン2025-2026 #1
弱法師
演出:石神夏希
作:三島由紀夫(『近代能楽集』より)
出演:大内米治、大道無門優也、中西星羅、布施安寿香、八木光太郎、山本実幸[五十音順]
2025年
10/4(土)、10/5(日)、10/18(土)、10/19(日)各日13:30開演
会場:静岡芸術劇場
〈沼津公演〉
2026年1月31日(土)13:30開演
会場:沼津市民文化センター 大ホール
〈浜松公演〉
2026年2月7日(土)13:30開演
会場:浜松市浜北文化センター 大ホール
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