できるだけ遠くに行く、というのが演劇の作り手としての僕のポリシーでもあり願望でもある。遠く、という距離の始まりはどうしたって個人的なところ、自分の体の真ん中の部分になる。そこをスタート地点にして、ゆっくりと時間をかけて自分の知らない土地や風景にたどり着けたらそれが良い。土地や風景というのは、メタファでもあり、文字通りの意味でもある。
つまりは演劇で観客と一緒に旅に出ることができればそれでいいのだ。旅というのもまたメタファでもあり文字通りの意味でもある。 続きを読む »
【おちょこの傘持つメリー・ポピンズ】無用と情熱の路頭へ~唐十郎と宮城聰(山内則史)
12年前、新聞社の文化部で唐十郎初の新聞小説を担当した。いかにも唐的な「朝顔男」という題名の小説が軌道に乗ったころ、唐さんから「軍艦島に行きましょう」と話があった。浅草や新宿界隈をうろつく主人公、奥山六郎を東京から離れたどこかへ連れ出そうと考えたらしい。
当時、軍艦島は廃墟化した建物が危険なため、上陸は禁じられていた。石炭の採掘跡のような場所も見たほうが小説のヒントが多いのではと考えてネットで調べたら、同じ長崎県に池島炭鉱というのがある。坑道を下って地下の様子が見られるというのが魅惑的で、取材旅行の日程に加えた。 続きを読む »
【野外劇 三文オペラ】光と闇の混交の果て(大岡淳)
共に新進気鋭と目されていた劇作家ベルトルト・ブレヒトと作曲家クルト・ヴァイルがタッグを組んで、出世作『三文オペラ』を世に放ったのは1928年、ヴァイマル共和国時代のドイツ・ベルリンでのこと。今から振り返ればナチス台頭前夜、この年既にナチ党はミュンヘン一揆鎮圧(1923)から再建を果たし、アドルフ・ヒトラーが党内独裁を確立、国会議員選挙では12人が当選した。そして翌年には世界恐慌が起き、これが10年の後、第二次大戦開戦に帰結することになる。 続きを読む »