劇場文化

2020年1月18日

【グリム童話 ~少女と悪魔と風車小屋~】8年前の記憶から(志賀亮史)

 8年前に観た演劇について、書いてほしいとの依頼があった。観劇したことはもちろん覚えている。しかし、いざ思い返してみると、観劇当初から時を経た劇の印象は、不思議な歪みをもって、私の中に残っている。強く鮮やかに浮かび上がってくるシーンがあれば、まったく思い出せないこともある。そのときの劇場に流れていた雰囲気や座った椅子の感触が思い出されたりもする(もっともそれは、幾度となく座った静岡芸術劇場の椅子のことを思い出しただけかもしれないけれど)。

 そんなことをとりとめもなく考えていたら、幼少時の記憶について、ふと疑問に思う。
 最初に出会った絵本、もしくは童話はなんだろう。
 覚えているのは、『ちいさいおうち』という絵本。のどかな場所にたてられた小さなおうち。やがて時がたち、まわりはどんどん発展し、変わっていく。いっぽう小さいおうちは変化からとりのこされ、忘れ去られ、都会のビルのなかにひっそりとさみしげに佇む。もう都会の中で誰にも見向きもされなくなったころ、小さいおうちを気に入った人(実はかつて住んでいた人の子孫)が現れて、おうちをまた昔のようにのどかな場所へ移築してくれる。 続きを読む »