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2012年9月28日

芸術総監督宮城聰による 『夜叉ヶ池』の紹介

9月16日(日)に行われましたファン大感謝祭にて、“芸術総監督宮城聰による「秋のシーズン2012」ラインナップ紹介”が行われ、『夜叉ヶ池』、『病は気から』、『ロミオとジュリエット』のそれぞれの魅力が紹介されました。その中で『夜叉ヶ池』について語られた内容を今回、ご紹介いたします。

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宮城:
泉鏡花の『夜叉ヶ池』は、大正2年に発表されているんですけれども、実に現代的なテーマを扱っています。それは、ほんとうに単純に言ってしまえば、環境を破壊する勢力と、昔からの自然と一体化した生活を守ろうとする勢力の戦いです。ただ現実の大正2年がどうだったかというと、日本は近代国家となったんだから、迷信なんかは捨てて、更に開発を進めていこうという、そういう風潮の時代でした。日本が日露戦争で勝って、国民のほとんどが、ついに俺たちは世界の一流国になったんだ、と思い上がっている時代です。泉鏡花がすごいと思うのは、そういう時代に、逆に昔ながらのものに美や慎み深さを見出し、そこに尊いものがあるんじゃないかと言っているところです。
泉鏡花は、今でこそ、当時の作家の中では人気のある作家ですが、当時は非常に反時代的、アンチ・メインストリームの人だったと思うんです。ですから今になってみると、同時代の作家の中では、泉鏡花にいちばん今日性があり、先見性があると思います。
僕は『夜叉ヶ池』の4年後に発表された『天守物語』も演出したことがありますが、こちらは第一次世界大戦の最中に書かれています。当時戦争をしている軍人は、戯曲の中では、比喩で侍たちに置き換えられています。そして、彼は、戦争をしている侍たちの中にではなく、その人たちが切り捨てている「弱者」のようなものの中にこそ美があることを、明瞭に語っています。しかし、第一次世界大戦の完全に「行け行け!」ムードの日本で、こういうことを書くのは勇気のいることです。
だから、泉鏡花という人は、現実には心の中でとても引き裂かれていた人だと思っています。というのは、彼自身、当時の文壇の中で生き残るための処世術は、それとしてやっているんです。でも心の奥底では、そういう方向は間違っていると思っていたと思うんです。『夜叉ヶ池』では山沢学円と萩原晃という2人の男性が登場します。山沢学円は、京都大学の教授となり出世をしている人です。萩原晃は、山奥で鐘つきになって、立身出世から、もっとも遠いところにいった人です。この2人の男性主人公に、この泉鏡花の引き裂かれた2つの部分が投影されているのかなと思っています。

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まもなく『夜叉ヶ池』は初日を迎えます。今週の土曜日9月29日から来週の土曜日10月6日まで毎日公演します。
平日は中高生鑑賞事業公演(※一般のお客様もご観劇いただけます)を行います。
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また『夜叉ヶ池』関連企画として、『天守物語』上映会(演出:宮城聰 作:泉鏡花)を開催します。
9月30日『夜叉ヶ池』公演、『天守物語』上映会は続けてご覧いただけます。
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『夜叉ヶ池』、『天守物語』上映会は電話・窓口・WEBにてチケット好評受付中です。是非あわせてご観劇ください。
皆様のお越しをお待ちしております!