◆中高生鑑賞事業パンフレット連動企画◆
<病ブログ4>は、中高生鑑賞事業パンフレットとの連動企画です。
パンフレットに掲載している深沢襟さんへのインタビューのロングバージョンをお届けします。
舞台美術 深沢襟(ふかさわ えり)
静岡県出身。2012年で舞台美術に携わって15年。
代表作にSPAC『ペール・ギュント』『グリム童話』など。
Q.なぜ舞台美術の仕事をするようになったのですか?
深沢:母が芝居を見るのが好きな人でした。小さい頃から母に絵を教えてもらったり、芝居に連れて行ってもらったりする機会がありました。ある舞台を見たときに、幼少時代の役を演じている出演者が木の後ろに隠れて、次に出てきたときに10年後、大人になっている、というシーンがあったんです。舞台装置が役柄を演じる入口として使われているのを見たときに、今まで単なる風景と思っていた装置が違う風に見えてきて、そのとき初めて舞台装置に着目し、それから注目するようになりました。13歳の時です。その後、美術大学に入ったのですが、その頃にはすでに舞台に関わりたいと思っていました。作家として作品をつくることにはあまり興味がなく、1人の力では突破できない何かをつくりたいという衝動があったんです。大学には教わりたい先生がいたので、最初からその先生について舞台美術を専攻しました。
Q.舞台美術の仕事は具体的にどういうものですか?
深沢:どの演出家と組むかによって仕事の内容が変わってきます。演出家による戯曲(ぎきょく)の読み解きを聞いた上で、こういう空間はどうですか?と提案します。演出家によってはこういうふうにしたいと要望がある場合もあります。その場合は、その装置をSPACの劇場の空間に落し込むときにどういったアレンジが必要かとか、こういう俳優だからここはこうした方がいいといったことを提案する仕事になります。
舞台美術の仕事には2つあると思います。まずは演出家が要求するキーワードや空間を読み取って形にすること。もうひとつは俳優との関係性です。この2番目の仕事は舞台制作の現場で起こります。装置を建て、俳優がそこに立ったときに、今回やりたいことに本当に合っているのか、を確かめます。もしくは、俳優が稽古(けいこ)をしているのを見ながら、小道具はこうした方がよい、装置のあの部分はどうなの?などと発見し、改善していきます。より重要なのは、この俳優と美術との関係の方だと思います。私も十何年やってきて最近特に思っています。今この空間で何が起こっているかを、どれだけ発見できるかがとても重要な仕事です。
Q.舞台美術というと、デザインしたものを舞台上に建て込むもの、と考えている人も多いと思うのですが、深沢さんの場合は稽古の中で舞台美術を変えていっているということですか?
深沢:そうですね。これは稽古に立ち会えるSPACだからできることでもあります。舞台美術が成立しているかどうかは、舞台美術のモノがよいということではありません。作家活動の場合、例えば彫刻であれば、彫刻を空間に配置したときに、その彫刻がよくなければいけないでしょう。舞台美術の場合は、舞台作品の方向性に対して、どういうポジションをとったか。そこに成功の鍵があると思います。俳優とどう関われているか、衣裳や照明との兼ね合い、流れている全体の時間との関係性、そういう観点からのよしあしがあります。そこが作家個人の作品との圧倒的な違いになります。
舞台の力は、そこに俳優、照明などが加わって、もともと美術のフォルムが持っていた世界に、お客さんが別の入口を見つけることができることです。戯曲を読んだだけのときとは違うイメージが湧き出てくる。そういったところが舞台の魅力だと思います。だから、舞台美術は見た目だけで完成しているものではないんです。
それが舞台美術の仕事の難しさでもあって、とくに自分が手を動かしてつくっている場合は、客観的な判断ができにくくなるんです。つくっている自分の内面に目が行ってしまうからです。そこから目を逸らさなくてはいけない。演出家の視点まで意識を持って行かなくてはいけないのですが、それができなくなってしまうことがあります。舞台美術の仕事には客観的に見る力が必要です。
Q.『病は気から』の舞台美術では、どこが見どころになりそうですか?
深沢:劇場では、客席にお客さんが座り、舞台上で俳優が演じます。劇場が持つシステムです。観客と俳優の関係、それから戯曲を書いている作者との関係もありますね。お客さんと俳優は対等ですが、作者はちょっと上から見ているような感じもある。その関係をかき回すような舞台美術。3つの関係が入り乱れるような装置になると思うので、そこをお客さんに楽しんでほしいです。
(2012年9月15日 静岡芸術劇場にて)