『ピーター・ブルックのザ・タイトロープ(原題)』 4月29日 鑑賞感想
誰でも何かが始まった最初の数分は意味が分からずに唖然とする、という話からこの映画は始まりました。私はすぐにそれを体験しました。正直私には、演出家が最初何をしたいのかわからなかったのです。というのも、彼は俳優に、技術云々ではなくもっと抽象的なことを、稽古を通して語りかけていきました。演出家はヒントを示すだけ。それを拾うかどうかは相手次第。あくまで俳優にゆだねていく...というように私には見えました。(私がそのヒントをなかなか拾えなかったからそう見えてしまっただけかもしれませんが。)
綱を渡るという一つの動きを表現するにも俳優それぞれ十人十色です。そして一人ひとりどこか足りない。それを感じ取ったピーター・ブルック氏がそれを指摘する。そしてそれを他の俳優たちもその一部始終をしっかりと見ている。稽古中の空気は重々しくて、でもすっきりとしていて静かだけれど何かがうごめいていて...なんだかドロドロしていました。
この稽古風景をみて特に印象に残ったのは、俳優の雰囲気。俳優たちのブルック氏に対する絶対的な信頼というか、「この人の世界観を表現するぞ。」みたいなオーラが出ていたことです。でもやはりそれは一流の俳優さんにとっても簡単につかめるものでないようでなかなか苦戦していました。見ていた私も必死に字幕を読んで内容を頭に入れようと頑張っていました。ほかの俳優さんが指導を受けているときにもまるで自分が指導を受けているかのように真剣に耳を傾ける。そこで何かを吸収しようとしている。なんというか受け身なのだけど積極的なその姿勢を見習いたいと思いました。
話の内容は、ところどころ納得できるところ共感できるところがあったのですが、正直今の私にはもったいなかったです。というのも、この話は高みにいる人、高みを目指す人のためのものであったと感じ、何となく私などが聞いてしまっていいのか、という申し訳ない気持ちにもなってしまいました。ただ同時に感じたことは、また観たい、ということです。今日私は演劇における「クオリティ」というものの片鱗を味わいました。一言で言ってしまえば本当の意味でこの作品を楽しみ尽くすには私には時期が早すぎた。私も自分のレベルを高めて真っ向からこの作品を受け止められるようになってからもう一度観たい..!きっと心を震わせるフレーズとか見えてくるものも違ってくると思います。演劇って厚みがありますね。
(まるふ2014執筆クルー 池野)