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2014年7月6日

アヴィニョン演劇祭参加の記(2)

SPAC文芸部 横山義志
2014/06/29

午前4:40パリ着。7:30にマルセイユ行きの飛行機に乗り換え、8:30マルセイユ着。空港ではアヴィニョン演劇祭のドライバーが出迎え。

アヴィニョン市内の宿まで車で送ってくれたジュリアンは、ふだんは俳優さんらしい。アヴィニョンに住んでいて、今年の夏は自分が出演する作品がないので、演劇祭の仕事をやっているとのこと。いろいろなアーティストに会えるのが楽しい、という。

宿で一休みして、早速上演会場のブルボン石切場へ。アヴィニョン市内から車で30分ほど。ブドウ畑、ヒマワリ畑や果樹園が広がる平野を駆け抜けていくと、岩肌がむき出しになった山が見えてくる。セザンヌが描いたようなプロヴァンスの風景。

毎年芝居を見に来てはいたのだが、あらためて昼間に人気のない石切場に入っていくと、ここで芝居をしようというのがいかにクレイジーなことかよく分かる。

昨年技術スタッフが下見に来たときには、タクシーの運転手が「車が汚れるから」と言い出して石切場の入り口で降ろされ、現場まで1時間歩いて登ったという。昼間行くと、劇場というより、まさに「現場」という感じ。白い石がごろごろと転がっているでこぼこ道を、大きな石を避けながら、車が慎重に登っていく。やがて視界が開け、ぽつんとチケット売り場が見える。そして「劇場入り口(ENTREE THEATRE)」と書かれた柵を越えると、巨大な岩壁の下に舞台と客席が見えてくる。

このブルボン石切場を劇場として使おうと思い立ったのはピーター・ブルックだった。ブルックは古代インドで書かれた記念碑的な叙事詩『マハーバーラタ』を舞台化するために10年近くを費やした。そしてアヴィニョン演劇祭で初演することになって、この壮大な作品にふさわしい場所を求めてアヴィニョン周辺をまわり、この石切場へとたどりついたという。

ブルックの『マハーバーラタ』は1985年にここで一晩かけて初演された。日の入りとともに始まり、日の出とともに幕を閉じる舞台。この作品は伝説となり、以後この石切場は毎年アヴィニョン演劇祭のメイン会場の一つとして使われている。

今回の舞台はSPAC版『マハーバーラタ』用に特設されたもの。写真では見ていたが、実際に見てみると、やはりその大きさに驚く。1000席の客席を一周100メートルの円が取り囲む。俳優はこの円の上で演じることになる。

観客が俳優を見上げる形にするために、階段状客席の勾配を緩くして作り直している。舞台美術の木津潤平さんのアイディア。もともとの客席は、ギリシア以来のヨーロッパの劇場と同様に舞台を見下ろすものだった。

ここで『マハーバーラタ』をやるという話が出たとき、木津さんが以前の舞台装置をこの石切場に置いてシミュレーションしてみたら、舞台のうえで神々を演じる俳優が背後の岩壁に比べてあまりにも小さく見えてしまい、悩んだ末にたどりついたのがこの舞台だったという。下から円の縁に立つ人を見上げると、ちょっと巨人が岩壁を背負って立っているかのようにも見える。

アヴィニョン演劇祭プログラム・ディレクターのアニエスさんと技術ディレクターのフィリップさんが早速挨拶に来てくださる。フィリップさんは1985年の『マハーバーラタ』でも働いていたという。そのフィリップさんが、今回の舞台美術案をメールで受け取り、図面を開いて、すぐにアニエスさんのところに行って、「これはすごい、絶対に美しい舞台になるから実現させなければ」と言ってくれたという。これも舞台どころか客席まで全て作り直すというかなりクレイジーな提案だったが、その困難を最もよくご存じの方がこの提案を後押ししてくれたわけだ。アニエスさんは現場を見るのははじめてで、「すばらしい。今までの石切場の舞台と全く違う。岩壁に包まれているようだ」等々。たしかに、岩壁の前に舞台があってそれを見下ろす形だったこれまでの劇場と違って、岩壁に沿った円のなかの客席から見ると、岩がとても近く感じられ、そのなかに包まれている感じがする。

そんな話をしていると、突然の雨。どんどん激しくなる。「メールでアヴィニョンは毎日快晴だって言ったけど、初日からこんな天気で悪いね。天気予報では降らないと言ってたのに」と現地スタッフ。早速雨男として知られる宮城さんの本領が発揮される。まあ本番じゃなくてよかった。

アヴィニョンの洗礼はそれほど長くはつづかず、気がつくと嘘のような晴れ間が広がっている。明日の朝早くからはじまる作業のために、20時頃市内に戻り、食事して就寝。明日は朝5時半集合・・・。
 
 
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アヴィニョン演劇祭 公式プログラム
SPAC 『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』
公演日程:7月7日~19日  会場:ブルボン石切場  ※詳細はこちら