◆美加理(みかり)◆
登場人物紹介◆レベッカ
ユダヤ系のスター女優
Q. 美加理さんの演じるレベッカはどんな人物ですか。
レベッカは、設定ではユダヤ人で、スター女優ということになっています。ナチスが第一党になったときに、自分が何に立脚して演劇をしているか、生きているのかということとを天秤にかけ、彼女は劇場を去るということを選びます。
レベッカも他の登場人物と同じように、モデルとなる人がいます。エリザベート・ベルクナーさんというユダヤ人で、ドイツで活躍されていた女優さんです。(彼女は、イギリスに亡命し、ローレンス・オリビエとの共演映画『お気に召すまま』などで活躍されていて、ご自身の経験を元にした映画『イヴの総て』もあります。バーグナーさんがモデルの大女優マーゴ役を演じるのは、ベティ・デイビスさんです。)若い頃には少年や純真無垢な少女のような役を多くやっていらっしゃるようで、レベッカもこのお芝居の中では、そういうタイプの女優として描かれています。最初の劇中劇ではシェイクスピアの『ハムレット』で、主人公クルト演じるハムレットの母親ガートルードを演じますが、その後のシーンでは、『ロミオとジュリエット』のジュリエットや『ファウスト』のグレートヒェンのような純真無垢な役も演じています。
ナチスの時代の話の中で、彼女一人がユダヤ人ということで、どう演じたらいいのか考え、いろいろ資料を読んでみたものの、それだけでこの人をとらえるのは、途中でやめました。この状況の中を生きた一人の女優をそれ以外のところで何かつかまえられたら、そこをもう少し膨らませていきたいと、作業をすすめてきました。
亡命先での彼女の生活が描かれる後半では、レベッカのような女優が演じるには意外なチェーホフのある役を稽古しているシーンがあります。作者のトム・ラノワさんは、その台詞と彼女の状況に重なるものを見いだして、創作していると思うのですが、そこに出てくる台詞には、「そうだよね、そうですよね!」と私自身もすごく共感できるものがあります。その台詞の本当の意味は何だろうなとさらに深く考えながら、それをヒントにレベッカ像を探ってきました。彼女には自分の内面を吐露したり、他の登場人物への思いを表したりする言葉が少なくて、多くは劇中劇の芝居の台詞です。そういうところに難しさがありますが、居ずまいや、まとっている空気などで、お客さんが何か想像してくださるように演じられたらと思います。
【稽古風景より:『ハムレット』のガートルードを演じるガートルード(右はハムレット演じるクルト・阿部一徳)】
Q. 作品の見どころを教えてください。
この作品では、劇場の空間が普段はなかなか見られない仕方で構成されていて、ひとつの都市や街のジオラマように、劇場の全貌が見られるのが面白いと思います。ジオラマの上で、たとえば津波や台風や地震がどのようにやって来るのかを見るのと同じように、劇場という空間で、人々の生活を知らず知らずのうちに蝕んでいく何かが、どんな顔をしてどんなふうに忍び寄ってくるのか、その気配や空気を感じてもらえるのではないかと思います。そして、そこで起こっているものは、劇場という空間の中でありながらも、私たちの生活とシンクロするものとして、一瞬一瞬、体感してもらえるのではないかと思います。
それから今回の演技スタイルは、台詞はあくまでも論理優先で、言葉は淡々と素早く、エモーションを乗せずにしゃべるという方法をとっています。その上で、多方向に自分の感覚を開いて、沢山のものをキャッチし、お互いの関係性の中で、感情的なものを作っていくというスタイルです。そういうスタイルに挑戦しているのも、楽しみにしていただけたらと思います。必然的に劇中劇以外の日常のやりとりの台詞は、比較的小声で行われます。音響さんが高度なサウンドデザインを駆使してくださっていますが、聞き耳をたてなくてはならないくらい聞きづらい部分も、演出であえてつくってありますので、是非耳の掃除をしていらしてください。2幕になるとまた怒涛のようにそういうシーンがあります。耳かきを持ってきて、もし前半でよく聞こえないなと思ったら、耳の掃除をしてください(笑)
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SPAC新作『メフィストと呼ばれた男』
4/24(金)・4/25(土)・4/26(日)
静岡芸術劇場
http://spac.or.jp/15_mefisto-for-ever.html
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