王国、空を飛んでどこへ行く!?
10月28日、『王国、空を飛ぶ!』を観ました。
古代ギリシア喜劇の名作、アリストパネスの「鳥」を現代日本社会に置き換えた本作は、見事に現代を風刺する喜劇となっていました。SPACの上演作品で、ここまで喜劇性を前面に出した作品も珍しいように思います。
粗筋は荒唐無稽なファンタジーで、山手線の通勤地獄をはじめとする現代社会に嫌気がさした二人のサラリーマンが鳥になることを決意する(!?)ところから物語は始まります。人語をしゃべるカラスの夫婦の導きで、鳥人間と出会った二人は、自分たちも鳥に受け入れてもらうために、鳥たちに独立国家の建設を提案します。
面白い喜劇は、ついつい「なんでやねん」と突っ込みながら観てしまいます。本作は、もともとが荒唐無稽なファンタジーということもあるのでしょうが、とても突っ込みどころが多かったです。しかし、その「なんでやねん」は実は鋭い社会風刺でした。(※ちなみに筆者は関西人ではありません。)
鳥になると決意し、理想郷の建設を目指す二人のサラリーマンはいつまでもスーツとネクタイでサラリーマン体質丸出しのままであること点や、神々の起源は鳥であり、人間より鳥の方が偉いという理屈や、多数決で決めるか全員一致で決めるかをどのように決めるか等々、少し思い返しただけでも、いろいろな「なんでやねん」が出てきます。こういった場面はそれ自体が単純に面白い場面でした。劇場で僕はただ笑っていたのです。ところが、今こうして思い返してみると、意外に考え込んでしまいます。さて、理想郷を求めて行った先は本当に理想郷なのか?皇室の起源だって神代まで遡れます。今ある憲法を決めたときはどのようなルールで決めたのか?(※筆者の個人的な感想です。本作はこれらの具体的な諸問題を話題にはしていません。)
一見すると馬鹿馬鹿しい喜劇で、劇場では大笑いをしました。それだけで終わることも出来る作品だと思います。でもそれだけじゃ、もったない。観劇後、どこで突っ込んだのか、是非考えてみてください。社会を笑いとばす喜劇の暴力性を楽しんでいましたが、私もその社会の一員です。「なんでやねん」はそのまま自分自身にも返ってくる言葉でした。
さて、劇の結末は鳥の王国の行く末です。重大なネタバレになるので、ここでは書きません。でも、恐らく貴方は言うでしょう。なんでやねん。
清野至(きよの・いたる)
1988.2.9生 静岡県浜松市出身
劇団静火所属/演劇ユニット寝る子は育つ主宰
2013年より、劇団静火に所属し第6回公演『三人姉妹』より同劇団で役者として活動中。次回、第8回公演『マクベス』出演予定。
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10~11月 SPAC新作
『王国、空を飛ぶ!~アリストパネスの「鳥」~』
脚本・演出:大岡淳 原作:アリストパネス
静岡芸術劇場
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