◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」 パンフレット連動企画◆『東海道四谷怪談』出演俳優トーク
中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。
パンフレット裏表紙のインタビューのロングバージョンを連動企画として、ブログに掲載します。
お岩役・木内琴子(きうち・ことこ)
2009年よりSPAC参加。
民谷伊右衛門役・泉陽二(いずみ・ようじ)
2011年よりSPAC参加。
<イメージにとらわれないこと>
木内琴子(以下K)稽古が始まってから、泉さんのこれまでみたことないような顔をたくさん見ています。それから声も。すごく悪そうな顔、悪そうな声…(笑)
泉陽二(以下I)あ、それは琴子さんにも同じように思いますよ。
演じるとき、自分の中にある固定された伊右衛門のイメージに引っ張られそうになるから、それには気をつけています。「なんでこの人はこんなことをするのか」「ここまで人を傷つけておいて平気なのか」とか、考えながらやっています。まだ腑には落ちていない。でもそういう「なんでだろう」に対して、安直な、とりあえずの答えに逃げてしまうと、それはきっとあんまりおもしろくないものになってしまうだろうね。
K: わかりやすい話だし、わかりやすい役なので、気を付けないとそこにはまってしまいそう。疑いをもって取り掛からないといけないですね。
I: そう、あまりに有名な話だから、見る人にとってもある程度強いイメージを持たれているかもしれないけど、それに沿わなくてはいけないということはない。まだまだ「『四谷怪談』ってこんな風にも見えてくるんだ」っていう気づきがあります。いろんなエピソードがあって、混沌としていて。辻褄が合わないようなこともたくさんあるし。
————もともと泉さんが伊右衛門にもっていたイメージは、どういうものだったんですか?
I: 実は、台本をみた段階では直助という人が面白そうだと思って、直助がやりたかったんです(SPAC版には登場せず)。で、中野さんに直談判したら「直助さんは出てきません」って言われちゃって(笑)。だから実は伊右衛門に関して最初は特にやってみたいとは思っていなかったんです。大きい役は苦手。どちらかというと、まわりで賑やかしがしたいっていうタイプだから。
————配役はどのようにして決まったんですか?
K: 最初から中野さんに言われて決まりましたね。
I: 稽古を進めながら決まった人もいるけど、僕らに関しては最初から決まっていたみたい。
————演出の中野さんからはどういう風に演じてほしいと?
K: お岩さんは「強くあってほしい」と言われましたね。これは私の中でも納得できているポイントです。
I: 全員に対して、「欲望をむき出しにして」と。そこに欲望があるから、存在する。思いをあいまいにせずクリアに見せるように。
————『四谷怪談』は当時の言葉遣いで上演されますが、ああいう普段私たちが話す言葉遣いとは違うセリフで演じるのは難しそうですね。
K: 助詞とかに一番振り回されている気がします。「なんじゃ『やら』」とか、「なんとか『わいな』」とか。それによって助けられるところもあるんだけど。
I: このあいだも稽古中に話したのは(伊右衛門がお岩に敵討ちをやめたと宣言するシーンの)「いやになった『の』」。
K: あの言葉を受ける側としては、「の」があるとすごく押されてる感じがするんです。「いやになった」だけだとふつうになってしまう。
I: 鶴屋南北が当時の役者に言わせる言葉として書いてるから、当然、当時の江戸弁の調子がある。今の僕らにとって言いやすいように勝手に一語とってみたりすると、不思議なことに、何か言い忘れてる感じがしてかえって言いづらくなる。ヘタに手を入れるとダメなんだよね、調子が狂ってしまって。
<SPAC版の魅力>
I: 今回のSPAC版でフォーカスされるのは、お岩さんが化けて出てくるところじゃなくて、「なぜお岩さんが死にきれずに祟るのか」という、そこに至るまでの過程になるんじゃないかな。
K: もう一つは、小仏小平さんの存在。上演によってはあまり目立たないこともあるけれど、今回はクローズアップされていると思います。でもどういう人なのか、まだ今はわからない。
I: 小平は忠義に生きる人。自分の命ですら主君のために捧げられる。迷いがないようにも見えるけど…その実、どうなんだろう?
K: なぜ小平さんの「忠義に生きる」という姿勢がはぐくまれたかが、後半の小平さんの家の場面にある気もします。孫兵衛や次郎吉との家族のやり取りの中でそういうものが自然に培われたのかもしれませんね。
<傷つくこと、許すこと、救い>
K: 最近、お岩さんがどうやったら救われるのかを考えていて、何らかの形で「許し」が必要なんじゃないかと思うんです。お岩さんも恨んでいるだけじゃなくて、自分にも許してほしい何かがあったり、相手に「許しを求めてほしい」とか、それとも単に「私は傷ついているのよ」って言いたいのかもしれない。そうやって、救いに至ろうとしているのかも。そういうことを考えながら演じています。
I: このあいだ何かで「深く傷ついた人はナンセンスに向かう」という言葉を読んで、へーと思ったんだけど。『四谷怪談』って、いわゆるタブーだらけの話ですよね。それは、現状に行き詰った人たちが、その突破口を探しもがいているうちに、いつの間にか変な方向に飛び込んじゃったのかなと。その先に何かがあるのか…いいとか悪いとかも超えてしまって。結果的にはただ傷ついている。
K: お岩さんや、他の登場人物はこんな感じで傷ついているんだけど、でも傷つくことって私たちにとってもテーマで、それをどう癒していくか、許していくかっていうことがあるんじゃないかな。だから現代にも通じることだし、なにか魂の永遠のテーマのようなものが、『四谷怪談』にはあるのかもしれないですね。
(聞き手・構成:塚本広俊)
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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯1
『東海道四谷怪談』
一般公演:10月8日(土)、9日(日)、10日(月・祝)
構成・演出:中野真希 原作:四代目鶴屋南北 出演:SPAC
静岡芸術劇場
http://spac.or.jp/yotsuya_2016.html
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