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2017年1月12日

おためし劇場 シェイクスピアの『冬物語』編 レポート

1月8日に今年最初の静岡芸術劇場でのイベント「おためし劇場」が開催されました。

レポーターは大阪の「人形劇団クラルテ」から研修でいらしている佐藤結(さとうゆい)さんです。

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寒さが一層増しつつある折柄、いかがお過ごしでしょうか。
先日、初日を約一週間後に控えたシェイクスピアの『冬物語』のおためし劇場が開催されました。

あいにくの雨模様でしたが、約30名のお客様に参加いただきました。お足元の悪い中お越しいただき、誠にありがとうございました。

まずは、カフェシンデレラにてSPACの新作『冬物語』がどんな作品なのか、制作部スタッフが簡単にご紹介。そしていざ劇場内へ!

初日を約一週間後に控えているとはいえ、まだまだクリエーション中の本作。
稽古は幕開けシーンからスタート。

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場所はシチリア。シチリア王・リーオンティーズのところに、幼少の頃を一緒に過ごした大親友のボヘミア王・ポリクセネスが訪問し、滞在9ヶ月が経ったある日。


シチリア王の臣下・カミロー(左・ムーバー 牧山祐大)と、ボヘミア王の臣下・アーキデイマス(右・ムーバー 赤松直美)が、シチリア王の宮廷で立ち話。奥からはシチリアの王子・マミリアス(ムーバー ながいさやこ)が。


シチリア王・リーオンティーズ(ムーバー 大高浩一)とボヘミア王・ポリクセネス(ムーバー 泉陽二)も登場。それに続くのは、ボヘミア王の臣下・アンティゴナス(ムーバー 吉見亮)とその妻ポーリーナ(ムーバー たきいみき)。一番後ろには王妃・ハーマイオニの侍女・エミリア(ムーバー 桜内結う)が。


ポリクセネスは、急に自国のことが不安になり、リーオンティーズに「明日、帰国したい!」と。リーオンティーズはもう少しいてくれと頼むが、聞いてはもらえず。


リーオンティーズは、ハーマイオニ(ムーバー 美加理)に、「お前も、説得してくれ」と。そこで、ハーマイオニが懇願すると、ポリクセネスは滞在延期を受け入れる!?


その様子を見ていたリーオンティーズは、王妃ハーマイオニとポリクセネスにあらぬ疑いをかける。彼の嫉妬からすべては始まる…


舞台後方にはスピーカー(語り手)が。山本実幸(左)はマミリアス、阿部一徳(右)はリーオンティーズのスピーカーを担当。

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ある程度の長さシーンを通すと、演出の宮城さんから、俳優の演技に対して、コメントが。緊張の一瞬…。

参加された方からは、「初めてプロの稽古を見たのでとても圧倒された」「話し方などの指導がこんなに細かくあるのかと思った。」といったご感想をいただきました。

稽古見学後は、出演者による簡単な自己紹介。総勢22名の出演者が並ぶ姿はそれだけで圧巻です。

稽古中の表情と普段の表情、その二面に接することができるのもおためし劇場の醍醐味ですね。

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その後、演出の宮城さんへのQ&A。

やはり皆さんが気になるのは、なぜ今回、二人一役の手法で作ることにしたかという点。

「(物語のきっかけとなる、リーオンティーズが前触れなく激しく嫉妬に狂う点をさして)『冬物語』という戯曲は、シェイクスピアらしくない始まりで、ヨーロッパのリアリズムの演技では、どうしてこういう状況になったのか、お客さんには納得できないところがある。だからリアリズムでやろうとした場合には、セリフに書かれていない動きを入れたり、ここに至る経緯を想定し、この嫉妬を理解できるようにする。けれども、シェイクスピアの戯曲自体には、この嫉妬はやはり突然のものとして書かれている。これをヨーロッパ的なやり方ではない、別の手法を用いたらまた面白いものができるのではと思い、二人一役を選んだ」と話されました。

そのほかにも、「出演者が22人もいるなか、練習はどのように?」といった質問や、「ムーバー(動き手)の表情や動きが、スピーカー(語り手)のセリフが作り出す表情に比べて、抑制されているのはなぜ?」といった稽古を観ての鋭い質問も。

そして「『冬物語』を通して観客に何を伝えたいか?」という質問には…
「シェイクスピアのいろいろな戯曲を読むと、ヨーロッパではこんなにも戦争をしていたのかと思う。シェイクスピア戯曲では、“人間の愚かさ”によって死が訪れるストーリーが常だったが、『冬物語』など最晩年に書かれた作品では、犯した過ち・愚かさによって人が死なない話になっている。人が人を殺さない、人への赦しがある。大きな過ち・愚かさを持つ人間がそれでも赦される話。シェイクスピア自身、あれだけ人が死んだり、殺し合う物語を書いてきたが、最晩年には、人が人を殺すことはもうやめてほしいと思って書いたのではないか。イギリスのEU離脱をはじめ、歴史が逆戻りしているかのような昨今の世界情勢を見ていて、よく知られたシェイクスピア戯曲ではなく、人が人を殺すことのない『冬物語』を選んだ」とのことでした。

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宮城さんから濃厚な話を聞いたあとは、参加者の皆さんには舞台にも上がっていただきました。

実際の上演と同じ完全暗転を体験してみたり(かすかな灯りを頼りに俳優は舞台上を移動するのです)、俳優が舞台上から見ている景色を見たりすることができました。今回の舞台美術には、「こんな素材で、こんな空間ができるとはびっくり!!」という感想をたくさんいただきました。「今までの舞台装置で最もインパクトがありました」という声も。ぜひ劇場でお確かめください。

初日まで一週間を切りました。
舞台作業もいよいよ大詰め、日々の稽古を通じて作品はぐんぐん成長しています。
ご期待ください!

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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯4
シェイクスピアの『冬物語』
一般公演:1月21日(土)、22日(日)、29日(日)
     2月4日(土)、5日(日)、11日(土)、12日(日)
演出:宮城聰 作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:松岡和子
音楽:棚川寛子 出演:SPAC
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
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