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2010年4月8日

ボゴタ演劇祭参加の記⑦ 公演四日目

ボゴタ演劇祭参加の記

SPAC文芸部 横山義志


4/4

公演四日目。

17時開演なのでスタッフ9時15分発、俳優10時15分発。

トレーニング・昼食の後、13時30分から宮城さん稽古。主にムーバーの動きをチェック。

16時、毎日恒例の阿部一徳さん(メデイアのスピーカー)の声出し。劇場が震える。

16時25分、やはり恒例の暗転チェック。最後の暗転のために、明かり漏れを徹底的にチェックしていく。字幕担当の丹治とロシオが字幕用プロジェクターの明かりを隠すために走り回る。コロス役の俳優たちが楽屋から出てスタンバイ。

こうして16時30分に客席を開場し、本番へと突き進んでいく。劇場前でお客さんにブエノスタルデス、ブエノスタルデスと声をかける。

というわけで、今回は字幕担当の丹治とロシオをクローズアップ。

二人とも外国語はあまりできないので、日本語とスペイン語でふつうに会話している。なんだか、だいたい通じているのが不思議である。今回、通訳は二人いるものの、字幕担当は舞台から遠く離れた二階客席で孤独な作業をしているので、いちいち通訳を呼ぶよりは、身ぶり手ぶりと片言の英語で済ませた方が早いのである。実際、技術スタッフ同士の会話だと、はじめは通訳を通して話していても、途中から直接話すようになって、なんとなく通じてしまうことが多い。通訳よりもスタッフ同士の方が機材も作業の目的も理解しているので、魚心あれば水心なのである。

『王女メデイア』の装置と左右の字幕

『王女メデイア』の装置と左右の字幕

SPAC制作部の丹治陽(たんじ・はる、制作部)は字幕操作のプロでもある。ドイツ語だろうがロシア語だろうが中国語だろうが、どんな舞台の字幕でもこなしてしまう。海外作品の日本公演の場合には通訳と組んでやるのが普通だが、場合によっては音と仕草を頼りにきっかけをつかみ、一人でやってしまうこともある。

制作部・丹治

制作部・丹治

字幕操作は、舞台とのあうんの呼吸が重要になる。字幕が遅れてしまうと観客がいらいらするし、かといって早く出過ぎると、先にネタがばれてしまって、笑いが出なくなってしまったりする。だが、このタイミングを合わせるには、ネタの方を調整するしかない場合も多い。台詞を話す時間に対してテクストが長すぎると、観客が読み終える前に次に行ってしまうわけにも行かず、遅れてしまうし、逆に短すぎると、「こんなにしゃべっているのにこれだけしか出ないのか」と思われてしまう。

字幕のテクストはたいていは翻訳者が台本とDVDをもとに作っていくのだが、実際本番前の稽古で合わせてみるとなかなか合わないことが多い。時間が経つと俳優の間も演出も変わったりするので、仕方のないところである。それを合わせるため、通訳さんと一緒に、毎日足したり引いたり、細かいタイプミスをチェックしたりする。

ロシオは公演ごとにコンピューターとプロジェクターを持ち帰り、毎回全部設置し直すので(というわけで毎回左右二つのプロジェクターのフォーカスを合わせるために二階客席を走り回ることになる)、ロシオが劇場に来てから公演までに使える時間に応じて、どこまで直せるか計算して、作業を進める。

それに加えて、プロジェクターで出す場合には、スクリーンの大きさや場所などによって、一行に入る字数が変わってしまう。なので「ちょっとスクリーン(プロジェクター)の場所を変えようか」という話になると、全てのコマの行数を再調整しなければならない。

というわけで、だいぶ合うようになってきたなあ、と思ったら楽日、というのが字幕担当の日々なのである。

練りに練られた字幕の甲斐もあってか、今日はいよいよ盛り上がっている。コール5回、ブラボー、一階席総立ち。

より緻密に見てくれるようになったのか、今回ははじめて、音楽終わりでは拍手がなく、暗転ではじめて拍手が起きた。