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2018年11月18日

『マハーバーラタ』パリ・サウジ日記(3)ラ・グランド・アール、肉市場から文化施設へ

SPAC文芸部 横山義志
2018年11月15日(木)

 
会場のラ・グランド・アールに行くと、今月の演目の看板が設置されていた。このスケールだと、何をするにも大仕事。

11月12月看板

朝9時から作業。この舞台は現地で作らなければならないものも多い。いろいろ切ったりつないだり。

作業リスト

18時過ぎ、俳優たちがパリに到着。

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この『マハーバーラタ』のリング状舞台が入るような大きさの屋内会場はパリにいくつもないだろう。鉄骨とガラスでできた、レトロモダンのちょっと不思議な建物。ここにはなかなか面白い歴史がある。

ラ・ヴィレットはパリ市の壁のすぐ外にある自治体だったが、1859年にパリ市に統合された。この建物は「ラ・グランド・アール(La Grande Halle)」という。「アール」というのはフランス語で「市場」の意味。急激な人口増に対応するためのナポレオン三世によるパリ改造計画の一環として、1867年にオープンした。それまでパリ市内と周辺5カ所にあった肉市場を一カ所に統合して、パリの中心から少し離れたところに、85メートルX245メートルで高さ19メートル、2万6000平米という巨大で衛生的な食肉処理場兼肉市場を作ったわけだ。

このラ・グランド・アールは、はじめは「牛肉市場(Halle aux bœufs)」と呼ばれ、月曜日と木曜日に市が開かれていた。最盛時には5000頭ほどの牛が取引されていたという。ここには他にもう二つ、羊肉市場、仔牛肉・豚肉市場もあった。

1900年からはこのラ・ヴィレットが「農業総合コンクール」の会場となり、カーニバル(謝肉祭)のときには、ここから「大牛(ブフ・グラ bœufs gras)の行進」が行われるようになった。フランス全国から選りすぐられた生産者自慢の牛たちが、パリの街を練り歩く。

このラ・グランド・アールのような鉄骨とガラスの建築が流行ったのは1851年のロンドン万博で一大センセーションとなった「水晶宮」がきっかけ。1857年オープンのパリ中央市場「レ・アール・ド・パリ(Les Halles de Paris)」もやはり鉄骨とガラスの建築だったが、これは1970年代に解体されてしまった。きっとこれができたときには、旧来の市場に比べて、強烈な清潔感が感じられるものだったのだろう。

ラ・ヴィレットの肉市場は1974年に閉鎖され、ラ・グランド・アールは1979年にフランス歴史遺産に指定されて、2007年に修復が終了した。その過程で、この建物は文化施設へと改造されていき、マイルス・デイヴィスやローリング・ストーンズ、デヴィッド・ボウイなどの大型コンサートを受け入れてきた。個人的には、池田亮司のライヴが思い出深い。ライヴに行って耳栓を配られたのはそれがはじめてだったが、この場所だからこその超爆音体験だった。

『マハーバーラタ』には、動物たちもたくさん登場する。豚をほふって肉を焼く場面があり、またヒロインのダマヤンティー姫が巨大な虎に喰われそうになる場面もある。これは人間が世界の支配者ではないことを教えてくれる物語でもある。ラ・グランド・アールができてから、パリの街では謝肉祭のときくらいしか家畜を見かけなくなっていった。そして今では獣たちはもっと遠くに追いやられ、音楽すら街の端へと追いやられている。ここで上演される『マハーバーラタ』はどんな意味をもつことになるのだろうか。

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『マハーバーラタ』(ラ・ヴィレットのウェブサイトへリンク)
https://lavillette.com/programmation/satoshi-miyagi_e20

『マハーバーラタ』フランス公演(SPACウェブサイト内)
http://spac.or.jp/mahabharata_japonismes2018.html

ジャポニスム2018参加企画 ふじのくに魅力発信事業(SPACウェブサイト内/日仏併記)
静岡県は、ジャポニスム2018公式企画に選定されたSPACの『マハーバーラタ』公演を活用し、公演期間である2018年11月19日から11月25日の間、「Mt. FUJI × TOKAIDO(富士山と東海道)」をテーマに、パリ市内で静岡県の魅力を世界に向けて発信するさまざまな事業を展開します。
http://spac.or.jp/news/?p=14636
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