去る3月19日に、「ふじのくに⇄せかい演劇祭2019」「ふじのくに野外芸術フェスタ2019」および「ストレンジシード静岡」の東京記者発表会を行いました。
『歓喜の詩(うた)』構成・演出のピッポ・デルボーノさんは、同日アートフェスティバルに参加されるため香港に滞在しており、特別にビデオ通話でご参加いただきました!
今回のブログでは、記者発表で語られた本作への思い、そして宮城が語った期待をご紹介します。
『歓喜』というのは一つの「人生の旅」です。
ジャンルーカ・バッラレーという俳優が、「心の苦しみというのはいつか去っていくだろう。そして歓喜が訪れるだろう。」と言うのですが、これが私の考える「歓喜への道のり」ということになります。
今この時代に、「歓喜」というタイトルで演劇を上演するのは非常に難しいと思っています。非常にレトリックのある言葉なんだけれども、でも「歓喜」という言葉を語るのが難しい今の時代だからこそ、「歓喜への道のり」を私は一緒に創作を行っている劇団員や音楽、言葉、さらにはダンス、現代芸術のインスタレーション的な舞台装置を使って物語りたい。
この作品は苦しみに満ちた叫び声ではじまります。それは傷のような、なにかが壊れてしまったような、そういう叫び声から始まるんですけれども、それは私が考える「歓喜」というのが、問題がなにもないというような状態、よく考えられるような喜び一般を指しているのではなく、”苦しみを超えた先にあるもの”というコンセプトだからなんです。
先ほども映像で見ていただいたように、舞台の上には紙で覆った船や布などが置かれて、最後に花が登場します。この花というのはわたしのイメージの中では蓮の花です。皆さんもよくご存知であるように、蓮の花というのは、泥の中から美しい花を咲かせる。つまり、苦しみの中から花が生まれるというようなイメージです。イタリアを代表するシンガーソングライターで、ファブリツィオ・デ・アンドレという人がいるんですけれども(デルボーノさんと同じリグーリア州の生まれ)、彼の歌のなかでも以下のような歌詞があります。
dai diamanti non nasce niente, dal letame nascono i fior
(ダイヤモンドから生まれるものは何もない、肥えだめから花が生まれる)
宮城の
「2007年に上演した『沈黙』のなかでベートーヴェンの「手紙」が出てきましたね。
今回の『LA GIOIA』というタイトルを見たときにも、ベートーヴェンのことを思い出しました」
という呼びかけに対し、デルボーノさんは
「もちろんベートーヴェンというのはこの作品のなかに深く影響している。やはりベートーヴェンも耳が聞こえないなかで「歓喜の歌」という最高傑作を創りあげたわけです。耳が聞こえない中で美しい音楽を作り上げる、というのは、私たちが苦しみのなかにいて歓喜ということについて考えるのとまったく同じ、いわばパラレルな状態です。」と応答。
会場からは、3度目となる演劇祭参加について、静岡やSPACについての感想をという質問がありました。
ピッポ・デルボーノさんは、
「わたしはとても日本を愛していて、特に静岡、宮城さんに対して非常に大きな愛情を抱いています。3回もフェスティバルに呼んでいただいて本当に感謝しています。日本を愛しているのはなぜかというと、日本というのは大きな苦しみと優しさ、両方を持ち合わせた国だと考えているからです。苦しみ、そして賢明さというものが同時に存在している、日本に来ると自分の家に戻ったような気もするんです。」
と答え、2007年の、今でも語り草となっている雨の中での野外上演についても、忘れられない出来事になったと語ってくれました。
(関連ブログ:2017年【5/1演劇祭レポート】静謐な楕円堂にこだまするピッポ・デルボーノの魂の叫び…!『六月物語』)
また、記者発表の最後にも、宮城はピッポ・デルボーノさんへの思いを語りました。
「僕がSPACに来てから13年になりました。2007年に着任してすぐに演劇祭に招聘したのが、ピッポ・デルボーノさんだったんです。彼と僕は同い年で色々なところで非常に共感するし、ライバルという気持ちもある、常に意識している存在なんですね。
その年、彼のたくさんのレパートリーのなかから厳選して、『戦争』と『沈黙』という2作品を上演してもらいました。そして彼が昨年作ったのが『歓喜(の詩)』。
デルボーノさんにとって、ミューズと言ってもいいかな、創作のパートナーでありイメージの源泉であったボボーさんという言葉の話せない俳優がいました。ボボーさんは二十数年施設に入っていて、そこで行われたワークショップでデルボーノさんとボボーさんは出会い、その後デルボーノさんはほとんど施設から奪うようにして、自分のカンパニーのメンバーにしました。そのボボーさんが今年の2月に亡くなりました。デルボーノさんの創作の一つの円環がここで閉じられた、というわけです。
『戦争』『沈黙』そして『歓喜』、これがピッポ・デルボーノというアーティストの大きな輪を示しているのではないか。もちろんこの先デルボーノさんがボボーさんを亡くした後、新たな創作の道に入っていくことを期待しているけれども、ボボーさんと二人で歩んでいたあの道の一つの回顧を、この『歓喜の詩(うた)』という作品で見せてくれると思っていて、それも僕にとっては感慨深いことです。」
『歓喜の詩』初演で重要な役割を演じられていたボボーさんですが、本公演では<声の出演>として登場されます。
そこに関わるたくさんの人たちの思いが詰まった舞台の祭典「ふじのくに⇄せかい演劇祭2019」。その最後を飾るのが本作『歓喜の詩』です。
苦しい過去、辛い現在、不安な未来、そんなものを乗り越えて、誰もが人生に幸せの華を咲かせられる。明日からまた、希望に満ちた一歩を踏み出せる。
新しい元号が始まる、この大型連休の最終日に、祭りの最後の締めとして、ぜひ、本作を劇場でご覧ください。
きっと連休明けの平日の朝も、穏やかな気持ちで迎えられるはず!
▼『歓喜の詩(うた)』作品トレーラー
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『歓喜の詩(うた)』
構成・演出:ピッポ・デルボーノ
公演日時=5/5(日・祝)、6(月・休)各日13:00 ★5日は残席僅かとなっております。ご予約はお早めに!
会場=静岡芸術劇場
上演時間=100分 ※イタリア語上演/日本語・英語字幕
*詳細はコチラ
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