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2019年5月29日

「ふじのくに⇄せかい演劇祭2019」後半レポート

早いもので5月も後半。ゴールデンウィークにパフォーミングアーツで賑わった静岡の街にも、日常が戻りました。「ふじのくに⇄せかい演劇祭」後半の4日間を、写真とともに振り返ります!
★前半レポートはこちら
 
5月2日(木・休)

五月晴れで迎えた演劇祭後半は、スコットランドのミュージカル『マイ・レフトライトフット』で幕を開けました。「インクルーシビティ(包括性)」をテーマにした作品ということで、静岡芸術劇場には、筆談に応答できる「コミュニケーションボード」や休憩案内の文字情報パネルを持ち歩くスタッフの姿も。さらに来日したカンパニーのリクエストで、「ジェンダーフリートイレ」の表示や、「カームダウン」ルームも仮設されました。
そして開演!冒頭から、明るくエネルギッシュな歌声が響き、客席からは度々拍手が起きます。
 
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パワフル!そしてブラックユーモアも満載!! [撮影:平尾正志]
 
「コメディであること、笑える要素があることが非常に大事。周りの世界を笑う、それから自分たちを笑うことによって対話が生まれる」。自らも障がいを持ちながら、スコットランドの舞台業界の一線で活躍する演出家、ロバート・ソフトリー・ゲイルさんの言葉通り、障がい者に対する固定観念や、障がいそのものをも明るく笑い飛ばす一級のミュージカルは、観客に鮮烈な印象を残しました。
 
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「障がい者を演じる」、難しいテーマにも関わらず会場は始終笑いに包まれた。[撮影:平尾正志]
 
上演に先立ち、午前中には「クリエイティブ・アクセシビリティについて考える」というテーマのシンポジウムが行われました。演出家のロバート・ソフトリー・ゲイルさん、浜松市で活動するNPO法人クリエイティブサポート・レッツの久保田翠さんにお話いただきました。(トーク内容は、携帯アプリを使って文字情報としても提供されました)
 
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「障がいのある人たちの物語を舞台で具体化すると、彼らの姿が見えるようになる。それを観てもらうことで話ができるようになり、対話が生まれる」と語るゲイルさん。 [撮影:猪熊康夫]
 
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「芸術には、様々な人たちを包括していく力がある」と話す久保田さん。 [撮影:猪熊康夫]
 
劇場、観客、そしてアート、表現。自由だと思いがちな場にも、健常者が作った様々な「フォーマット」や「ルール」、そして「壁」「枠」が存在する。障がいを持ちながら舞台芸術の一線で創作を行うゲイルさんは、その枠の中から「壁」を壊し、今や目標とされる存在に。対して「表現未満、」などのプロジェクトで、障がいをもつ方々の自由な表現活動を支える久保田さんは、既存の「枠」を常に問い直すことで芸術の可能性を拓く。障がいの有無に関わらず、誰もが芸術ひいては社会にアクセスしやすくなるためのヒントを沢山いただいたトークでした。
★より詳しいレポートはこちらから。
 
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[撮影:猪熊康夫]
 
2日には、いよいよ駿府城公園での『マダム・ボルジア』も開幕!
夕暮れ時、紅葉山庭園前の特設会場では、「青年貴族」と呼ばれる俳優たちによる観客への口上が始まり、広場には笛や太鼓の音が響きます。
 
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観客は青年貴族に率いられ、“領民”となって客席へ。[撮影:日置真光]
 
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日が暮れ始める広場で、前半の舞台。 [撮影:猪熊康夫]
 
前半の舞台は、「水の京(みやこ)」(原作ではヴェネツィア)。楽師を乗せた小舟・・・ならぬトラック(!)が場内に到着し、戦国風の衣裳を着た青年貴族たちが、悪名高きルクレツィア・ボルジアのウワサ話を寸劇で披露します。仮面をつけたルクレツィアが現れ、生き別れた息子ゼンナロと再会するも、ゼンナロの友人たちに侮辱を受け失神・・・そしてトラックで退場〜(♪)突飛な演出に、会場も沸きます。
と、ここで観客は後半の会場、「高嶺の国」へと再び移動します。
 
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色鮮やかな屏風絵が並ぶ後半の舞台。[撮影:平尾正志]
 
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[撮影:日置真光]

 
後半は、毒を飲まされたゼンナロと、母だと打ち明けられぬまま息子を救いたい一心のルクレツィアの息もつかせぬ展開。緊迫した長ゼリフの応酬に、夜間の冷え込みにもかかわらず集中した空気が立ちこめ、終演後は客席から温かい拍手が送られました。
「劇場の境界線をできるだけなくしたい」、宮城の想いは、現実の世界と作品世界とを緩やかにつなぐ〈広場を取り囲む低い客席〉や〈役者たちによる誘導〉などで形となり、また、役者、技術スタッフ、制作スタッフそしてボランティアクルーが一丸となって「観客500人の移動」が実現しました。来場いただいたお客様によってその「場」が完成した感慨はひとしおでした。
 
そして、今年の演劇祭の夜はここで終わらない・・・
「しりあがり寿presentsずらナイト」が、ガーデンカフェ ライフタイムでスタート!
「“ずら”はカツラのヅラじゃないんですよ〜、東海道ずらベルト、静岡の方は方言で♪」、しりあがりさんのゆる〜いトークで始まったトーク&ライヴイベントは連日大盛況!落語女子♡や音楽ライヴを楽しみに来られる方も、フェスティバルの夜を満喫しました。
 
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千穐楽を迎えたばかりの宮城聰が登場し、建畠晢さん・しりあがり寿さんとで『マダム・ボルジア』を批評する夜も。
 
5月3日(金・祝)〜6日(月・休)

3日から、静岡市街地で「ストレンジシード静岡」が始まりました!静岡市役所周辺や商店街など、街のあちこちでストレンジシードの“黄色”が目に留まります。
 
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大階段ステージにてFUKAIPRODUCE羽衣 [撮影:平尾正志]
 
今年は全国、そして海外からも注目のアーティストたちが静岡に大集結!そして開催場所のバリエーションも豊か!!
 
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駐輪場を舞台にした作品を、実際に駐輪場で上演した「ロロ」 at駐輪場ステージ(静岡市文化会館前)[撮影:平尾正志]
 
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市役所ドームをバックに「劇団短距離男道ミサイル」 at水上鏡池ステージ(静岡市役所 敷地内広場)[撮影:平尾正志]
 
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1934年に建てられたレトロなエントランスで「ホナガヨウコ企画」 atレトロステージ(静岡市役所 本館)[撮影:猪熊康夫]
 
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「Magik Fabrik」(フランス)の無言劇に観客も飛び入り。 atレトロステージ(静岡市役所 本館)[撮影:猪熊康夫]
 
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愛情表現とケンカは表裏一体?! スペインから来日「HURyCAN」 at階段ステージ(静岡市役所 敷地内)[撮影:猪熊康夫]
 
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芝生の上に言葉と動きが転げ回る「ままごと×康本雅子」 at芝生ステージ(駿府城公園内)[撮影:平尾正志]
 
静岡市民ギャラリーの一室を使った「範宙遊泳」は、“子どもも見られる作品”ということで最前列に子ども席を設け、大人も子どもも独特の劇世界に引き込みます。

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山梨から静岡にやってきた男と人魚♡ 「範宙遊泳」 atギャラリーステージ(静岡市民ギャラリー)[撮影:平尾正志]
 
コンテンポラリーダンスの熱いパフォーマンスからも、目が離せません!
先鋭的、同時代的な表現に、老若男女問わず誰もが触れることができる、しかも無料で!この場所から新たな観客が生まれる、そんな期待もふくらみました。

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ドラムとの熱いセッションを繰り広げた「山田うん」 atレトロステージ(静岡市役所 本館)[撮影:猪熊康夫]
 
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限界まで踊るダンサー(大熊聡美)、大通りの向こうにも立ち止まって観る人の姿が。「黒田育世(BATIK)」 at階段ステージ(静岡市役所 敷地内)[撮影:猪熊康夫]
 
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目抜き通りの交差点をジャックする「川村美紀子×米澤一平」 at 十字路ステージ(札の辻)[撮影:猪熊康夫]
 
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一般公募の参加者と創作、「いいむろなおきと静岡ストレンジシーズ」at芝生ステージ(駿府城公園内)[撮影:平尾正志]
 
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七間町通りを闊歩する「壱劇屋」と観客たち at十字路ステージ(札の辻)[撮影:平尾正志]

静岡では、大道芸ワールドカップが定着していることもあって、観客の受け入れ方がとても柔軟で懐が深いと感じました。参加したアーティスト同士もジャンルに関係なく交流し、フェスティバルならではの時間と空間が街中にあふれていました。
 
5月4日(土・祝)

街がストレンジシードで盛り上がる中、演劇祭の恒例となった「広場トーク」も行われました。この日は昼過ぎから急に黒雲が・・・、小雨の中でトークはスタート!しかしこの雨が、登壇者と聴衆の距離をぐっと縮めてくれました。
 
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左から:司会の中井美穂さん、劇作家の石神夏樹さん、静岡県文化プログラムのコーディネーターなど務める鈴木一郎太さん、作曲家の原田敬子さん、SPAC芸術総監督の宮城聰。[撮影:猪熊康夫]
 
「アートは地域に何をもたらすか?」というテーマで、ゲストと宮城がそれぞれのフィールドでの体験を紹介。
インドネシアで現地の人々と演劇作品を創った石神さんは、迷惑をかけること、損をすることを恐れない、地域に入って生まれる「清算できない関係」の魅力を。鈴木さんは、生活者がそこにある状況をなんとかしようと「何かしている」、その姿自体がアートワークに近いという感覚から様々なプロジェクトを立ち上げていることを語りました。

42_Inokuma_1033「空気を読まずに面白いと思ったことを作品にする。体当たりで何かが起きることが多い」と語る石神さん。[撮影:猪熊康夫]
 
43_Inokuma_1038「もともと演劇をやってないんです。演劇祭で創った作品では、観る側が演劇だと勝手に解釈してくれて・・・」と自然体の鈴木さん。[撮影:猪熊康夫]
 
また、作曲家としての活動と並行し、長年、奄美郡歌の調査研究を行う原田さんは、「生活を伴う言語と、それに即した発声法」に魅せられているという。「地域にいなかった人(アーティスト)が入ってくることで、地域の人が気付く」こともあり、アーティストが地域から受け取りお互いに発見し合うというお話に、他のパネリストも共感していました。
静岡での活動が13年目を迎える宮城は、「ここ5年、自分の作品が変わってきた」こと、そして静岡で観客を想像しながら創ることで「ちょっとだけ普遍性が増したのでは」という実感を語りました。
 
44_Inokuma_1027「最初は不審者(笑)。でも地域のことを、地元の人以上に知っている事があると、入っていける」と話す原田さん。[撮影:猪熊康夫]
 
5月6日(月・休)

迎えた演劇祭最終日。5日から静岡芸術劇場で上演され、演劇祭のラストを飾ったのは、ピッポ・デルボーノ演出の『歓喜の詩(うた)』
「この作品は、ボボーの死から蘇ります」、こんな言葉から作品は始まりました。
 
51_MG_1591 2[カンパニー提供写真 / 撮影:Luca Del Pia]
 
52_MG_0408[カンパニー提供写真 / 撮影:Luca Del Pia]
 
長年、世界中を旅しながら活動を共にし、集大成と言うべき本作にも出演していたボボーが今年2月に亡くなり、失意の只中にあるデルボーノと仲間たち。
ボボーが座るはずの椅子に、彼はいない。「喜びはどこに?」、舞台上にはボボーの「不在」が在り、彼らの苦しみと愛情が痛いほどに伝わってきます。しかしそこにはまた、様々な境遇の中で傷ついた心の再生、そして全身で今を肯定するパフォーマーたちの存在があり、詩や戯曲などから引用されたデルボーノの言葉の数々が。最後に花々が舞台を埋め尽くし、私たちもいつの間にか生きる希望の只中にいる、そんな舞台でした。

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[カンパニー提供写真 / 撮影:Luca Del Pia]
 
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[カンパニー提供写真 / 撮影:Luca Del Pia]
 
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温かい拍手がいつまでも続いたカーテンコール。[撮影:平尾正志]
 
終演後に行われたアーティスト・トークでは、宮城が「同い年の大切な友人ピッポ」への言葉を贈り、トーク後は固い握手が交わされました。
 
56_HO063375 [撮影:平尾正志]
 
57_P2110896 [撮影:平尾正志]
 
開催20回目という節目の演劇祭。劇場で観る作品の幅広さ、奥深さ、そして街へ飛び出したパフォーミングアーツの可能性、広がりも感じていただけたのではないでしょうか。初めての10連休、走り抜けた!という感覚とともに、20年という時間の中で、劇団SPACが作る演劇祭がお客様とともに歩いてきたのだな、という感慨も。
また来年、どんな作品との出会いがあるのか、私たち自身も楽しみにしています。
SPACの今後の活動にも、ご注目いただければ幸いです。

(テキスト:制作部・坂本彩子)