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2021年6月20日

「SPAC演劇アカデミー」スタート!

5月8日(土)より、「SPAC演劇アカデミー」の授業が本格始動!

世界に羽ばたく演劇人を目指して集まった16人の高校生が、
実技、英語、そして教養と、3つの授業を週に1回ずつ、これから約1年間受講していきます。
 
先陣を切ったのは、SPAC俳優の片岡佐知子が講師を務める実技の授業。
 
土曜日の昼過ぎ、舞台芸術公園内の楕円堂に集まった生徒たちに、まずはアカデミーの校長・宮城聰が語りかけます。

「今の自分があるのは、高校時代の蓄積のおかげ。友達と刺激しあいながら、何を美しく感じるのか、その価値観の基礎が築かれた。」
と、人生における高校生という時間の大きさを振り返ります。

加えて宮城は、演劇における「勉強」の重要性を、実感のこもった言葉で伝えていました。
「演劇をしぶとく続けるためには、勉強が大事。世界のこと、人間のこと、宇宙のこと…知れば知るほど演劇を続ける力になる。」
 

アカデミー生たちに語りかける宮城校長
 
そんな激励の言葉を受けて授業がスタート。
まずは「シアターゲーム」から。「シアターゲーム」とは、演技力向上と同時にアイスブレーク的な役割を担うワークのことで、よく稽古の序盤に取り入れられます。この日は、円になって互いの名前を呼びあったり、それぞれの動きを真似たりする「名前呼び」というシアターゲームで、身体をほぐしていきました。
 

シアターゲームの様子
 

続いて、片岡はアリストテレスが『詩学』の中で述べた、「芸術は模倣から始まる」という言葉を引用しながら、演劇祭で生徒たちが揃って観劇した、『アンティゴネ』の模倣を提案します。それぞれの印象に残ったシーンを、自分たちが目の当たりにした作品の記憶のみを手掛かりに、文字通り「模倣」していきます。まずは各自で練習したシーンの断片的な再現から、最終的にそれらをつなぎ合わせ、全編通してみることに。細やかな観察力とみずみずしい感性によって、1時間足らずで作り上げられた約15分の『アンティゴネ』を、講師や見学者は息を飲みながら見つめ、大きな拍手で讃えていました。
 

 

『アンティゴネ』の模倣
 

この日は、『アンティゴネ』でイスメネを演じたSPAC俳優の布施安寿香も見学しており、
「みんなの頭の中にある『アンティゴネ』を本能的に立ち上げた。その自然なイマジネーションが素晴らしい。あと1年で身体の精度を上げてほしい。」
と、率直な感想を伝えていました。
 

 
『アンティゴネ』上演時の役作りや、当時の心境を語る布施(写真右)の話に生徒たちは前のめりになり、真剣な対話が繰り広げられました。
 
模倣を終え、休憩をはさんだ生徒が次に取り組んだのは、SPAC俳優が日々の訓練で実践するトレーニングです。
 
「冬の枯れ木のように」「朝顔の花が開花するみたいに」と、身体の動作を自然物で例える片岡の説明を聞いて、素直にそれを体現しようとする生徒の姿勢が印象的でした。
 

トレーニングの様子
 
密度の濃い3時間を終えて、生徒たちは疲労と喜びの入り混じった面持ちで、稽古場を去っていきました。
 
 
翌水曜日の5月12日には、「ミュージカル映画で学ぶ英語」も始まりました。
この授業では全員が英語のみでコミュニケーションを取り合います。講師のAshが生徒の呼び名を確認しつつ、時間をかけて点呼をとった後、2人組を作り、それぞれ5分間の自己紹介を行いました。学年がばらばらで、勉強の進度も異なる生徒たちですが、身振りを交えながらの会話で、芸術劇場のロビーはにぎやかでした。
 

講師のAsh(写真左奥)
遠方に住む生徒はオンラインでの参加も可能


英語で自己紹介するアカデミー生たち
 
今後は『RENT』というミュージカル映画を中心に英語を学び、終盤には『RENT』を模した発表会も行われる予定です。
 
 
続けて5月14日、「『教養の書』を読む」というタイトルの授業がスタートし、3つの講義すべてが幕を開けました。

この授業では、哲学者の戸田山和久著『教養の書』を、1年を通して読み進めていきます。まずは、講師の関根淳子が自身の教養との向き合い方、その必要性について、いくつかキーワードを挙げながら語ります。


 
毎回、本の内容を順番に音読していくのですが、初回は本の目次と、あとがきを読み、その輪郭に触れていました。
読めない漢字、意味の分からない言葉に対峙した生徒たちは、一生懸命ペンを走らせてメモをとっていました。


音読の様子
 
授業の最後に設けられた質問タイムでは、
「この間、世界史の授業で『アンティゴノス朝マケドニア』という王国がでてきたのですが、『アンティゴネ』と何か関係はあるのでしょうか?」という問いに、講師たちも頭を悩ませながら、全員でその答えを探していました。
異なる場で学んだ知識同士を結びつけようとする姿勢が、教養の授業にふさわしく感じました。
 
授業の後半では、先日の演劇祭で鑑賞した、『三文オペラ』『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』『アンティゴネ』の3作品の感想を、少人数に分かれて共有しました。自分と同世代の仲間が、同じ作品について何を感じたのか、それを伝え、聞くことは興味深いようで、短い時間の中でも盛り上がっていました。
 


演劇祭の感想を語り合う様子
 
 
実技・英語・教養の3つの授業がコンスタントに行われる1年間。今回レポートしたそれぞれの初回から1か月が経ちましたが、(オンラインも活用しながら)生徒たちは日々熱心に授業に取り組んでいます。この演劇アカデミーを通じて、生徒たちはどう変化していくのでしょうか。講師・スタッフともに、同じ船に乗って色々な景色を見られたらいいなと思います!
 
 

文:込江芳(制作部)