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2010年8月23日

<スパカンブログ⑪>全力疾走

SPAC文芸部 横山義志

鬼に追いかけられて、必死に逃げたときのことを憶えているだろうか?もちろん本物の鬼に追いかけられた経験がある人は少ないだろうが、「鬼ごっこ」でも、本当に自分の命がかかっているかのような気持ちになるのは不思議なものである。

『ユメミルチカラ』の稽古場を訪れたとき、そんな風景を、すごく久々に見た。稽古が始まる前、舞台芸術公園の芝生の上で、出演する子どもたちが本気で鬼ごっこをしたり、花いちもんめをしたりしている。こんなに大声ではしゃいでいる子どもたちも、ずいぶん見なかったような気がする。これから四時間の稽古がはじまるというのに、こんなにエネルギーを消耗していいのだろうか。ニヤカムさんが来て、「みんな、ウォーミングアップする?それともすぐに稽古に入る?」と聞くと、子どもたちは「すぐに稽古で大丈夫」という。たしかに、体は十分温まっていそうな感じだった。

昨日の稽古見学会を見て、この「鬼ごっこ」のエネルギーがそのまま舞台に溢れていて、驚いた。中学生・高校生のダンスにこれほどのエネルギーがあるとは、想像していなかったのかも知れない。全体では約60分の舞台だそうだが、ずっと全力疾走しているかのような印象。ニヤカムさんの名前「メルラン(英語読みではマーリン)」は有名な魔術師の名前でもあるが、本当にニヤカムさんの魔法にかかったようである。

いらしていた出演者のお父さん、お母さんにうかがうと、帰ってくると「あー疲れた」といいながら、週に一度の休みである月曜日にも「今日も稽古があればいいのに」と言っているという。舞台芸術公園まで片道二時間かけて通っている出演者もいるそうだ。

稽古見学会のあと、県大・湖中ゼミでアフリカのことなどを研究している学生さんたちによる企画があった。実際にケニヤの難民キャンプを訪れた学生さんが、「難民キャンプというと貧困とか悲惨といったイメージがあるけど、そこで暮らしている子どもたちが、日本の子どもたちよりもキラキラとした目をしているのに驚いた」という話をしてくれた。ニヤカムさんとも、そんな話をしたことがある。

なんで豊かなはずの国の子どもよりも、アフリカの子どもたちの方が未来に希望を持っているように見えるのか。そんなことが見えてくるような作品になってほしいと思う。

本番まで残り二週間、ラストスパート。出演者たちもみんなそろそろ、すごく疲れているはずだが、やっぱり目を輝かせながら、県大生たちが準備してくれた「アフリカンながらくたアート」に取り組んでいた。

『ユ メ ミ ル チ カ ラ』、9月4日(土)・5日(日)公演予定。