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2022年5月21日

ふじのくに⇄せかい演劇祭2022『カリギュラ』制作レポート

今年のふじのくに⇄せかい演劇祭の開幕を飾ったブルガリア イヴァン・ヴァゾフ国立劇場の『カリギュラ』。実は、上演するにあたり様々なことが起こりました。

今回のブログでは上演にあたっての出来事も含めてレポートしていきます。

4月19日、ブルガリアより演出家、スタッフ、俳優、計34名が来日しました。
ホテルには夜中の到着だったにも関わらず、みなさんとても元気でそのパワーに圧倒されました。
翌日から3日間、ワクチンを3回接種していないメンバーは待機期間が必要となるためホテルにて隔離生活を送りました。

本番1週間前の4月22日。
待機を必要としていたメンバーは朝、PCRを受け、無事全員陰性となり晴れて隔離生活が終了。
しかし、この日の夕方に大きなトラブルが起こりました。
ブルガリアから届くはずの舞台装置、衣裳が上海のロックダウンの影響により間に合わないことが判明。
その日の夜に、演出家のディアナさんとSPACのスタッフとで代用の装置や衣裳で上演するか、日程を延期するか、それとも中止するのかのミーティングを行いました。
ディアナさんの「この作品は俳優の身体を見せるものなので、装置や衣裳がなくても上演できる」という一言で、予定通りの日程で装置や衣裳は代用品をかき集めての上演が決まりました。

翌、4月23日。
19日から来日していた俳優たちを静岡芸術劇場に急遽召集し、衣裳の採寸が実施されました。
慣れない英語でSPACのスタッフが身長や靴のサイズを聞いたりして、20人の採寸が完了。


 

また、ディアナさんと衣裳班チーフの駒井はSPAC作品の既存の衣裳で使えそうなものを確認したり、買おうとしている市販の服を見せたりしてイメージを共有。
一方装置に関しては、ブルガリアのテクニカルチームとSPACのテクニカルチームとで替案についての話し合いが行われました。


▲衣裳について話し合いをしているディアナさんと衣裳・駒井。突然のミーティングだったため通訳さんはオンラインで参加
 

▲舞台装置についてのミーティングの様子

話し合い後、装置や衣裳集め、製作がスタート。
次の日から2日間は注文したたくさんの品々が劇場に届いたり、スタッフも様々なお店に買い出しに行ったり…。


▲演出部、美術部総力戦で装置を製作している様子

4月25日から舞台上では仕込みがスタート。
ブルガリアの劇場には常設のオーケストラピットがありますが、静岡芸術劇場にはないため、舞台の上に仮設の舞台が作られました。

そして、26日には舞台美術が組み上がるという驚きのスピードで装置が完成しました。


▲舞台上にある客席は、静岡芸術劇場の最前列N列を使用しています

4月27日、俳優たちも劇場入り。
劇場に入るやいなや写真撮影会が行われたり、日本で買ったというギターを弾いたりと自由な様子でした。
本番時はマスクをはずして上演するために、俳優は全員まずはPCR検査を実施。
衣裳室ではできた衣裳のフィッティングも行われ、俳優たちの気分も高まっていきました。

劇場内では俳優たちと一緒に照明のフォーカス作業が行われました。
ブルガリアの劇場とは舞台の大きさも機材も違うため照明の調整は2日がかりで行われました。

そして4月29日、30日と静岡芸術劇場にて上演。
公演当日、1階のロビーにはブルガリア大使館よりご提供いただいたブルガリア民族衣裳を展示しました。
きれいな刺繍が施されていますが、この刺繡は街によって違うそうです。

 

上演前には文芸部の大澤真幸によるプレトークが行われ、作家カミュや『カリギュラ』が書かれた当時の社会の様子について、また主要な登場人物の説明など、観劇する前に聞いておくとより作品を楽しめる知識をレクチャーしてくれました。

 

29日の初日には、駐日ブルガリア共和国・アラバジエヴァ大使がご観劇され、終演後には日本語で祝辞を賜りました。

ブルガリアの魅力についてもご紹介いただき、またイヴァン・ヴァゾフ国立劇場が初来日を果たし、「ふじのくに⇄せかい演劇祭」で上演できたことを大変お喜びのご様子でした。

その後、アーティストトークが行われ、ディアナさんとSPAC芸術総監督の宮城聰が登壇しました。
事前にお客様からいただいた質問に答えながら、装置や衣裳が届かなかったことについて、また、舞台と客席(舞台上にあるもの)2つの場が演技エリアとなっていることについて話しました。
ディアナさんは、今回、装置や衣裳が届かなかったが、その分「人間の心の強さを見せる公演になった」とおっしゃっていました。


▲日本語でスピーチをしてくださったブルガリア大使・アラバエヴァさん
 

▲アーティストトークの様子
 

『カリギュラ』はローマ帝国第3代皇帝・カリギュラを題材にした作品ですが、お客様からは「現代社会と重なって見えた」という声が多くありました。

またアンケート等に「オリジナルはどういった装置や衣裳だったのか?」という声があったのでオリジナル版と今回の上演の写真を見比べながら違う点を紹介します。

まず衣裳について。
今回の兵士の衣裳は全身黒の衣裳を身に着けていましたが、オリジナル版はシルバーの衣裳で甲冑をつけています。

装置については、カリギュラが最初と最後に使用していた階段が、オリジナルでは最後の段まで登りますが、今回用意したものは構造上危険なため、途中までしか登ることができませんでした。
また、下の写真では見えにくいかと思いますが、階段後ろの丸い装置は用意することができなかったため、照明で表しました。


▲オリジナルバージョン
 

▲今回の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」上演バージョン

コロナ禍で海外の作品を招聘するということについて、考えさせられた作品となりましたが、様々な人の熱意やサポートがあり、なんとか上演することができました。

ご来場いただいた皆様ありがとうございました。
 

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『カリギュラ』

公演日時:2022年4月29日(金・祝)14:00、30日(土)14:30
会場:静岡芸術劇場
上演時間:105分
上演言語/字幕:ブルガリア語/日本語字幕
座席:全席指定
作:アルベール・カミュ
演出:ディアナ・ドブレヴァ
製作:イヴァン・ヴァゾフ国立劇場
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