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2023年5月16日

<レポートブログ>『XXLレオタードとアナスイの手鏡』アーティストトーク

温かい拍手が劇場を包み込んだ韓国の現代演劇『XXLレオタードとアナスイの手鏡』。
5月3日終演後のアーティストトークには、演出のチョン・インチョルさんと宮城聰が登壇しました。


▲カーテンコールの様子


▲左から、宮城聰、チョン・インチョルさん、通訳の金世一(キム・セイル)さん

舞台美術のカラフルな椅子に腰掛け、お客様が書いてくださった「質問カード」を宮城が読み上げる形で実施。
まず最初に紹介された質問には「めちゃくちゃ面白かったです!!」と嬉しい感想が書かれていました。

受験を控えた高校生たちの姿から見えてくる、社会の歪みに共感を覚えた方も多くいらっしゃったようで、LGBTQや多様性、また親と子の関係など多岐にわたる質問が寄せられました。

「多様性を求める運動や関心が高まる社会と、それに対する現実や現状について何を感じていますか?」という質問に、チョンさんは「急激に起こったことなので、まだ環境や世代による価値観の違いなど葛藤はありますが、韓国の演劇界ではそういったことをテーマとして扱う作品も多く作られています。今後はさらに理想と現実が近づいていくと信じています」と肯定的に捉えていて、それは、ハッピーエンドではないけれども、爽やかで温かい気持ちになれるこの作品とまさに同じだと感じました。

「大人になるということは?」というちょっと難しい質問には、「静岡や劇場に着いた時に感じた、経験したことのない多様な大きな世界があるという特別な感覚があった」ことに例えながら、「大人になるというのはそういう感覚なのだと思います」と回答。また、韓国における宗教とLGBTQの関係性に関する質問には「キリスト教3割、仏教3割、そのほかが3割」であることを挙げ「それが答えです」という禅問答のようなチョンさんの回答に、宮城も思わず「巧みですね」と反応していました。


 
韓国社会における世代間のギャップについての質問に対しては「韓国では世代間の分断を感じていて、自分自身も上の世代の方と対話する機会は多くないですが、静岡に来て、宮城さんをはじめ上の世代の方とお話ができて少し不思議な感じがします」とコメント。また、「セウォル号の事故では、船長の指示に従い船内で待機していた学生が犠牲になってしまいました。若い人たちと上の世代の関係にヒビが入った決定的な出来事です。この事件をきっかけに、若い人たちが自分達の考え方をもつようになりました」というチョンさんの言葉に、韓国の世情の変化を垣間見た気がしました。

もちろん作品についての質問もあり、舞台の3面を壁で囲う演出について「最初は上演中に出演者の登退場があったが、ある役の俳優は出番が15分くらいしかないことに気づきました。出番が少なくても観客とつながっている時間が必要だと感じ、俳優が常に舞台上にいることで関係性を持続させ、役の大小に関係なく全員で舞台を支えるような作品にしたかったんです」という回答に、客席からはおもわず拍手が。

2015年の初演から上演を続けるなかで、主人公に対する観客の反応がネガティブなものからポジティブなものへと変化したことや、ロンドン公演での観客の反応についてもお話しくださいました。

とても穏やかなチョンさんが「ドルパグ=突破口」という劇団名にした経緯もお話しくださり、親しい演劇人が「演劇の突破口を作る」と話したことに由来しているが、「あとから後悔している」とコメント。笑いに包まれながらトークは終了しました。

この日、ドルパグメンバーは『天守物語』を観劇。その際、近くに座っていたアカデミー生と交流する場面がありました。『XXLレオタードとアナスイの手鏡』観劇後のアカデミー生からの質問の嵐に、丁寧に応えているチョンさんの姿がとても印象的でした。


 

SPAC制作部 計見葵

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【演劇/アンサン・韓国】
『XXLレオタードとアナスイの手鏡』
日時:5月3日(水・祝)14:00、4日(木・祝)13:00
会場:静岡芸術劇場
上演時間:90分(途中休憩なし)
韓国語上演/日本語字幕

演出:チョン・インチョル
作:パク・チャンギュ
製作:シアター・カンパニー・ドルパグ
https://festival-shizuoka.jp/program/xxl-leotard-and-anna-sui-hand-mirror/
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