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2023年6月14日

<レポートブログ>『アインシュタインの夢』制作レポ

2023年の「ふじのくに⇄せかい演劇祭」のトップバッター『アインシュタインの夢』。
今回のブログではその振り返りレポートを、本作を担当したSPAC制作部・高林利衣がお届けします。
 
4月24日、『アインシュタインの夢』演出 孟京輝さんをはじめ、カンパニーメンバーのみなさんが静岡入り。翌日25日から早速、SPAC創作・技術部スタッフとのミーティングが行われました。じつは孟さんたちは、今春に立ち上げた中国での演劇フェスティバルを終えたばかり。公演に向けて急ピッチで確認をすすめていかなければならないなかで大活躍したのが、SPAC演出部スタッフの葉佳欣さん。中国語が話せる葉さんは、来日直前のオンラインでの緊急打ち合わせからはじまって、24日からの静岡芸術劇場での共同作業にも欠かせない存在でした。


▲技術スタッフのミーディングの様子
 
26日からは通訳の黄素英さんも合流して、いよいよ劇場仕込み開始。船便で到着したコンテナ荷物を搬入し、荷解きをしていきます。あの、舞台上に登場する包み(↓写真参照)もきれいに梱包されていて「ど、どこまで開封するんだろう??」と考えてしまいました。


 
午後からは音響チェックが始まりました。音響デザインのジャン・シンナンさんは、持ち込んだPCの調子が悪くて困っていましたが(海外公演先でなぜか起こってしまう不思議トラブル…)、やがてロビーににぎやかな音楽が流れ出し、マイクのチェックで「1、2、3、4(yī èr sān sì)」と中国語が聞こえてきました。制作部の面々は「演劇祭がはじまったなぁ」と実感するのか、中国語の1、2、3、4を口に出してみたり、「日本でも“ワン・ツー”じゃなくて“いち・に”でいいのかもね」と言ったりしながら、制作室でお仕事。リハーサル室では、稽古も同時進行です。
 
そんな風に順調にはじまったかと思いきや、字幕準備のほうでは修正作業に大忙し。事前に作成していた字幕と比べて台本の変更箇所がかなりたくさんあることがわかり、急ピッチで作業を進めなくてはいけなくなりました。字幕監修の園田祥子さん・字幕翻訳の飯塚容先生が連携をとりながら、少しでも作品の良さを届けるために、粘り強く作業をすすめていきます。
 
ちなみにこちらは、SPAC創作・技術部スタッフのお子さんが書いた『アインシュタインの夢』の舞台図面。どれがどれか、舞台をご覧いただいた方ならわかりますでしょうか?


 
さて、来日したカンパニーメンバーとのコミュニケーションもSPAC制作スタッフの重要なお仕事。一緒に制作を担当した坂中さんは、英語やチャットアプリの中日翻訳機能などを駆使して、みるみるうちにメンバーと仲良くなりました。ここでは、雑談のなかで彼らが教えてくれた情報を少しだけご紹介します。

・孟さんが主宰する劇団「孟京辉戏剧工作室」は複数のチームからなっていて、今回は青年部のメンバーが出演しているそうです。(今回の静岡での公演直後に、子どもたちのチームの設立とメンバー募集が発表されました。)
・劇団は俳優の層が厚く、出演や配役にも競争があり、起用してもらうためには日々のトレーニングとアピールが欠かせないとのこと。

また、志高い若き青年俳優である出演者の皆さんは、日本文化にも興味津々。アニメで覚えたという日本語がとても上手で、「こんにちは」「おはよう」「ちょっと待って」などの言葉を使いこなしていました。

ちなみに坂中さんも、彼らから中国語をたくさん教えてもらいました!
 牛逼(niúbī ニウビー)=ブラボー
 哥们儿(gēmenr グーマー)=親友
 你真不错(nǐ zhēn bù cuò ニージェンブーツオ)=あなたは素晴らしい etc..

※中国では「牛逼」など特定の言葉は気品にかける言葉として、カーテンコールで声に出すと罰金になることもあるんだとか。要注意です。

ほかにも、皆さんの休憩や移動時には写真の撮影大会が始まることもしばしば。思い出を大切にしていました。静岡芸術劇場から見える富士山にとても喜んでくれたのも印象的です。


 
27日からはいよいよ劇場でのリハーサルが開始。休憩中のほがらかな雰囲気とは打って変わって、ものすごい緊張感がピシッ!パシッ!と伝わってきます。スタッフ・出演者の皆さんが孟さんのイメージを舞台上に実現すべく、全力を尽くしているのがわかります。

28日には字幕翻訳・スパシャルトークの通訳の飯塚容先生が来静。孟さんとは実に25年ぶりの再会なんだとか!


▲飯塚先生(写真左)と孟さん(写真右)
 
29日はいよいよ本番初日。孟さんの演出の手腕もさることながら、出演者の皆さんの身体能力の高さや、表現力に魅了される舞台でした。出演者の皆さんの伸びやかな体つきのせいか、静岡芸術劇場の舞台がいつもより小さく感じます。直前まで修正が続けられた字幕のおかげで、ちょっとした言葉遊びまでが観客に伝わり、笑いが起きます。耳の不自由なお客様もお見えになり、舞台を楽しんでいただけて嬉しい限りです。

初日の夜は、カンパニーメンバーは雨の中、舞台芸術公園の野外劇場「有度」で『ハムレット(どうしても!)』を観劇しました。終演後は「フェスティバルbar」で小腹を満たしつつ、4月にOPENしたばかりの「せかいの劇場ミニミュージアム“てあとろん”」も楽しんでくれました。バスを待っている間には、孟さんから俳優たちへのノーツ(演じられた内容へのフィードバック)がはじまっているようでした。


 
30日のスペシャルトークでは、中国と韓国、日本の現代演劇の実状が垣間見えました。個人的には、日本、韓国の若者がなりたい職業の上位に、YouTuberが入っていることに孟さんが驚いている姿が印象的でした。国ごとに違いがありますね。


 
そして千穐楽となる30日の舞台も無事終了。両日、3階席までお客様をご案内いたしました!『ハムレット(どうしても!)』『XXLレオタードとアナスイの手鏡』の来日メンバーも静岡芸術劇場に観に来てくれました。終演後、孟さんと宮城さんは、感謝を伝え合い、またの再会を誓い合っていました。


▲感謝を伝え合う宮城さんと孟さん
 
舞台のバラシ作業(片付け作業)を終えて、ホテルにいったん戻り休んだ一行ですが、空港行きのバスは深夜2時に出発…慌ただしくも、名残惜しい別れになりました。


▲空港行きのバスの前でお見送り

(制作部・高林利衣)

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『アインシュタインの夢』
公演日時:2023年4月29日(土・祝)13:30、30日(日)13:30
会場:静岡芸術劇場
上演時間:75分(途中休憩なし)
上演言語・字幕:多言語上演・日本語字幕
座席:全席指定
演出:孟京輝(モン・ジンフイ)
製作:ノース・パーク・シアター
   孟京辉戏剧工作室(モン・シアター・スタジオ)
https://festival-shizuoka.jp/program/einsteins-dream/
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