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2024年5月22日

ふじのくに⇄せかい演劇祭2024 『かもめ』公演レポート

「ふじのくに⇄せかい演劇祭2024」5月3日(金・祝)~6日(月・祝)、静岡芸術劇場にて上演された、ベルリン・シャウビューネ『かもめ』の公演レポートをお届けします!

今回の公演、いつもと違うことといえば・・・舞台上に仮設客席を設置しての上演となったことでした。この客席は、SPACの創作・技術部のスタッフたちが一丸となって設営しました。




劇中に登場する、椅子などの小道具も、ベルリンで上演されるときのものとなるべく似ているものを探して準備し、シャウビューネのみなさんの到着を待っていました。


▲ベルリンでの舞台写真


▲用意した椅子

今回日本に来日したシャウビューネメンバーは総勢20人超え!
俳優・スタッフそれぞれ分かれて日本に到着しました。
初来日の方も多く、緑茶が加糖ではないことや、電車がいつもオンタイムなことにとても驚いていました。

 
(ドイツで最も有名な演出家のひとりトーマス・オスターマイアーさんと、オーストリアの国民的俳優と称されるトリゴーリン役のヨアヒム・マイアーホッフさんを空港からアテンドした制作部の坂中は・・・大スターに臆することなくセルフィーでパシャってました!汗)

そして、全員が劇場に集まった日には「MEET&GREET」を実施!シアタークルー(ボランティアスタッフ)も含めた全員で円になって自己紹介をしました。

今回の上演では、ベルリンでの上演と同じように巨大な大木を準備するということができませんでした。そこで木の代わりに、シャウビューネからライブペインティングにしたらどうだろうという提案があり、静岡ではベルリンでも観られない特別バージョンでお届けすることに。『かもめ』は2023年にベルリンで初演された比較的新しい作品で、海外ツアーも初めて。それに加えて木がない!となると、ほぼ“新作”のようなテンションです。


▲人が乗れるほど大きな木(ベルリンVer)はライブペインティングで後ろに描かれました(静岡Ver)

だからこそ、このライブペインティングへの変更で本当に成り立つのかという部分が今回の上演のネックとなりました。

ペイントする幕には、ペインターの影は映らないようにしたい、つり目、縫い目が見えてはいけない、そしてペンキをはじいてはいけない・・などなど条件がたくさん。
シャウビューネから提示された条件のもと、SPAC側で最良のものを準備していましたが、いざペインターが幕に描いてみたら、絵がぼやけてしまうことが判明。。この時点で初日2日前、、引き返せない事実に現場から血の気が一気に引いていきました。

絵がぼやけてしまう原因は、ホリゾント幕とその後ろに敷いてある養生のビニールシートの間に隙間ができてしまうこと。以前ヨーロッパでこの手法を使ったときは、静電気でぴったりくっついていたらしいのですが、静岡では静電気は発生せず・・。現地との気候などの条件の違いは、舞台裏に多大な影響を及ぼしました。

日本側のスタッフで話し合い、ホリゾント幕とビニールの間に空気が入らないように四隅をテープで止めてみて、それでもダメだったら、ホリゾント幕に直接描いて毎日洗濯することにしようと腹を括り、一旦帰宅。

翌朝検証してみると・・絵がぼやけなくなった!!


▲ペンキをべったり塗ってもはじかずパッチリです◎

この原点に立ち返ったシンプルなアイデアで、見事に問題を解決することができました!!

今回の『かもめ』は、チェーホフが200年以上前に書いた内容をそのまま上演するのではなく、時代を現代に置き換え、且つ俳優たちがそれぞれの役を解釈し、自分の言葉にして台詞を発していました。前日のゲネプロを迎えるまで、静岡でもオスターマイアーさんは俳優との稽古にみっちり時間を割き、俳優たち自身が考える、その役への解釈について考えを巡らせていました。

シャウビューネのみなさんは、常にベストを尽くすという考えが念頭にあって、細部までこだわりぬく姿が印象的でした。


▲日本に来てから小道具が変更になったことも・・。

通常客席を使用しないこと、全席自由席なことなど、静岡芸術劇場での通常の公演とは違う要素に観客の皆様もドキドキされていたかと思います。この特殊な空間を、静岡─ドイツ間の距離感で議論し作っていくこと、そして実際に来日してから共同で作っていくことには様々なハードルがありましたが、無事に幕を開けることができました。ゼロ距離で観られる2時間30分の体験は、あっという間に感じられるほど至高の時間になったのではないでしょうか。


▲ちなみに通常客席からは全然見えませんでした・・

▽静岡ツアー中に、なんとこの『かもめ』の公演が通算50回目を迎えていました!
これからも世界中の人を魅了するであろう本作。ベルリンでは、今月末にも再演があり、既にチケットは完売の情報が。

ドッタバタな毎日でしたが、公演の合間にお客様から「これは人生で最も忘れられない作品になります」とおっしゃっていただき、初日が開けるまでの紆余曲折もすっ飛び、お客様へ無事に届けることができた喜びに溢れました。

オスターマイアーさんと俳優たちの議論が絶えない稽古を拝見し、実はまだまだ彼が描きたい作品の姿には到達していないことが分かり驚きました。50公演を重ねてもなお、稽古や公演を重ねてより追求されていくのだと実感し、そして何があっても折れることなく努力を惜しまない姿に感激しました。
SPACにも長年再演を重ねるレパートリー作品がありますが、年間30本以上のレパートリー作品を入れ替わりで上演する、シャウビューネの素晴らしい底力に励まされる一週間でした。


▲帰国前のバスの中で!

“世界の頂点を極めた稀代な演出家が、新たな歴史を刻むその瞬間”を一緒に目撃してくださった皆様、ご来場いただき誠にありがとうございました!

(SPAC制作部・佐藤美咲)

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【演劇/ベルリン・ドイツ】
『かもめ』
日時:5月3日(金・祝)14:00、4日(土・祝)13:00、5日(日・祝)13:00、6日(月・振休)13:00
会場:静岡芸術劇場
上演時間:210分(途中休憩あり)
ドイツ語上演/日本語字幕

演出:トーマス・オスターマイアー
作:アントン・チェーホフ
製作:ベルリン・シャウビューネ
https://festival-shizuoka.jp/program/the-seagull/
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