2019年2月26日

妖怪ブログ 特別編~ SPAC俳優・三島景太インタビュー「ジャン・ランベール=ヴィルドってどんな人?」~

 ジャン・ランベール=ヴィルドは、2011年に上演された『スガンさんのやぎ』から今回の『妖怪の国の与太郎』を含めて4つの作品を静岡で上演し、SPACとの交流を深めてきました。そんな4作品のうちのひとつ、『ジャン×Keitaの隊長退屈男』をジャンさんとともに創作し、2014年の静岡初演後フランス公演を行ったSPAC俳優・三島景太に、ジャンさんの人柄について聞きました。
 

ジャンさんとの出会いについて教えてください。
 最初の出会いは2010年、ジャンさんがSPACに『スガンさんのやぎ』上演に向けた下見に来られたときです。そのときたまたま、私が参加していた別の芝居の稽古を観に来られて、「あの俳優さんの脚の動きが面白い。彼に出演してほしい作品があるんだけど」とスタッフに伝えて帰られた。私は稽古が終わってからその話を聞いて、「ぜひやりたい!」と。それがのちに、ジャンさん演出、出演者は私だけの一人芝居『ジャン×Keitaの隊長退屈男』として上演されることになります。
 当初は実現する保証なんて全然ないわけですよ。もちろん私は絶対やりたいと思っていたんですけど。でも、彼は一度口に出したことは必ず実現させる人なんです。私もやりたいと言っているということが彼に伝わると、「すぐ始めよう!」って。ちょうど日本に行く機会があるから会いましょう、ということになりました。それが忘れもしない2011年2月14日。池袋でお会いしました。

静岡では直接会話されなかったのですか?
 まったくしなかった。直接お話しできたのは池袋でお会いした時が最初でした。そのときにジャンさんが言われたのが、「特別な人とは必ず出会えるものだ」と。それに対して私も「そうなりたいです」と言ったら、「もうあなたは特別な人だから、私たちは出会えているのです」って。

ちょっとロマンチックなやり取りですね。
 ジャンさんはとてもロマンチストです。子どもみたいな目をした人で。本当に純粋な、独特の雰囲気があって、相手に邪気を抱かせない。こういうやりとりも、最初はリップサービスだと思っていたのですが、話すうちに「この人本気なんだ」って。むしろこちらが、「私のどこに、そんなにこの人を惹き付けるものがあるんだろう」って少し不安になったくらい。

『ジャン×Keitaの隊長退屈男』の稽古の様子はどんな感じだったのですか?
 ジャンさんが当時拠点としていた、フランスのカーンという街の劇場に行って、そこの小さめの稽古場に案内されて。私とジャンさんの他に、日本と現地のスタッフ5人くらいで稽古を始めました。フランスでの滞在は2週間だったんですけど、実は、3、4日ほどでほとんど完成してしまった。

最初から、作品に対するお互いのイメージが一致していたのでしょうか。
 それがたぶんそうではなくて。今回の『妖怪の国の与太郎』の稽古でもそうなんですけど、ジャンさんは自分が想定していたイメージに対して、こちらが提出していたものが「ずれて」いても気にしない。どちらかというと、その「ずれ」を大事にする。たとえば、彼の方から何かアイデアを出したとして、こちらは「たぶんこういうことなんだろうな」と思うんだけど、それは私の肉体を通したときにまったく別のものになります。それで「私の感覚と肉体を通して表現すると、こういうものになるよ」という感じで示す。ジャンさんはそういうものを「面白い」と言ってくれる。

実際に一緒に作品をつくってみて、ジャンさんに対するイメージは変わりましたか?
 『ジャン×Keitaの隊長退屈男』から今回の『妖怪の国の与太郎』まで、彼のイメージは全然変わらないですね。本当に第一印象そのままです。純真無垢な人ですが、とても意志が強い。「やると言ったことはやる」というのと一緒で、稽古の進め方も筋が通っている。「この人は常に本気なんだ」って思う。嘘を言わない人。迷いがない。
 『妖怪の国の与太郎』って、実は台本がない状態でつくられていった芝居なんです。俳優が自由に考えた演技を積み重ねて作品にする。もちろん俳優たちは「台本がほしい台本がほしい」っていうわけです。先が不安だから。でも彼は一貫して台本を書かなかった。「大丈夫です。これは絶対にうまくいきます。なぜなら今うまくいっているから。」って。私は「彼は一度こうやるって決めたスタイルを、最後まで貫くだろうな」と思っていましたけど。

そのようなジャンさんのスタイルは、お芝居の演出の際にはどのようなに現れるのでしょうか。
 たとえば、言葉で俳優たちをコントロールしたりはしませんね。また、最初から彼の中に「正解」を用意しておいて、それを俳優に答えさせるような演出もしません。むしろ、俳優にはものすごく自由にさせてくれる。自由にさせたうえで、何が出てくるかをジャンさん自身も楽しむ。その方法が一番良いという確信があるようです。
 今回も、俳優たちはみんな、ジャンさんの中の正解を探そうとはしていないと思います。普通は考えるじゃないですか、演出家としてはどう考えているのかとか、褒められたいとか、嫌われたくないとか。でも、この芝居の稽古場でそういったことを考えている人は、たぶん誰もいないと思う。自分が何を面白いと感じるか、その感覚に正直にやるしかない。それぞれが自分にとって一番面白いものを探している。だから作品づくりとしてはとてもイイ感じです。たぶんジャンさん自身が一番、稽古場にいることを楽しんでいるんだと思う。そこが重要なのでしょうね。
 彼はいつも私たちに言うんですよ。「なにをしてもいい。いまあなたが自由であることが、何よりも大切なんだ。一番嫌なのは、ここが自由を束縛する稽古場であること」って。

俳優さん達にとっても貴重な体験ですね。
 ちょっと童心にかえるというか。小さい頃に友達と遊んでる感覚に近いかも。子どもの頃って、相手にどう思われるか、とか考えないじゃないですか。そんな中で、だんだん彼の魔法にかかっていくみたいな(笑)。

ピーターパンの魔法にかかったウェンディのように…。
 それに近いかもしれない。確かにジャンさんはピーターパン系。大人には見えないかも(笑)。
 個人的な考えですけど、私は、いい演出家は魔術師だと思っていて。私自身、魔法にかかりたいタイプ。うまく魔法にかけてもらえれば、俳優としてはそれだけでいいって感じで(笑)。

完全な自由の中で作品をつくるというのはどんな感じなのでしょうか。
 それが、実は結構大変です。「自由」というのは、本当はなかなか難しい。特に日本人にはそうかもしれません。私たちって、抵抗がないと自由を感じられないところがありますよね。芝居でも同じことが言えます。
 もちろん、台本が無いといっても、稽古が進むとだんだん決め事はできてきます。でも、毎日の稽古でかならず新しいことが起こる。それは、彼が最初から一貫して、この作品を「自由な心」で作ることを第一とし、私たち俳優もその中で作品づくりをしてきたからでしょう。だから、新しいものが出てくることに対して誰も恐れないし、みんなチャレンジングになっている。ジャンさんのつくる空気が「自由」というものに対する恐れを取っ払っていく。

中高生鑑賞事業で今回の芝居をご覧になる中高生の皆さんにメッセージはありますか?
 これは正解がない芝居。正解がないところからはじまって、最後まで正解をださずに作られていった芝居です。ジャンさんが大切にする、「正解をつくらない」ことや、そのための「自由な心」は、若い人たちが一番理解してくれて、好んでくれると思います。なにか、出演している私たちも気づかない、もしかしたらジャンさんだけには見えているものを、中高生の皆さんはキャッチしてくれるかもしれないですね。
 

三島 景太(みしま・けいた)
水戸芸術館ACM劇場専属俳優を経てSPACに創立時より所属。国内外70都市以上での公演経験を持つ。主な主演作品として、『ロビンソンとクルーソー』、『ドン・ファン』、『ドン・キホーテ』など。 2014年ジャン・ランベール=ヴィルド台本・演出の一人芝居『ジャン×Keitaの隊長退屈男』に出演。同作は2016年にフランス・リムーザン国立演劇センターでも上演され、現地で大好評を得た。
 
 

2019年1月21日 静岡芸術劇場にて
聞き手・構成:布施知範(SPAC制作部)