2018年9月21日

『顕れ』パリ日記(4) ~ムアワッドさんのお話、場当たり~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月14日(金)

 
13時半、劇場が滞在中のアーティストたちのための「ウェルカムドリンク」をオーガナイズしてくださった。今、コリーヌ国立劇場では『顕れ』を含め、四作品を準備中。その四つのチームとスタッフで、全部で100人近くが劇場地下のレストラン前に集合。

コリーヌ国立劇場ディレクターのワジディ・ムアワッドさんのお話。

ムアワッドさんのお話1

「この劇場はクリエーションのための劇場です。なので、クリエーションをしているみなさんは、自分のホームだと思ってください。

今、この劇場ではフランス語、日本語、ドイツ語、ヘブライ語、アラビア語、英語、ルーマニア語が話されています。でも、日本から来た人がアフリカの話をしているように、みんな自分の話をするのではなく、他者の話をしています。これは演劇にとって、とても大事なことだと思っています。」

ムアワッドさんのお話2

ムアワッドさんご自身はツアーに向けて『私たちはみな鳥(Tous les oiseaux)』という作品の稽古中。主にイスラエル人とドイツ人の俳優が出演。初演時には劇場の外に当日券を求める人が長蛇の列をなすほどに評判になったという。

コリーヌ国立劇場のレストランは「連帯のレストラン 女性シェフたちの食卓」といい、三人の女性シェフが食事を提供している。かつては業者に委託して運営していた。だがムアワッドさんは、近所に料理がうまい人がいて、仕事を探しているのに、業者に委託するのはもったいない、と思い、この地区に住む人たちに声をかけて、運営してもらうようにしている。北アフリカの出身者が多い。

連帯のレストラン

衣裳を着けての場当たりが進む。

場当たり

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
◆公演の詳細はこちら
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歯車ワークス#2 静岡で芥川を訪ねて ~伊豆・修善寺 新井旅館~

Filed under: 『歯車』2018

まさかの2年目!?に突入した「すぱっく新聞」。このたび『歯車』号が完成しました!!

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前回ご紹介した、鈴木と佐藤(by SPAC秋のシーズン2015『王国、空を飛ぶ!』)の再登場の謎、
そして白衣やカメラマンがどう『歯車』新聞に関係したのか…それは見てのお楽しみ♪
SPACの劇場はじめ、これから街中などにもガンガン配架していきますので、見かけたら是非お手に取ってくださいね。

★「紙の新聞を手にするのが待ちきれない!」という方、SPAC公式サイトの『歯車』ページからもご覧いただけます♪
http://spac.or.jp/haguruma_2018.html

さて、今回新聞の制作にあたり、“芥川ゆかりの場所”として修善寺・新井旅館を『歯車』に出演する俳優・河村若菜が訪問。すぱっく新聞では掲載しきれなかった芥川滞在時のエピソードや女将さんのお話をご紹介します。

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明治5(1872)年創業の新井旅館は、伊豆半島で最も歴史ある温泉の街・修善寺の老舗旅館。
安田靫彦、横山大観といった日本画家、芥川龍之介、泉鏡花、尾崎紅葉や岡本綺堂といった作家など、明治~昭和期の日本文化を彩った多くの文人墨客が滞在しました。

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▲新井旅館正面

これだけの錚々たる面々がこの旅館に逗留した大きな理由は、三代目のご主人・相原寛太郎氏の存在。寛太郎氏は、東京美術学校(現在の東京藝大)に学び画家を志すも、新井旅館を継ぎ、画家の道を断念。その後は、自分の夢を託すかのように若手芸術家への支援を惜しまず、そんな寛太郎氏との芸術談義を楽しみに訪れる者も多かったそうです。女将の森桂子さん曰く、「岡本綺堂さんが『修禅寺物語』を当館で執筆されていらっしゃるのですが、主人との話から創作のヒントを得ている」とのこと。

寛太郎氏と芸術家たちの交流が、今に残る多くの名作を生んだのですね。新井旅館には彼らが逗留のお礼として寛太郎氏に贈った絵画や書が数多く残され、その作品群は「沐芳コレクション」と言われています。

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▲風情ある中庭の様子

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▲女将の森桂子さんと

芥川は大正14(1924)年4月10日から約1カ月間滞在。神経衰弱・腸カタルなどを患い体調が優れなかった彼は、療養を目的で同地を訪れました。
当時も口コミと言うか、作家仲間同士の横のつながりはあったようですから、「身体が悪いんだったら良い温泉が修善寺にあるけど、どう?」みたいな紹介があったのかもしれませんね。

ただ、当時の文壇きっての売れっ子だった芥川は、折角療養に来たここでも「仕事から離れてゆっくり」はできなかったようで…月の棟3階の部屋で、仕方なく仕事をこなしていたそう。妻や友人に宛てた手紙で「ここにいても電報ばかり来やがってやり切れない」「ここにいても電報ぜめで(もう電報を十本貰っています)おまけに原稿催促人までも出張するので、・・・」などと度々愚痴をこぼしています。
そんな芥川を、同時期に滞在していた泉鏡花の奥さんは「あなた、何のために湯治にいらしったんです?」と呆れつつ、世話を焼いてくれたようです。
なお、芥川が滞在したお部屋は現存していますが、残念ながら今は使われていません。

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▲芥川が泊った月の棟3階の真下のお部屋。窓の外には芥川も眺めたであろう巨木が。

そんな芥川のここでのお気に入りは「風呂」と「食事」。
お風呂に関しては、妻と叔母宛てに絵入りの手紙まで送っています。

「…をばさん、おばあさん、ちょいと二、三日お出でなさい。ここのお湯は(手書きのスケッチが入る)言う風になっていて水族館みたいだ。これだけでも一見の価値あり。」(大正14年4月29日付)

書簡のスケッチ
▲大正14年4月29日の書簡より “水族館のような”風呂のイラストや、新井旅館の各棟の配置図が。

何だか子どものようにはしゃいでいる姿が目に浮かびますね。
芥川が「水族館みたいだ」と例えたこのお風呂、お風呂場の下方のガラス越しに池の中が覗ける造りになっていて、人の気配を感じると鯉がガラス近くまで寄ってくるそうです。

ところが、実のところ芥川は大の風呂嫌い。
作家の中野重治が、彼の死後に追悼文を書いており、そこには「この人は湯になどはいらぬのか、じつにきたない手をしていた。顔なども洗わなかったのかもしれない」とあります。
大の風呂嫌いをして人に勧めるほど、このお風呂に芥川は興奮し、また気に入ったのでしょうね。
芥川が入ったお風呂そのものはその後の改修により現存していませんが、この池が覗ける“水族館のような”お風呂は、今でもあるんです。

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▲池に泳ぐ鯉。右手の建物は「桐の棟」。昭和7、泉鏡花は1階奥の「桐三号室」で『斧琴菊』を書き上げました。

そして、もう一つの楽しみは「食事」。
芥川は書簡の中で、どんなものをいただいたのか、細かく記しています。
それを見ると…「朝 牛乳一合、玉子一つ、バナナ三本、珈琲。」とか「食後に角砂糖三つか四つ。こいつは癖になった。」とか…。
芥川の甘味好きはこれまた有名ですが、角砂糖って最早甘味を通り越してそのものですが…、
女将さん曰く当時角砂糖はごちそうだったとのこと。

また、芥川は「凍りしいたけ」なるものも食べていたそう。
「よく分からないのですが、採ってきた生しいたけを凍らせて食べるらしいです。今はそういったものをご提供することはないのですが、本当に美味しいらしくって、新鮮だからこそできるんでしょうね」とのこと。
伊豆は原木でのしいたけ栽培発祥の地と言われ、今でも名物の一つ。香りが強く肉厚で歯応えがあるしいたけを、芥川も楽しんだのでしょう。

今も日本はもちろん海外からも、文人墨客の足跡を訪ねて、多くの方が訪れる新井旅館。
中でも芥川は一番人気らしく、「こんな若い方でも興味があるんだ」って驚くこともあるそう。
また、作家や書道家、ミュージシャンが長期滞在することもあるそうで、「良い“気”がもらえる」「作品にあらわれるものが違う」と言っていただくとか。

あなたも、季節ごとに表情を変える山々や清流から良い“気”をもらいつつ、芥川の息づかいを感じてみてはいかがでしょうか?

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SPAC秋→春のシーズン #2『歯車』
構成・演出:多田淳之介
原作:芥川龍之介
出演:大内智美、奥野晃士、春日井一平、河村若菜、坂東芙三次、三島景太[五十音順]

一般公演
11/24(土)・25(日)・12/1(土)・2(日)・8(土)・9(日)・15(土) 各日14:00開演
静岡芸術劇場

チケット
発 売 日:9/23(日)会員先行予約 9/30(日)一般前売
料  金:一般4,100円 ペア割引3,600円 ゆうゆう割引3,400円
学割2,000円[大学生・専門学校生]1,000円[高校生以下] ※ほか各種割引あり
購入方法:SPACチケットセンター TEL:054-202-3399(10:00~18:00) ※公式サイト、劇場窓口でも購入可

★公演の詳細はこちら
http://spac.or.jp/haguruma_2018.html

★トレーラー第一弾はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=NBi9mdWKW5c

★ブログ「歯車ワークス」過去の投稿記事はこちら
http://spac.or.jp/blog/?cat=113

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2018年9月20日

『顕れ』パリ日記(3) ~仕込み二日目・三日目、俳優到着、舞台美術サラディン・カティールさんの話~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月12日(水)

 
舞台スタッフは午前9時から作業。
午後5時頃、第二陣の俳優たちがパリ・シャルル・ド・ゴール空港に到着。大荷物。
スタッフは24時まで作業。

太陽と月

 

2018年9月13日(木)

午後2時に俳優が劇場に到着。別の稽古場でトレーニング。

トレーニング1

トレーニング2

劇場スタッフと顔合わせ。

顔合わせ1

顔合わせ2

舞台はだいぶ準備が整ってきた。
早速楽器や小道具を運び込み、設置。

楽器セッティング

この『顕れ』の舞台美術を担当してくれたのはサラディン・カティールさんという舞台美術家。現場で作業も進めてくれている。

サラディン作業中1

カティールはShizuoka春の芸術祭2010で上演した『彼方へ 海の讃歌』、ふじのくに⇄せかい演劇祭2013で初演し、世界各地で上演を重ねた『室内』、そしてふじのくに?せかい演劇祭2018の『夢と錯乱』など、近年のクロード・レジ演出作品の舞台美術を一手に引き受けてきた。SPACとの共同製作だった『室内』を一緒に作ってきたこともあり、気心の知れた仲間。

カティールは、はじめレジ作品の舞台美術を手がけていたダニエル・ジャンヌトー(今秋東京芸術祭で『ガラスの動物園』を上演)のアシスタントとして現場に入り、ジャンヌトーが演出家となってレジの現場から離れてからは、舞台美術のコンセプトや設計も手がけるようになった。フランスでは比較的珍しい、現場叩き上げの舞台美術家。もともとは舞台装置やインスタレーションを実際に作る仕事をしていて、川俣正の作品も手がけたことがある。素材選びと加工については自信がある、という。

サラディン作業中2

(参考)レジ『彼方へ 海の讃歌』奮戦の記(2010年4月19日)

サラディン・カティールさんの出自は、この『顕れ』の物語と少し関係している。

サラディン

カティールという名前はトルコ語から来ているが、トルコ人ではない。オスマントルコによるアルジェリア支配の名残だという。サラディンという名は十字軍から聖地エルサレムを奪い返し、エジプトにアイユーブ朝を樹立したクルド人の武将の名にちなんでいる。

両親は北アフリカ・アルジェリアの出身。お父さんはカビリア人。アルジェリアのカビリア地方に住むベルベル系の民族で、色が白い。サラディンさんがお父さんの故郷に行くと、「黒人」と見られるという。

お母さんもアルジェリア出身だが、色が黒かった。お母さんのお母さんはアラブ系とベルベル系のハーフのエジプト人で、色が白く、青い目をしていた。黒人のモーリタニア人と結婚したために、村から追放されたという。このお母さんのお父さんは元奴隷だった。

北アフリカのアラブ人たちは、かつてモーリタニアなどブラックアフリカの人々を奴隷としていた。そしてフランスによる北アフリカの植民地化が始まってからも、すぐに奴隷がいなくなったわけではなかった。お母さんは1936年生まれだというので、20世紀はじめの話。

カティールさんにしても、日本を通じてアフリカと出会うことになったわけで、ちょっと不思議な縁を感じる。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
◆公演の詳細はこちら
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年9月15日

『顕れ』パリ日記(2) ~仕込み初日、「他者」を演じること、等々~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月11日(火)

 
朝テレビを見ていたら、9.11の17周年だということを思い出した。

宿はパリ連続テロ事件が起きたレピュブリック広場界隈。コリーヌ国立劇場の最寄り駅は20区のガンベッタで、郊外への入口とも言えるところに位置している。「白人」でない人も多く見かけるが、昔私がこの劇場に通っていた頃は、観客のほとんどが白人だった。

コリーヌ国立劇場

ムアワッドのミッションの一つは、観客の「多様性」を確保することだ。就任一年で、観客層は若返り、「多様性」という面でも、ある程度結果が出たとも聞く。

午前9時に劇場入り。舞台上には大勢のスタッフが。すでに舞台装置の太陽と月が吊ってある。今回、主な装置はフランス側で作っていただいている。

太陽と月

すぐに各部門チーフと打ち合わせ。
部門チーフ打ち合わせ

朝早くから、芸術監督のワジディ・ムアワッドさんが挨拶に出向いてきてくださった。「本当に、本当に、みなさんをお迎えできてうれしいです。夏の間、よく宮城さんのことを考えていました」とムアワッドはいう。

ムアワッドさん宮城さん

「夏の間」というのは、フランスとカナダの演劇界を震撼させたある事件の話だ。フランスの太陽劇団が54年の歴史ではじめて外部の演出家を招き、4年の歳月をかけて作品を製作していた。招かれたのはロベール・ルパージュという世界的に有名なカナダ・ケベック州の演出家で、カナダにおける先住民と白人との200年にわたる交流を描く『カナタ』という作品だった。「カナタ」というのは先住民イロクワイ族の言葉で「村」という意味で、これが「カナダ」という国名のもとになった。この作品では、「カナダ」の歴史をむしろ先住民たちの苦難の歴史として描こうとしていたようだ。ところが、この作品にカナダ先住民のアーティストが出演しないことなどから「文化の盗用(appropriation culturelle)」と見なされ、非難の的となった。この作品はパリ公演のあとで北米ツアーを行うことになっていたが、そのために何人かの北米のプロデューサーが手を引くことになり、ルパージュと太陽劇団は7月27日に公演中止という苦渋の決断を下すこととなった。

若き日のムアワッドにとって、ルパージュはケベック演劇界を象徴する憧れの人だった。『火傷するほど独り』では、自身が演じる主人公ハルワンを「ルパージュについての博士論文を準備している学生」という設定にしている。そのルパージュがこの事件で渦中の人になっているのを、ムアワッドはかなり複雑な気持ちで見ていたのだろう。ムアワッドはこの一件についてルパージュが発した言葉を念頭に置いて、「演劇においては、誰もが、どんな人だって演じる権利があるはずです」と語る。

この『顕れ』では、日本の俳優たちがアフリカ人を演じることになる。このことの意味を、夏の間、ムアワッドは考えていたのだろう。

その7月には、レオノーラ・ミアノさんが静岡まで、稽古を観にいらしてくださった。ミアノさんは「私はこの作品を「アフリカ人の物語」としてではなく「人間の物語」として上演してほしいと思っていました。また、奴隷貿易の被害者だったり加害者だったりするアフリカ人やヨーロッパ人がこの作品を上演するのは難しいとも思っていました。だから、日本の俳優さんたちがこの作品を初演することになって、本当によかったと思っています」とおっしゃっていた。だから、作品のなかでは「アフリカ」という言葉は出てこず、「はじまりの国(le Pays premier)」と呼ばれている。また、「演出については全く宮城さんの自由にしてくださってかまいません。ただ黒塗りで「黒人」を演じるのは避けてほしい」、とも。(そのほか稽古場での様子はこちらの記事から)

『顕れ』は奴隷貿易の加担者となってしまったアフリカ人たちを描いている。アフリカ人にとって、必ずしも誇らしい話でも、都合のいい話でもない。この複雑な歴史を、どうすれば「人間の物語」という普遍性をもって描くことができるのか。

 
午後、フランス語字幕を作ってくれたモハメッドさんが、字幕データを届けに来てくれた。日本語台本と原文のフランス語を対照しながら、原文を字幕の形式にまとめる作業。モハメッドさんは立教大学で社会学を学んでいて、翻訳の平野暁人さんとは久々の再会だという。平野さんはかつてフランスで北アフリカのフランス植民地についての研究をしていた。それもあって、アフリカのことにはずっと興味をもっていて、このミアノの作品の翻訳にはものすごい熱意で取り組んでくださった。一方モハメッドさんは、両親がアルジェリア出身だがフランス生まれで、最近になってアルジェリアに行くようになり、母親についてのドキュメンタリー映画を準備中とのこと。

そういえば劇場側で用意してくださった通訳の方は、「劇場の案内係として働いている日本人」と聞いていたが、お目にかかってみたら、「私、実は以前SPAC制作部の就職面接を受けたことがあるんです」とおっしゃっていて、驚いた。今年のストレンジシードにも参加してくれた劇団子供鉅人の制作をなさっていて、SPAC制作部の面接を受けたちょっとあとに渡仏することになり、一年前からこの劇場で働いているという。なんだかいろんなところで、いろいろなことがつながっているものだ。

黒かった床を白くする作業、照明調整など、24時まで作業し、退館。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年9月14日

『顕れ』パリ日記(1) ~なぜ日本の劇団がパリでアフリカの話をすることになったか~

SPAC文芸部 横山義志
2018年9月10日(月)

 
レオノーラ・ミアノ作、宮城聰演出『顕れ』公演のため、パリへ。

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第一陣の宮城さんと技術・制作スタッフがお昼頃に羽田を発ち、夜にはパリに到着。12時間ほどの旅路。

パリの空

パリのコリーヌ国立劇場による委嘱作品。フランスはふつう秋からシーズンが始まるので、シーズンの開幕作品となる。フランスの国立劇場が日本の作品をシーズン開幕に選んだという話は他に聞いたことがない。開幕作品というのはそのシーズンの顔になるような作品なので、かなり思い切った決断といえるだろう。メインの大劇場で、ほぼ一ヶ月間にわたって上演されることになるので、かなり責任重大だ。

レオノーラ・ミアノはカメルーン出身・フランス在住の小説家・劇作家。『顕れ』はアフリカの神話をベースに、奴隷貿易に手を貸してしまったアフリカ人たちを描いている。このような作品を日本の劇団がやることになったのには、ちょっと不思議な経緯がある。ここ10年ほどのいろんな話があって、少し長くなるが、お付き合いいただきたい。

まずはコリーヌ国立劇場と、この作品を提案してくれた芸術監督のワジディ・ムアワッドさんの話。

コリーヌ国立劇場は現代作家の作品を専門に上演している唯一の国立劇場だ。芸術監督は現代のフランス語圏演劇を代表する劇作家の一人、ワジディ・ムアワッド。レバノン出身で、内戦時に両親とともにフランスに亡命したが、滞在許可が更新できず、カナダのケベック州(フランス語圏)に渡った。若くしてケベック演劇界のスターとなり、フランスでも活躍するようになっていく。

SPACではムアワッド作・演出の作品を二作品『頼むから静かに死んでくれ』(原題:『岸』、Shizuoka春の芸術祭2010)、『火傷するほど独り』(ふじのくに⇄せかい演劇祭2016)を上演している。世田谷パブリックシアターではムアワッド作『炎 アンサンディ』『岸 リトラル』が上演されていて、日本でもだいぶ知られるようになった。

ふじのくに⇄せかい演劇祭2016に参加する直前、ムアワッドがコリーヌ国立劇場の芸術監督に就任することが決まった。中東出身でアラビア語を母語とする演劇人がフランスの国立劇場の芸術監督となるのははじめてで、ここには、とりわけ2015年のパリ同時多発テロ以来重要な問題となっている国内の融和への願いも込められている。

 
そのムアワッドからある日、「すぐに宮城さんとお話ししたい」とのご連絡があった。こんな話だった。

静岡からパリに戻ったあと、レオノーラ・ミアノと会って、「あなたの作品をどの演出家に上演してほしいですか」と尋ねた(ムアワッドは劇作家主導のプロジェクトを試みたいと考えていて、演出家が戯曲を選ぶのではなく、劇作家に演出家を選んでもらおうとしていた)。はじめ、フランスの演出家の名前をいくつか挙げたが、二人ともなかなかしっくりこない。そこで改めて、「ではどんな夢でも叶うとしたら? 世界中どこの演出家でもいいので言ってみてください」と聞いてみたところ、「以前見た日本の演出家の作品が、アフリカの神話的世界を描くのにぴったりだと思った。フランスの演出家ではどうしてもリアリズム的になってしまうが、彼が引き受けてくれたらいいと思う。たしか名前はミヤギとか・・・ご存じですか?」という答えが返ってきて、ムアワッドは驚いたと同時に、自分でもぴったりだと思った。そこで、宮城さんが引き受けてくれるか一刻も早く知りたいと思って連絡した、という。ミアノさんはアヴィニョン演劇祭2014で『マハーバーラタ』を、ケ・ブランリー美術館で『イナバとナバホの白兎』(2016)をご覧になっていた。一つはインド、もう一つは日本とアメリカ先住民の話で、たしかに二つとも、神話的世界を描いた作品だった。

思いがけない申し出に、もちろんこちらも驚いたが、これまでの活動が評価されたのもうれしくて、コリーヌ国立劇場と力を合わせ、なんとか実現にこぎつけることができた。

午後7時頃、空港から外に出ると、パリは思いがけないほどの熱気。9月でこんなに暑いのは珍しいという。フランスが日本とカメルーンとレバノンの交点になっているというのも、なんだか納得のいくような夜だった。

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『顕れ』 フランス公演
2018年9/20(木)~10/20(土) 全27公演
 ※9/24(月)、10/1(月)、8(月)、15(月)休演
会場:コリーヌ国立劇場
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年明け、日本でも「秋→春のシーズン」3作品目として上演します!
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『顕れ ~女神イニイエの涙~
2019年1/14(月・祝)~2/3(日) 静岡芸術劇場
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2018年9月11日

<『顕れ』#005>世界初演まで間もなく!

Filed under: 『顕れ』2018

稽古開始から早2か月が経過し、いよいよスタッフ・俳優たちは渡仏。
9月20日のコリーヌ国立劇場での世界初演まで間もなくとなりました!

改めまして、これまで『顕れ』ブログを書いてきた、制作部1年目の西村と申します。
今年度SPACに入り『顕れ』を担当し、人生で初めて演劇作品の創造に立ち会っています。
ブログ第5弾では、これまでの稽古を写真で振り返っていきたいと思います!

◆写真で振り返る静岡での稽古

『顕れ』はまだ世界のどこでも上演されたことがなく、日本語訳もされていない戯曲です。
なおかつ、戯曲に向き合うためにはアフリカや奴隷貿易について知ることが必要不可欠でした。
作者レオノーラ・ミアノさんと密にやりとりして翻訳してくださった平野暁人さんも稽古に参加してくださり、不明な点があるとその都度参考文献や資料とともに作品の背景などを説明していただきました。
平野さん、俳優たちとディスカッションを重ねながら、宮城は少しずつ上演台本を固めていきました。

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初期の演奏稽古の様子。上演台本と楽曲の製作は同時進行で行われました。
音楽監督の棚川寛子は、宮城の演出作品で20年以上舞台音楽を担当していて、俳優それぞれの演奏の強みや特徴をばっちり把握しています。
「ドラマチックに」「ここは”攻め”で」「コードはマイナーで」「BPMは150くらい」…
宮城とともにキーワードを確認しあいながら、何度も試行錯誤を積み重ねていくのですが、二人にはすでに培ってきた共通言語がたくさんあり、信頼しあっている様子がとても伝わってきました。

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棚川のノートの一部を写真に撮らせてもらいました。
棚川は楽譜を書かずにセリフのイメージから音のフレーズを作っていきます。
出来上がったフレーズはまず自分で演奏のお手本を見せ、それを一人の俳優に伝えます。
その俳優がフレーズを繰り返し演奏しているところに、別のフレーズを重ねていく。
これを繰り返しながら楽曲を作りあげていきます。

稽古が進んでくるとセリフの長さや抑揚、舞台上での俳優の動きなど、作品全体のバランスをみながら楽曲を微調整。
宮城からの指示にも「そこはセリフに合わせて2×8(ツーエイト)で」など、音楽を背景にせず動きと密接にとらえた指示が細かく飛んでいました。
音響スタッフは、セリフと演奏の両方が映えるようにマイクを設置し、それぞれに息を合わせて音響操作をしなければいけません。
日々の演奏稽古に立ち会って、棚川さんや俳優と同じようにテンポやカウントを一緒に確認している姿が印象的でした。

 
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7月後半には作者であるレオノーラ・ミアノさんが稽古に同席。
宮城や俳優たちと対話を重ね、作品に対する理解を深めました。(詳しくはブログ002にて)

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これは作品冒頭に出てくる「始まりの海」を表現する布を試している様子です。
どういった質感のものがいいか、布が動かないようにするにはどういう仕掛けをつくるのがいいかなど、創作・技術部とともに試行錯誤が繰り返されました。

俳優たちの頭上に吊られているのは、仮の舞台美術装置。本物は現在、コリーヌ国立劇場で制作されています。
(製作の様子はコリーヌ国立劇場の公式Instagramに掲載されていますのでぜひチェックしてみてください!)

美術デザインは、SPACとも関係の深いサラディン・カティールさん。
今年のふじのくに⇄せかい演劇祭のクロード・レジ演出『夢と錯乱』や、2013年にクロード・レジさん率いるアトリエ・コンタンポランとSPACとの共同製作で創られ、2015年にも再演された『室内』の美術を手掛けています。

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▲稽古開始前にサラディン・カティールさんより送られてきた舞台装置模型

衣裳デザインは駒井友美子、小道具デザインは深沢襟です。
デッサンをもとに衣裳班・美術班が具現化し、俳優たちの演技プランに合わせて、細かな微調整が日々繰り返されました。

Costume Design
これは「マイブイエ」と「ウブントゥ」というキャラクターのデッサン。
2つの役は死者の魂で、作品の中では多くの魂の集団とも捉えられており、4人の俳優によって演じられるシーンもあります。
群れをなすので、どのように発語するか、舞台上でどのように動くかなど、細かく打ち合わせながら稽古に臨んでいました。
また、全身に玉がぶらさがったような衣裳のため、動きながら玉をどのように制御するかも重要になってきます。
プランを立てて宮城に見せ、フィードバックを受け、またプランを立て直してを繰り返し、動きを緻密に決めていきました。
 
9月には照明デザインの吉本有輝子さんが稽古場入りし、明かりづくり。
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この風景が
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明かりを入れるとこのように一変!

衣裳や小道具の具現化にも日々わくわくしていましたが、明かりづくりではそれらがより立体的に浮かび上がりとても感動しました。
ブログ用の写真を撮りに劇場に入ったのですが、その美しさにしばらく見入って撮影を忘れてしまうほどでした。

◆いよいよフランス・コリーヌ国立劇場へ!
このように、上演台本・音楽・衣裳・小道具・照明がだんだんと出来上がっていき、静岡での稽古は終了しました。
いよいよ明日には俳優たちも渡仏し、劇場で世界初演に向けて調整を行っていきます。
パリから届いた写真は春からはじめたSPACのInstagramでも発信します♪

「すぱっく新聞」の発行ももう間もなくです。お楽しみに!

*『顕れ』(フランス公演)詳細はこちら
*『顕れ ~女神イニイエの涙~』(静岡公演)詳細はこちら


2018年9月8日

『授業』ブログ~【レッスン2】インターン先の稽古場は、ナンセンスなんです。~

Filed under: 『授業』2018

はじめまして! こんにちは。
9月3日(月)から1週間、SPACでのインターンシップに参加させていただいております、静岡文化芸術大学 文化政策学部 芸術文化学科1年の安齋瑛梨です。
制作部のインターンシップでは、普段行われている実際の業務体験や、稽古場の見学などをさせていただきました。スタッフの方に直接お話を伺う機会もあり、制作部の方々が何を大切にして業務を行っているのかが感じ取られました。広報、営業など表舞台には出ない地道な活動により、普段私たち観客が観ている舞台や企画が支えられていることを再認識させられた有意義な時間となりました。

さて、今回私が参加させていただいた内容から主に2つを取り上げてご紹介したいと思います。現在、静岡芸術劇場リハーサル室では10月から11月にかけて上演される『授業』の稽古が行われています。1つ目はその稽古風景から。

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【演出の西 悟志さん】

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【左から渡辺敬彦さん、貴島豪さん、野口俊丞さん】

不条理演劇として知られるイヨネスコの『授業』。戯曲を読んだ段階では難解で堅い芝居になるのかな? と身構えていたのですが、稽古を実際にみて考えは一変。稽古場はピリッとした緊張感が張り詰めつつも、しばしば笑い声に包まれる瞬間があり、和気あいあいとした雰囲気で進んでいました。
四季や首都の名前を答える単純な問いかけに見事回答してみせた生徒に対し、大袈裟な賞賛を贈る教授。およそ意味を持たない言葉の羅列が幾度となく繰り返される光景。戯曲で読むだけでもナンセンスさがひしひしと伝わってきます。そして、これらは西悟志さんの演出を纏うことによってその勢いを加速していき、「意味を持たないが故の滑稽さ」がより際立たっていくように感じられました。まさに『授業』の副題につけられた「喜劇的ドラマ」の具現と感じられるほどで、ぐっと惹き込まれる芝居となっていたのです。

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稽古を進めるうえで話し合いの場を設けることも度々ありました。演出家の西さんの問いかけに役者の皆さんが答えていきます。背景や知識を共有することで戯曲理解、演技を深めていく糸口を模索しているように見受けられ、こうした時間を重ねることで自然と座組内で信頼関係が構築され、息の合った演技を可能としているのではないかと思いました。

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リズムやテンポを意識した演出も見られ、セリフがまるで音楽のように聞こえてくるシーンも。稽古場では終始、これまでに見たことのないような挑戦的な演出指示が飛び交います。舞台の全貌はまだまだ不明ですが、これからさらに進化することは間違いないでしょう。一見の価値ありです。わたしも一観客として、本番の舞台を観劇する日を心待ちにしています!

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【右:布施安寿香】

続いてご紹介するのは、インターンシップ4日目に開かれたSPAC文芸部スタッフの大岡淳さんによる劇評講座です。これは、静岡文化芸術大学の授業の一環であり、今回私も特別に参加させていただきました。
「演劇批評とは何か?」「どのような構造か」「評価の基準は何か」などなど。実例に基づく解説を交えた、貴重なお話を伺うことができました。中でも印象的だったのは、「演劇批評は作品を観ていない人にこそ理解できるものであるべき」という言葉です。今回の講座、及びその後の質疑応答を通し、これまで漠然と捉えていた劇評というものの認識を整理することが出来たのではと思います。今後、自分にとって人と共有したい作品に出会った際には、臆せず気持ちを言語化したいと思いを強くしたひとときでした。

さて、今回ご紹介した『授業』は10月3日(水)に初日を迎えますが、関連イベントも目白押しです! 上演に先駆けてリーディング・カフェ*がスタートし、9月末には2ヶ所での開催が控えています。さらに10月20日(土)には静岡芸術劇場にて、劇評講座に参加した学生による『授業』のポストトーク、題して『放課後トーク**』が開催されます。観劇した方同士で意見交換ができるもので、観劇体験を深めるにはうってつけの素敵な企画です。こちら参加費無料ですので、もし興味がある方がいらっしゃったら是非こぞってご参加くださいね。
(写真:安齋瑛梨)

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*SPACリーディング・カフェ
 9月29日(土) casa SHIZUOKA(静岡市)
 9月30日(日) みどりの森の美術館(浜松市)
 詳細はこちら

**放課後トーク
 10月20日(土)『授業』の終演後、劇場ロビーにて開催。
 詳細はこちら
 Twitterアカウント:@SpacSuac

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SPAC秋→春のシーズン2018-2019 ♯1
授業
2018年10月6日(土)、7日(日)、8日(月・祝)、13日(土)★、
20日(土)、21日(日)、28日(日)
各日14:00開演 ★13日(土)のみ16:00開演
会場:静岡芸術劇場

演出:西 悟志 共同演出:菊川朝子
作:ウジェーヌ・イヨネスコ
翻訳: 安堂信也、木村光一
出演:貴島豪、野口俊丞、布施安寿香、渡辺敬彦
照明デザイン:大迫浩二
美術デザイン:香坂奈奈
衣裳デザイン:駒井友美子
*詳細はコチラ
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スパカンファン稽古場ブログ#6「公演評が届きました(2)」

8月20日から27日までSPACでのインターンシップに参加した、静岡文化芸術大学の日下怜子さん、鈴木まこさんがスパカンファン『ANGELS~空は翼によって測られる~』公演評を執筆してくれました。静岡芸術劇場の1Fロビーの図書スペースには、「ダンスマガジン」などの雑誌が配架されています。公演評に向けて、おふたりは熱心に掲載されているそれらの記事も参考にすべく研究しました。インターンシップの成果を、ぜひご一読ください。

(鈴木さんの公演評は前回スパカンファン稽古場ブログ#5にてご紹介しました)


異質なものを寛容する尺度

 8月26日、夏の終わり。12人の中高生たちが大きな舞台で羽ばたいた。
今年で9年目を迎えるスパカンファン・プロジェクトはSPACによる国際共同制作プロジェクトで、オーディションで選ばれた静岡県の中高生たち「スパカンファン」が、カメルーン出身でフランスを拠点に活動する振付家・ダンサーのメルラン・ニヤカムと共に新しい舞台を創造するプロジェクトである。『ANGELS』は2015年から創作を開始し、今年「空は翼によって測られる」という副題を加え、さらに磨きをかけた作品として上演された。ダンス・歌・演劇と様々な表現で、スパカンファンは見事に多くの観客を魅了した。

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 全体を通して印象的だったのは、“1人”vs“複数人”という構図である。役柄、衣裳、動き、性別によって、それぞれ非常に明確に表現され脳裏に焼き付いた。要所要所に用いられるシルエットを使った表現も、対立構造を意識させる演出であった。すでに出来上がった関係性の中に1人新しい人が入ってくると、何となく避けてしまう。1人が何か新しいことや変わったことを始めると周りの人が興味を示し真似し始める。しかし調子に乗りさらに新しいことをすると周りにからかわれ引かれてしまう。立場や境遇などちょっとした差異から生まれる、時に天使的で時に悪魔的な出来事は悲しいことに実に日常的な光景である。
しかし、日常では天使的で悪魔的な対立構造は明確に目に見えるものばかりではない。 “1人”vs“複数人”という構図を舞台上で表現し観客に明確に示すということは、“1人”の存在感と“複数人”の一体感によって差異を際立たせることで成り立つ。“1人”を演じる際の堂々たる演技と躍動感、“複数人”を演じる際の普段の仲睦まじい関係性が垣間見える空気感と舞台空間を広く使った動きは、中高生とは思えないプロ顔負けのもので、観客の想像を助けることにつながっていた。特に池ヶ谷優希の“1人”の演技は好演で、のびやかな歌声と豊かな表情、しなやかな身のこなしで作品にユーモアさを添えた。

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 また『ANGELS』では、アフリカの文化と日本の文化を彷彿とさせる要素が詰まっている。アフリカの伝統的な音楽や舞踊をイメージさせる表現、さらには子どもたちの遊ぶ場としての生命を表すバオバブの木の舞台装置、日本の能楽や童謡などそれぞれの文化の良さが感じられるまさに国際共同制作プロジェクトである。差異を多様性として受け入れ、お互いに尊重することを、ニヤカムが思い描く『ANGELS』の世界では目指していたのではないだろうか。作品で描かれた文化の融合のように多様性を受け入れることを、ぜひスパカンファンの中高生たちには今後も大切にしてもらいたいと願っている。
 『ANGELS』は今秋11月3日、4日に東京芸術祭2018のプログラムとして、池袋のあうるすぽっとで東京公演を行う。まだまだ伸びしろの多い彼ら、彼女らが今回の公演を経て、さらに大きな舞台でパワーアップした姿を見せてくれることを大いに期待したい。

静岡文化芸術大学3年 日下怜子
(写真撮影:猪熊康夫)

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SPAC-ENFANTS
『空は翼によって測られる~』
11月3日(土)15:00開演
11月4日(日)13:00開演
 
振付・演出:メルラン・ニヤカム
出演:SPAC-ENFANTS
   池ヶ谷優希、岩田麻緒、岡村桃果、勝間田里絵
   金森萌倭、金子綺莉、鈴木舞子、永田茉彩
   西出一葉、伏見彩花、宮城嶋開人、渡邉茉奈
振付アシスタント:太田垣悠、佐川健之輔
メディアディレクション: ニシモトタロウ、松尾邦彦、小柳淳嗣

会場:あうるすぽっと

チケット:入場無料(要予約)

この公演は東京芸術祭2018の一環として行われます。
詳細はこちら
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2018年9月7日

スパカンファン稽古場ブログ#5「公演評が届きました(1)」

8月20日から27日までSPACでのインターンシップに参加した、静岡文化芸術大学の日下怜子さん、鈴木まこさんがスパカンファン『ANGELS~空は翼によって測られる~』公演評を執筆してくれました。
「公演評って何だろう?ダンス、どう書けばいいんだろう?」からスタートし、稽古から本番当日を経て、毎日どんどん増えていくおふたりの公演評に向けたメモ、メモ、メモ!!
インターンシップの成果を、ぜひご一読ください。

(日下さんの公演評は次回スパカンファン稽古場ブログ#6にて掲載いたします。お楽しみに!)


色鮮やかでめまぐるしい世界

 8月26日、SPAC-静岡県舞台芸術センターが主催する『ANGELS~空は翼によって測られる~』が静岡芸術劇場にて上演された。出演はオーディションで選ばれたSPAC-ENFANTS(スパカンファン)と呼ばれる静岡県内の中高生12名。振付・演出をフランスを拠点に国際的な活動を展開する振付家・ダンサーのメルラン・ニヤカムが手がけ、振付アシスタントを太田垣悠が務める。中高生と共に新しい舞台を創造するこのプロジェクトは、今年で9年目を迎えた。夏休みのほとんどを費やして、ダンス経験の差に関係なくプロの指導を受けたことは、こどもたちの宝物になるだろう。

鈴木まこ INO_Angeles_011

 本作では、音楽と映像とともに、身体を最大限に駆使して出演者たちは次から次へと様々な感情や意思を表現していく。舞台上には大きな白い木”バオバブ”があり、幹の部分はスクリーンとなっており、葉の部分には様々な模様や動物などの装飾がみられる。白い木の両脇にも出演者の背丈より少し高いスクリーンが設置されている。これらのスクリーンが照明や映像を映し出すことで舞台は表情をくるくる変える。作品冒頭、穏やかな緑色と差し込むような光がちりばめられた空間で私の心は一気に舞台に引き込まれた。
 最初から最後まで観客の案内人のような役割を果たす西出一葉、独特の台詞と動き・表情の使い方で観客を和ませる池ヶ谷優希、場内にのびやかにひびきわたる歌声を披露し天使のようにふるまう永田茉彩、男子ならではの力強いパフォーマンスを披露する宮城嶋開人。それぞれ台詞はほとんどないものの、「よく見るとあの子だけあの子を気にしているな」とか「今あの子が1番に動き出したな」とダンスだけで観客の想像をどんどん膨らませる出演者たち。印象的だったのが何人かで1人を囲んで群がり襲いかかるような場面である。囲まれた1人は「うわーっ」と叫んで周りを追い払うような動きをする。その動きと表情から感じた意志の強さに私はドキドキしてしまった。また、それまでの黒い衣装から色とりどりの花柄の衣装に着替えて、みんなで寝そべって『春が来た』を歌う場面から最後までの盛り上がりの高揚感!汗だくになりながら最後まで楽しそうに力いっぱい踊る姿に自分も一緒に踊っているような気持ちになった。

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 本作はダンスや歌が好きな人はもちろん、普段は親しみの無い人も鑑賞後は思わず跳ねて歌って踊ってみたくなるような、不思議な魅力であふれていた。まずは1回、出演者ひとりひとりに注目して12回、映像に注目して1回、音楽に衣装に小道具に…というように何度でも観たい。11月3日、4日に東京芸術祭での公演を控えている。10代ならではの繊細な感受性や柔軟な考え方によって、舞台はさらに進化していくだろう。

静岡文化芸術大学2年 鈴木まこ
(写真撮影:猪熊康夫)

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SPAC-ENFANTS
『空は翼によって測られる~』
11月3日(土)15:00開演
11月4日(日)13:00開演
振付・演出:メルラン・ニヤカム
出演:SPAC-ENFANTS
   池ヶ谷優希、岩田麻緒、岡村桃果、勝間田里絵
   金森萌倭、金子綺莉、鈴木舞子、永田茉彩
   西出一葉、伏見彩花、宮城嶋開人、渡邉茉奈
振付アシスタント:太田垣悠、佐川健之輔
メディアディレクション: ニシモトタロウ、松尾邦彦、小柳淳嗣

会場:あうるすぽっと

チケット:入場無料(要予約)

この公演は東京芸術祭2018の一環として行われます。
詳細はこちら
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2018年8月30日

<『顕れ』#004>研修生ポールさんの振り返りレポート

Filed under: 『顕れ』2018

研修生として『顕れ』の稽古を約2か月間にわたって見学していた、ポール・フランセスコーニさんがブログを書いてくれました!
母国語であるフランス語だけでなく、日本語もあります!ぜひお読みください。

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▲ポールさんは劇場のこの座席から、毎日稽古を見学していました。


僕はPaul Francesconiと申します。リモージュ(フランス)に住んでいますが、レユニオン島の出身です。
リモージュで劇団 凍った太陽(Compagnie Soleil Glacé)の劇作家・演出家として活動しています。
SPACでインターンシップをするのは夢でした。
『マハーバーラタ』と『イナバとナバホの白兎』の公演を観て感銘を受け、宮城さんとSPACの俳優たちの作品創作にとても興味がありました。
勉強するために二か月間ぐらいSPACの稽古をインターンシップとして見学しました。
新しい作品である『顕れ』の稽古に立ち会いました。

僕は毎日、稽古の前に俳優たちと一緒にトレーニングをしていました。
SPACの特別なトレーニングは難しいですが、習うことができて幸せでした。
俳優たちはよく教えてくれたので、最初よりは出来るようになったかもしれません。
トレーニングには日本的なものもあって、例えば、仏教のお経を使っていたりもします。
しかし、日本だけでなく違うやり方や文化も混ざっています。
だから、外国人として理解し、練習することができました。

レオノーラ・ミアノの『顕れ』という作品は深甚で、とても面白いです。奴隷貿易についての戯曲です。
物語は神話の形式をとっていますが、実はアフリカの奴隷貿易についての審判の物語というわけです。
ミアノさんはアフリカの歴史の悲劇を明らかにするために死者や神様たちを呼び出します。

でも、日本の劇団であるSPACはその特別な戯曲を演出・上演することができるでしょうか ?

「もちろん!」

ミアノさんはSPACの稽古に参加したとき、そうきっぱりと言いました。
彼女はテレンティウス(※)を引用します。「私は人間なので、人間のことで関係のないことは何一つない。」
※古代ローマの劇作家。言葉は戯曲『自虐者』より。

俳優たちはみんな上手な芸術家だし、とても謙虚です。
アフリカの作品を作っていません。新しい神話を作っています。
演出のやり方はとても聡明です。宮城さんは俳優たちにたくさん自由を与えています。
迷うことがあれば、俳優とともに議論を繰り返します。
この作品にふさわしい動き、声、意味、音楽を探し求めて・・・
それは作品を作るために必要だと思います。

俳優たちは「でも、お客様はわかるかしら・・・」と心配し、僕に問いかけてくることがあります。
研修として参加していて演出家ではないため、言わないようにしていますが、僕は「もちろん、わかりますよ。」と思っています。

宮城さんの作品にとって、音楽はとても大切なことです。
音楽のおかげで、セリフは分かりやすくなり、作品は叙事詩のようになります。音楽は登場人物と同じくらい重要です。
SPACの作曲家である棚川寛子さん、その音楽の才能のおかげで、SPACの俳優はまじめで精緻な演奏者になりました。
棚川さんは皆で一緒に曲を作っています。音楽のおかげで俳優たちが一体となります。
毎日のように、その特別なコンサートを見るのはとても面白かったです。『顕れ』が立ち上がっていました。

『顕れ』の稽古は僕にとって演出についての大切な授業でした。
演出家として自分の心に留めておきたいことは以下の3つです。

1-日々のトレーニングによって丹田を鍛えなければ、劇はできない。
2-俳優を信じなければいけない。俳優に自由を与えることで、劇に命が吹き込まれれる。
3-寛大さを示す。

このインターンシップでは単なる経験ではなく、より良い作品を創るための根本を学びました。
僕はいま帰りたいけれど帰りたくないような、複雑な感情です。
フランスに戻るのは悲しいですけど、希望もあります。
国境のない、寛大な演劇の作品を作っていきたいです。


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▲ポールさんが毎日熱心に書き込んでいたノートの1ページを撮らせてもらいました。


Venir au Japon pour observer le travail du SPAC et de Mr Satoshi Miyagi est un rêve que je fais depuis longtemps. Depuis que j’ai vu le Mahabaratha ou le Lièvre d’Inaba mais également d’autres pièces mettant en scène les acteurs du SPAC. Originaire de l’Île de la Réunion, je vis et travaille à Limoges(France). J’y dirige la Compagnie Soleil Glacé, avec laquelle je dirige les pièces que j’écris. Je voulais découvrir le travail de Monsieur Miyagi car je pense qu’il se passe quelque chose d’important lorsque les acteurs du SPAC entrent sur scène. J’ai donc eu la chance d’observer la création de Révélation, écrite par Léonora Miano et qui sera jouée à la Colline à partir du 20
Septembre 2018.

L’aventure a commencé par le training, qui précède chaque répétition. Au début, la première vision impressionne. 16 acteurs, visages impassibles, se mettent à frapper des pieds dans un rythme presque militaire. S’ensuit la voix entre prières et harmonies montantes. Et tout à coup de crier « A » de toutes ses forces au soleil. Puis ensuite, on entre dans le training et on comprend soi-même. Rien de militaire, rien de religieux. Seulement du théâtre. On comprend que tout doit venir du centre de gravité du corps. J’ai passé beaucoup de temps à le chercher sans être vraiment sûr de le trouver à chaque fois pendant qu’autour de moi s’éveillaient les acteurs, projetant la tirade de
Macbeth à plein ventre. Le training de l’acteur forme le corps à l’acte de jouer et rassemble les acteurs autour de rituels et la notion de rituel est primordiale dans le théâtre de Satoshi Miyagi.

Révélation de Léonora Miano est une pièce profonde et puissante. Elle retranscrit, sous la forme d’une mythologie inventée, le procès fictif des grands criminels africains de l’histoire de la traite des esclaves. Miano réveille les morts et les dieux pour révéler les crimes, les blessures pour ainsi faire le deuil d’une histoire complexe qui est encore trop entachée d’approximations. Comment une troupe japonaise peut-elle alors se saisir d’une telle histoire qui, de plus, n’est pas connue du grand public ? Par le talent et l’humilité. Talent de ne pas se travestir pour jouer une pièce qui parle de l’Afrique. Ici, on créé sur le plateau une autre mythologie qui n’est ni africaine, ni japonaise. Les frontières se brouillent. Humilité des acteurs ensuite, consciencieux, inquiets parfois de ne pas être à la hauteur de la portée politique du texte ou juste dans ce qu’ils proposent au plateau. Les répétitions avancent prudemment, cherchant la musique juste, le texte juste, le mouvement juste. Satoshi Miyagi, avec une grande habilité, laisse une liberté importante aux acteurs, pour que la vie arrive sur le plateau. L’équipe cultive un doute créateur fondamental et la passion de bien faire. De cette place étrange d’observateur, j’ai pu sentir ce qu’est une vraie troupe d’artistes en recherche, oeuvrant pour une œuvre plutôt que pour eux-même.

La musique accoustique prend une place très importante dans les pièces de Satoshi Miyagi. Composée par la géniale Tanakawa Hiroko, la création de la musique de Révélation est un spectacle quotidien. Chaque acteur improvise autour des consignes données par la musicienne, qui finalement additionne et compose. Souvent, les bases d’une véritable musique de théâtre naît en à peine 30 minutes. La musique n’apporte pas seulement une compréhension du texte. Elle est un véritable personnage, le chef d’orchestre du spectacle. Elle rassemble des acteurs qui pourtant sont tous très différents. Révélation devient une épopée qui brise les frontières.

De ces répétitions, je retiendrai d’importantes leçons de mise en scène : faire confiance aux acteurs et au théâtre ; structurer la liberté de la vie au milieu d’une musique généreuse ; laisser respirer un spectacle pour y créer de la vie ; faire preuve de courage et de générosité. Je ne pars pas seulement avec une expérience mais aussi avec un désir fondateur de rendre au monde la poésie étrange qu’il génère. L’envie d’être un meilleur artiste, pourvu de la même folie, de la même rigueur et du même professionalisme. Enfin, je repars avec l’espoir et la confiance à porter un théâtre qui peut briser les frontières et dire toutes les histoires du monde, ici et maintenant.


*『顕れ』(フランス公演)詳細はこちら


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