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2012年10月26日

<病ブログ5> 舞台には浅草最後の映画館の客席が!?

明日27日『病は気から』いよいよ一般公演初日!!


<病ブログ5>では、『病は気から』の舞台セットが、新聞で取り上げられましたので紹介します。

日本経済新聞(朝刊) 2012.10.25
『病は気から』日経新聞

静岡で長年映画に携わってこられた斉藤隆さんにも、
コラムを書いていただきましたので、ご紹介します。

“映画館”の椅子とモリエール
10月24日からグランシップにある「静岡芸術劇場」でモリエールの『病は気から』が公演される。この公演に際して、ちょっとうれしい話を聞いた。浅草の映画館の椅子が演劇の舞台装置として使われるということだ。
東京の浅草は映画館発祥の地である。昭和の映画館全盛の時代から映画館の灯をともし続け、先月の9月に閉館した「浅草世界館」。その客席の椅子88席が再び静岡の地の演劇空間という舞台で、日の目を見ることになった。「世界館」という館名は映画館の創成期には多くつけられた名前だ。静岡でも大正期の両替町に「世界館」という映画館があった。
昭和30年代に黄金期をむかえた映画館は、時代の流れの中で大きく変容し、平成の今日ではますます減少傾向にある。静岡の七間町にあった映画館も昨年10月、主要な8館が閉館していった。老朽化と経済性で映画館の多くはシネコン(シネマ・コンプレックス=複合型映画館)に移行している。
「浅草世界館」もそんな時代の流れの中で閉館を余儀なくされたのだろう。単独の映画館はいずれなくなってしまう事だろう。
「映画館」という独特な空間の中で、映画を楽しみ、共有してきたものにとって、これは実に寂しいことだ。映画文化は発生して、まだ100年余の歴史しかない表現形態である。その表現を鑑賞する空間としての「映画館」も時代とともに変化していくことは仕方がないものだろう。
17世紀のモリエールの演劇が、21世紀に公演され、その舞台装置のひとつとして、古い映画館の椅子が再生される。文化というものの奥深い不可思議を感じさせる楽しいニュースだ。
人々の営み、その喜怒哀楽は、昔も今も大差はない。演劇に生き、演劇に死んだモリエール。しかし彼の演劇は今日も生き続けている。
そのモリエールの演劇が公演され、映画館で多くの人々とかかわり共有されてきた椅子が、再び演劇空間の舞台でスポットを浴びる。そんな演出をさせる才人モリエールは、つくづく粋な計らいをする人だ。映画館の文化をこよなく愛するものとして本当にうれしい話だ。

斉藤隆(さいとう・たかし)
1941年、旧清水市生まれ。清水東高、同志社大卒。66年、オリオン座、ピカデリーをはじめ映画館などを運営する静活に入社。営業本部長を務め、2008年4月退社。09年3月、静岡の映画館史をまとめた「静岡映画館物語」を出版。