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2013年12月8日

『ロミオとジュリエット』ヨーロッパ・ツアーその14(貴島豪編Ⅱ)

さて。
ジュネーブからレマン湖沿いを電車で約1時間。本日乗り打ち1day公演の地、Vevey(ヴヴェイ)に到着。

湖畔の美しい小さな街。しかし日本でおなじみ「ネスレ」の本社もあり、観光地でもあります。
集合時間まで少し間があったので、劇場に荷物を置いて…この地に来てどうしても会いたい方がいたんで早速そちらへ。

…湖岸を歩くこと約5分。
おお、いらっしゃいました。

そう、チャーリー・チャップリン。彼が晩年ここで過ごしたことでも知られている地なんです。(オードリー・ヘップバーンなど数々の世界的著名人の名も!)

…レマン湖に刺さるフォークは前衛芸術家の作品らしいのだけど、僕の推測では「黄金狂時代」へのオマージュと思うのだが、これいかに?

そう、王貞治、007、チャップリン。…ウルトラマンよりも仮面ライダーよりも僕の中のヒーローだった3人。なかでもチャップリンに出会わなけりゃ、今この業にいてここに居なかったと…。

感無量。よかった、会うことができて。

さあ、改めて劇場へ。

改装して間もないそうでキレイです。中は…間ロが狭く、奥行がやたらと深い。少し変わった造りです。
にもかかわらず、前乗りしてキッチリ劇場にフィットさせて何事も無かった様に装置を建て込んでしまっているスタッフには毎度の事ながら頭が下がります。

小道具の位置決めをして、通し。このツアーで慣れ親しんだ流れ。
…でもこれが本当に大事な時間なんです。
勿論見た目はさほど変わらないのだけど本番では、やった事を振り返った瞬間にそこの空気は死んでしまいます。一言発した音の大きさや高程がほんの少し違うだけでも空間の満たされ方が全く違います。ましてや全く違う空間、一期一会の観客。できる限りの情報収集をして身体に書き換えていきます。
そこで改めてステキな刹那を生きてゆくための時間なのです。

…そして通し終了。
ダメ出しと技術的な修正などの話のあとに、ファビアナのロからみんなに、悲しいお知らせが告げられました。

ツアーの当初からずっとこの舞台セットをトレーラーで各地へ運んでくれていた運転手のセドリックさんが急に、亡くなった、と。

にわかに信じ難い話でした。…つい3日前のバラシの時も、「Ça va?」(元気?)って言うと「Bien,bien!!」(元気、元気!)と巨漢レスラーみたいな身体揺らしながらニッコリ握手交わしたのに…。

沈痛な空気に包まれたのだけれど、時間は待ってくれません。皆準備に散って行きます。
…その後はメイクしたり、メシ食ったり、冗談言い合ったり…いつの間にか普段の様な楽屋に戻っていました。…が、このチームの誰もが、一様に、期するものを持っているのを感じてました。

セドリックと共に。

そして本番。

約800の客席は今日も満員。

お客さんの反応もよく、いい舞台だったと思います。

そしてカーテンコール。
毎回、俳優のお辞儀の後に、皆の手でブースに向かって照明ヴァロンタン、音響マキシム、字幕ファビアナと指して紹介してゆくのですが、加えて今日は、オマールの
「セドリック!」
の号令と共に、皆で天を指して感謝を棒げました。
そしてダブルコールで舞台のスタッフと共にもう一度、天に。

…きっと届いてくれた、な。
喜んでくれてるかな…?

…時は過ぎ深夜2時。バラシも終え、積み込みも全て終了しました。

セドリックさんのトレードマークだったこの「HONDA」のトレーラーは、主人を変えてジュネーブへ帰っていきます。

そして帰り、ピエール=イヴの運転する車の中でラジオから聴こえてきたのはネルソン=マンデラ氏の訃報。

何だかいろんなレベルの事が、想いが、目まぐるしく交錯する1日でした。

あと2週間余り。

この旅で出会ってきた全ての事に,感謝。

そしてセドリックさんに、大いなる感謝を込めて。

残り、たおやかに。

2013.12.05 貴島 豪