ふじのくに⇄せかい演劇祭2015の演目をランダムにご紹介していきます。
第四回目は『聖★腹話術学園』。
シュールでブラックユーモアたっぷりの人形劇(?)です。
塀の外の方が自由だぞ
主人公のセレストは、なぜか追われる身となって逃げ回るうちに、塀をよじのぼって、奇妙な建物の中庭にたどりつきます。そこに等身大の人形を操る男が登場。(男ではなく)人形はドン・クリスパンと名乗り、セレストに銃を突きつけます。操っている(はずの)男によれば、
「おとなしく言うことを聞いた方がいいですよ。銃の中身は本物ですから・・・。」
セレストに迫るドン・クリスパン。
「塀の外にいた方がよっぽど自由だったのにな。ここは豚箱よりしんどいところだ。学校なんだぞ。さあもう一度塀を登るか、入学するか、どっちにする?」
そしてセレストは、どう見てもヤバそうなこの「腹話術学園」に入学することを決めてしまいます。
おまえの人形に魂を譲り渡すんだ
入学すると、まずは自分の人形を作らされます。その人形に自分の魂まで譲り渡してしまって、あとはひたすら人形に奉仕する、というのが学園の方針だといいます。つまりこの学園では人形の方が人間を支配しているわけです。教育係となった尼僧の人形がセレストに、自分の人形にしたい「秘められた欲望」をたずねます。
「ロリコンがいいか?それともサドマゾ系か?」
ところが、これに対するセレストの意表を突いた答えから、徐々に学園の「秩序」がかき乱されていきます・・・。
演劇人ホドロフスキー
この作品を書いたのは、奇想の映画作家として知られるアレハンドロ・ホドロフスキー。日本では『エル・トポ』や、最近公開された『リアリティのダンス』といった映画作品が知られていますが、実はこの人、もともと演劇をやりたかった人なのです。チリに生まれ、学生時代から実験的な演劇作品を発表し、24歳で渡仏。人形劇をやりながら放浪生活を送っていたところで、パントマイムで有名なマルセル・マルソーに出会って弟子入りし、百本以上の舞台を演出しています。『聖★腹話術学園 L’Ecole des Ventriloques』は、このベルギーの劇団ポワン・ゼロのために書き下ろされた作品。日本でホドロフスキーの戯曲が上演されるのは、おそらくはじめてです。ホドロフスキーの作品においては、一見すると奇妙で猥雑な仕掛けが、同時に高度な精神世界へのいざないともなっています。
ジャン=ミシェル・ドープ(写真左)とアレハンドロ・ホドロフスキー(写真右)
ベルギーの奇想とリアル
劇団ポワン・ゼロも、今回が初来日となります。ベルギーの舞台芸術といえば、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルやヤン・ファーブルなど、フラマン語(オランダ語)圏のアーティストたちは日本でもよく知られていますが、フランス語圏のアーティストはほとんど紹介されていません。ですがベルギーのフランス語圏からは、ルネ・マグリットやアンソール、ポール・デルヴォーといった数々の奇想の画家たちが輩出されています。そして、フランス語で書いたベルギー出身の偉大な作家として、『青い鳥』や『群盲(盲点たち)』の作者メーテルリンクがいます。ここには、理知的なものを尊重してきたフランスとは大きく異なる、グロテスクなブラックユーモアが神秘的思想へと至る鍵になるような、独特の世界があります。ポワン・ゼロも、リアルな世界と夢幻的な世界が地つづきでつながっているような、上演の難しい作品を好んで舞台化してきた劇団です。
ポワン・ゼロとの出会い
ポワン・ゼロは上演する作品に合わせてスタイルを大きく変えています。このホドロフスキーの作品を上演するにあたって、ポワン・ゼロは人形劇の専門家に指導を仰ぎ、古典的な技術を学びつつも極めて独創的な人形を作り上げ、人形に支配される特異な世界をみごとに表現しています。この作品は2014年のアヴィニョン演劇祭のオフで上演され、話題を呼んでいました。SPACからも『マハーバーラタ』や『室内』の公演に参加していた多くの俳優やスタッフが観に行き、アヴィニョン滞在中に観たなかで一番面白かった作品として挙げていました。
というわけで、内に秘めた欲望がある方もそうでない方も、ぜひ学園の門を叩いてみてください。きっと不思議な顔をした人形たちが、訪れたことのない世界へと連れて行ってくれます。
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日本初演 演劇/ベルギー
『聖★腹話術学園』
演出: ジャン=ミシェル・ドープ
作: アレハンドロ・ホドロフスキー
出演: ポワン・ゼロ
5/5(火・祝)16:00、6(水・祝)12:00
静岡芸術劇場
http://spac.or.jp/15_the-ventriloquists-school.html
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