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2015年4月13日

『メフィストと呼ばれた男』稽古場ブログ4 出演者インタビュー吉植荘一郎

出演者インタビュー、第3回は、文化大臣・巨漢を演じる吉植荘一郎です。


◆吉植荘一郎(よしうえ・そういちろう)◆

登場人物紹介◆巨漢
新政権の文化大臣。芸術愛好家でもあり、主人公クルトの俳優としての才能に惚れ込んでいる。新政権下で、クルトに国立劇場の芸術監督になることを提案する。

Q. 吉植さんの演じる巨漢はどんな人物ですか。
 私が演じる「巨漢」は、実在したナチス・ドイツの大幹部ヘルマン・ゲーリングという人をモデルにしています。この人は、一見豪快で派手好き女好きで、人当たりも良くて、「わっはっはー」という感じなんですが、実は秘密警察ゲシュタポを作り、政治犯を次から次へ血祭りに上げていった、非常に恐ろしい人物でもあります。 
 美術の愛好家でもあり、占領地域からいろいろな芸術品を略奪し、自分のコレクションにしていました。演劇との関連では、この作品の主人公クルトのモデルとなった俳優グスタフ・グリュントゲンスの才能に惚れ込んでいました。彼の芸術をナチスの新体制の下でも生き延びさせたいという思いと、それを民衆操作のためにフル活用したいという思惑で、クルトに近づいてきます。


【稽古風景より:劇場を訪れた文化大臣・巨漢】

Q. その思惑があっても巨漢の接近の仕方は、全然そういう感じがしませんよね。警戒するクルトに、「新体制でも、あなたは今までと同じように、芸術家としてあなた自身の仕事を自由に、最高の水準ですればいい」と。
 ひとつには、感嘆するほどの美しい芸術に触れた時、彼の中で「これは永久にこのままでいてほしい」、「これは、むやみに触れたりしてはいけないんだ」という、ある種の畏敬の念があるのだと思います。
 もうひとつには、たぶん今日のヨーロッパや日本のような国で、芸術家を枠にはめたり、自分の思惑で動かそうとする人は、腕を振り上げて、「君たちは、お国のために…!」というような、高圧的な態度はとらないと思うんです。「私どもは、いつも先生の作品を素晴らしいと思っています。今はこの国も大変な状況で、先生の力が必要なんです!」というような低姿勢で近寄って、けれども相手にノーとは言わせない状況を作るのではないかと。この作品は、そういうところに、昔のドイツのお話で終わるのではない、今の我々にも響いてくるものがあるのではないかと思います。


【稽古風景より(左は、巨漢の愛人リナを演じる鈴木麻里)】

Q. これまでに出演されたSPAC宮城作品との違いを感じる点はありますか。
 今回の芝居は、相手をどうしたいという明確な欲望をもって、そこから声や動きを出していくのではない仕方で作っていると思います。これまでの宮城演出作品では、声を出す場所もぐっとお腹の下の方に落として、重々しくしゃべるものが比較的多かったのですが、今回はそうではない。聞いていて、考える隙もなく台詞が流れていくスピードと軽さがありますね。自分はこうしたいんだという強い欲望を持っていない身体の俳優が言葉を発する。そうするとその、言葉に刺激されて、お客さんは、舞台で起こっていること以上のことを考え、想像していく。だから、登場人物が単純明快に理解できるようなものではなく、それぞれが謎や奥行きを持った人間として見えてくるということがあるかもしれません。

Q. 『メフィストとよばれた男』は宮城&SPACにとって挑戦作ですが、吉植さんにとっての今回の挑戦は何ですか。
 今回の作品では、本当に台詞を今思いついて言っているかのような綱渡りの状態が大事だと思うんです。それは、偶然の方に重みが偏ると、本当に台詞を忘れてしまう。だからといって、堅実の方に重さがかかりすぎると、用意してきた台詞をなめらかに言うだけになってしまう。お客さんが「この言葉は、いま台詞として発せられているんだ」ということを忘れてしまうくらいに、自然に風通しよく、しゃべれたらと思います。どこまでいい感じにビビりながら、落ちずに行けるのかの綱渡り。それに挑戦しています。

Q. 最後に読者のみなさんにメッセージをお願いします。
 この作品は1930年代から1945年までのナチス・ドイツをモデルにした話ですが、よくみると今の日本のことを言っているかのような部分がいくつもあります。「私たちも、もしかしたらこうなるかもしれませんよ、皆さん」という話でもあることを、どこかで感じてもらえたらと思います。

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SPAC新作『メフィストと呼ばれた男』
4/24(金)・4/25(土)・4/26(日)
静岡芸術劇場
http://spac.or.jp/15_mefisto-for-ever.html
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