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2015年4月21日

『メフィストと呼ばれた男』稽古場ブログ6 出演者インタビュー若菜大輔

出演者インタビュー、第4回は、若手俳優ニクラスを演じる若菜大輔です。


◆若菜大輔(わかな・だいすけ)◆

登場人物紹介◆ニクラス
主人公クルトが率いる劇団の若手俳優。労働者階級出身、ナチス党員。

Q. 若菜さんの演じるニクラスはどんな人物ですか。
 世の中の流れに少し逸れながら生きる人で、器用な生き方が出来る人間ではないと思います。若い頃からナチス党員になり活動してきた人です。
 西ドイツで1951年に行われたアンケートで、“ドイツにとって一番上手く行った時期はいつか”という問に、半数近くの人が1933年から1939年までの6年間だと答えたそうです。ヒトラーが全てを掌握してから、戦争が始まるまでの時間です。けれどニクラスは、そのように回答した人たちとは違う位置からドイツを眺めることになります。1933年にナチスの党員は急激に増えました。ニクラスは、ナチスが全く力を持たないときから党員として活動していたのにも関わらず、本当にあったかどうかは定かではないけれど、多くの人々が良かったと感じた1933年からの時代の蜜を吸いませんでした。


【稽古風景より:『ハムレット』の稽古中に、亡霊を演じるニクラス・若菜(右はハムレット演じるクルト・阿部一徳)】

Q. ニクラスも、その蜜をいつか自分も吸いたいと思ったから党員になったのではないでしょうか。
 彼は、裕福な家の出身ではなく貧しい環境で育ってきた人だから、自分や家族、同じ立場にいる人たちの状況を変えたいと思い、党員になりました。それを実現してくれるのはナチスだと信じていた。けれど、ナチスが第一党となりヒトラーが首相となった時に見えてきたナチスの顔は、ニクラスが信じてきた顔とは違っていた。その後、逆にナチスに反抗していくことになります。ニクラスにとっては甘い蜜を吸うことよりも大事なものがあったのかもしれません。それが何なのか、稽古をしながら模索しています。


【稽古風景より:後ろはナチスの文化大臣・巨漢演じる吉植荘一郎】

Q. お客様にはどんなところを観てもらいたいですか。
 ドイツでナチスが政権を握っていた時間は、ある種特殊な時間だと思います。けれど、この台本と向き合っていく中で、“特殊な過去の出来事”だと片づけるわけにはいかないのではと思うようになりました。気づいていないだけで、ひょっとしたら隣にヒトラーがいるかもしれない。それどころか自分自身がヒトラーかもしれない。僕たちには見過ごすことの出来ない共通点があります。それは人間だということです。
 その共通点をお客様にも感じてもらえるように、ニクラスという人間に向き合っていきたいと思います。


【稽古風景より:『桜の園』の稽古中、トロフィーモフを演じる若菜(右はアーニャを演じるアンゲラ・山本実幸)

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SPAC新作『メフィストと呼ばれた男』
4/24(金)・4/25(土)・4/26(日)
静岡芸術劇場
http://spac.or.jp/15_mefisto-for-ever.html
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4/10演劇祭開幕直前シンポジウム
【抵抗と服従の狭間で―「政治の季節」の演劇―】の動画を公開しました!
http://spac.or.jp/15_symposium.html
登壇者:片山杜秀(音楽評論家、思想史研究者)、高田里惠子(ドイツ文学研究者)、大澤真幸、大岡淳、横山義志 (以上、SPAC文芸部) ほか

このシンポジウムでは、5人の登壇者が『メフィストと呼ばれた男』を「政治の季節」という切り口で議論しました。俳優グリュントゲンスをはじめとする作品のモデルとなった人たちのクローズアップ、ナチスのとった文化政策、芸術家が戦争に対してとる態度、当時の日本の演劇人や文化人の事例など、この作品が提示するさまざまな問題が論じられました。是非、こちらもあわせてご覧ください。
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