◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」 パンフレット連動企画◆
中高生鑑賞事業公演では、中高生向けの公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。
パンフレット裏表紙の俳優トークのロングバージョンを連動企画として、ブログに掲載します。
<リアルな芝居を目指して>
左・野村市恵役 本多麻紀(ほんだ・まき)
2007年よりSPAC参加
右・猪原正義役 渡辺敬彦(わたなべ・たかひこ)
2010年よりSPAC参加
―『高き彼物』は、8月下旬に第1期の稽古がありましたが、そこではどのようなことをしたんでしょうか。
本多(以下H) 演出の古舘さんからは、『高き彼物』ではリアルということを大事にしますというお話があり、古舘さんがアメリカの演劇学校で学ばれた「メソッド演技」という方法をみんなで共有するところから始まりました。講義があり、実際に身体を動かして試すエクササイズにも、かなりの時間があてられました。
―それは、今まで SPACでされていたこととは違いますか?
H 古舘さんのお話を聞いて自分の中で解釈すると、これまで芸術総監督の宮城さんや、海外からいらした演出家の作品の稽古で言われていたことと、表面的には違うように見えても、最終的にはつながる部分があるなと思いました。
渡辺(以下W) 古舘さんは、リアリズムの芝居について、「日常の現実の常態を舞台に立ち上げることができれば、それだけですごいこと。それはすごく面白くて、ずっと観ていられる」とおっしゃっていて、1期の稽古では、そういうリアルをどうやって舞台上で作り出すのかを、ひたすら試行錯誤しました。とはいえ、舞台はお客さんに見せる作業だから、隠しカメラでどこかのお茶の間を撮って、そのまま見せるというようなわけにはいかない。もっと凝縮して作品にしなきゃいけない。そこがまた難しいところでもあるんだけれど。
リアルを求める古舘さんの言っていることは特別なことでないし、他のいろんな演出家が言っていることも、特別ではなくて、それはどこかでつながっていると思う。僕がいつも思うのは、ボリュームをどうするかなんですよ。
どんな芝居もやっていることは基本的には同じで、どんなにリアルな芝居も演技の様式的なものを全否定するないわけではないし、様式性で作られた舞台もリアルなものを全否定しているわけではない。だから、俳優はいろいろな演技の引き出しをもっているけれども、そのいろいろなツマミのボリュームを調整して、どこでバランスをとるかという問題だと思うんです。一流の俳優は、みんな「自分はこのボリュームが好き」という好みはあっても、それとは別にその都度作品や演出家が求めるところに、自分の演技のボリュームを合わせる能力を持っているんじゃないのかな。
H 具体的にはどんなボリューム?
W リアルなボリューム。ひたすらリアル、でも作らない。といっても、作る。
H そう、だからそのさじ加減がむずかしいなって(笑)
―具体的には、古舘さんからはどのような指示が出されたんですか。
H よく言われたのは、「普段の自分がどうしているか」や「もっと普通に」ということでした。例えば「この場所のこういうところに、こういうモノがあって、それがこうなって…」という話を、セリフとして言おうとすると、言葉ばかりが立っちゃって、描写されている情景があまり見えてこないことがあるんです。そういう時、古舘さんは「ちょっと雑談しましょう」と。そして、「今日あなたがお家を出てからここに来るまで、どういう道を通ってきましたか?」と質問する。すると俳優は「玄関を出て、右に曲がってエレベーターを降りて、駐車場に行くのにちょっとぐるっと回るんだけど…」みたいな自分の普段の話をする。すると、そこで描写されている情景は、不思議と聞いている人の頭に浮かんでくるんです。一旦、そういう話をさせた後に、古舘さんは「じゃあ、今の感じでセリフをしゃべってください」と稽古に戻る。こういう手段を経ると、普段の自分が自然に無意識にしていたことに、意識を向けさせられます。これまでとは違う筋肉を鍛えられている感じがして、面白かったですね。
―今回この作品のためのオーディションで選ばれた、とみやまあゆみさんと石倉来輝さんは、初めてSPACの作品に出演しますね。
H 敬彦さんは、お二人のこと、すごい褒めてましたね。
W SPACでずっとやっている俳優とは鍛えている筋肉が違うから、すごく新鮮な出会いになったと思います。違いますか?
H そうですね。もう、本当にうまいなあと思って。今回稽古をしている中で、自分もいろいろな障害にぶつかって、うまくいかないところがあるんですけど、お二人はさすがにオーディションで選ばれただけあって、障害の越え方が非常に軽やかだなあと思います。見ていてすごく勉強になりますね。
W 僕も、これまでいろんな舞台に出て来たけれども、ここまでリアルな演技を求められるのは初めて。
H 敬彦さんは、役を丁寧に作っていて、演じているというより、この人は素もこうなんじゃないかと思うくらいのフィット感がありますけど。
W うーん。そうかなあ?でも、台本を読んでいると、正義の体験したことと自分自身の体験で、バチンバチンと重なるところもあって、彼の発言や考え方全てに共感しているわけではないんだけれども、分かる気はする。それは、お互いの年齢が近いし、自分も歳をとったということかもしれない。でも、物語は1978年、55歳の正義は戦争を経験している。そこをどう捉えたらいいのかには、頭を抱えています。俺は戦争を経験せずに生きてきたから… たとえば、正義は何を思って英語教師になったのかを、戦争とか時代背景もからめて考えると、なかなか難しい。
H 戦争中、英語は敵国の言葉でしたしね。
―本多さんは、ご自身が演じる野村市恵に共感する部分はありますか。
H 話を聞いていてとるリアクションとかは割と近いところがありますね。たとえば、誰かが話すのを周りがじっと聞いているようなシーンで、「ああ、やっぱりここは母親ならではの視線でそこに意識がいくよね」とか。でも、全てが自分に近いわけではないんです。市恵は恋愛に関しては本当にストレートで迷いがない。正義のことがずっと好きで、15年も彼のことを想っているわけですけれども、その想いをああやってバシって言えちゃうのはすごいなと。
W お互い最終的にどれだけの説得力を持つことができるか、これからの稽古で挑戦していきたいね。
公演情報詳細はこちら。
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SPAC秋→春のシーズン2016 ♯2
『高き彼物』
一般公演:11月3日(木・祝)、5日(土)、13日(日)、19日(土)
演出:古舘寛治 作:マキノノゾミ 舞台美術デザイン:宮沢章夫
静岡芸術劇場
*詳細はコチラ
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