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2019年4月29日

『マイ・レフト/ライトフット』を見て、ちょっと先の日本の社会を想像する

SPAC文芸部 横山義志

昨年スコットランドのエジンバラ演劇祭に行って、見てきたなかで圧倒的におもしろかったのがこの作品でした。

脳性まひで左足だけを動かすことができる青年が作家になり、画家になる感動の物語を、名優ダニエル・デイ・ルイスが演じて大ヒットした『マイレフトフット』。スコットランドの小さな劇団で、「最近インクルーシブな演劇とか流行ってるから、『マイレフトライトフット』みたいなのをやってみようか?」という話になり、最近売れていなかった俳優が「ああいうのをやるとアカデミー賞を取れるんだよね」といって、脳性まひの青年役を演じようとします。そこで、劇団のスタッフをしている右足が不自由な青年がいるので話を聞いてみようということになったのですが、青年は自分が出演するものと思い込んでしまいます。そして青年がためらいながらも勇気を振り絞って稽古場に行くと、脳性まひをノリノリで演じている別の俳優が・・・。

かなりブラックな障がい者差別ネタが連発されるのに、なぜか素直に笑えて、なんだか前向きな気持ちになれる、不思議な作品です。

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「インクルーシブ(包括的な)」という言葉は、最近英語圏で「障がいのあるなしにかかわらず参加することができる」といった意味でよく使われる言葉です。とくにスコットランドでは、様々な分野で、障がい者が参加しやすい仕組みがつくられています。エジンバラ空港から市街に行くバスの観光案内ビデオにも手話通訳がありました。この作品にも、歌に会わせて踊るように手話をするイギリス手話通訳の方が参加しています。この作品は、障がい者と健常者が一緒に作品を作っている「バーズ・オブ・パラダイス」という劇団が主体となって作られました。同劇団の芸術監督で作・演出のロバート・ソフトリー・ゲイルさんも脳性まひの方で、スコットランドではけっこう有名人のようです。ゲイルさんはこの作品で、障がいをもつ当事者の視点から、「健常者」の無理解を笑い飛ばしています。

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スコットランドってどこにあるか、ご存じでしょうか。実は私も去年初めて行ったのですが、「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(イギリス)」を構成する国の一つで、グレートブリテン島の一番北にあります。日本でいえば青森県といった感じでしょうか。中世から栄えていた古都エジンバラは夏でも涼しく、雨もよく降って、8月なのにコートが必要な日もあったりします。そんなエジンバラが一ヶ月間、演劇で埋め尽くされます。この作品はスコットランド国立劇場のプロデュースで、エジンバラ演劇祭のメインプログラムの一つとして上演されていました。

スコットランドの俳優さんたちを見ていると、妙に親近感を持ってしまいます。いかにも「美男美女」という方はあまりいなくて(失礼!)、むしろ「どうせ私なんて」という感じのたたずまいだったりするのですが、ちょっと歌ったり踊ったりするとすごくパワフルで、ふだん内に秘めているものがあるんだろうな、と感じさせられます。この作品に出ている俳優さんたちは、まさにそんな感じです。ジェンダーバランスの面でも日本よりかなり進んでいて、演劇界でも女性の活躍が目立ちますし、ゲイルさんのように同性のパートナーがいる方も少なくありません。舞台上では、とてもアクティブな「肉食系女子」と、おとなしめの「草食系男子」の組み合わせに多く出会いました。

短い滞在でしたが、スコットランドには学ぶべきものが多いなあと思いました。10年後、20年後の日本の社会を想像するためにも、ぜひご覧いただきたい作品です。

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5/2(木・祝)開催の関連シンポジウム「クリエイティブ・アクセシビリティについて考える」では、難聴者などの障がい者向けに「UDトーク」でリアルタイム字幕配信を行います。詳しくはこちら

日本語手話による作品紹介ビデオが公開になっています!こちらから。

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ミュージカル
『マイ・レフトライトフット』
演出・作:ロバート・ソフトリー・ゲイル
製作:バーズ・オブ・パラダイス・シアターカンパニー、ナショナルシアター・オブ・スコットランド

公演日時=5/2(木・休)14:30、5/3(金・祝)13:30
会場=静岡芸術劇場
上演時間= 120分(途中休憩含む) ※英語上演/日本語字幕
*詳細はコチラ
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