◆中高生鑑賞事業「SPACeSHIPげきとも!」パンフレット連動企画◆
『メナム河の日本人』舞台監督インタビュー
中高生鑑賞事業公演では、あらすじの紹介や作品について考えるヒントが書かれた公演パンフレットをみなさんにお渡ししています。
『メナム河の日本人』のパンフレットでは舞台監督・山田貴大(SPAC創作・技術部)のインタビューを掲載しています。
このページではインタビューのロングバージョンを掲載しますので、興味がありましたらぜひお読みください!
--どのように演劇と出会い、舞台監督になったのですか?
演劇との出会いは高校生のときでした。1年の終わり頃、仲の良い友だちに、「演劇部の定期公演を観に来てよ」と誘われて観に行きましたが、そこで彼らが自分を出して生き生きと演じているのが格好よくて、何よりも楽しそうに見えたんです。それまで演劇には全然興味が無かったけれども、「ここに入ったら面白いんじゃないか?」と直感的に思い、それまでいた運動部から演劇部に転部しました。
大学は経済学部に進学しましたが、演劇を学べるコースもあり、学内の劇団の活動も盛んだったので、副専攻で演劇の授業をとったり、学生の自主企画公演に出演したり、演劇を続けました。プロとして第一線で活躍されている先生や、学外の劇場やプロダクションでも活動をしている先輩がいて、とても刺激を受けましたね。大学4年の頃には、スタッフTシャツを作って販売したり、稽古の様子をブログで紹介したりと演劇の制作的な活動もしたのですが、その仕事が面白くなり、卒業後は大学内の劇場の制作スタッフとして3年間働いていたんです。そこでは主に広報誌の編集を担当していました。その大学で生まれている演劇活動の情報を、どのように地域の人やあまり演劇を観たことのない人たちに向けて知らせることができるのかをテーマに仕事をしていました。
実はSPACに応募したときは制作部志望だったんです(笑)。でも、そのときは制作部に空きがなかったので、創作・技術部に入ることを勧められました。「創作の現場の仕事を経験してから、いずれは制作部に!」と最初は思っていましたが、そのうちに裏方の仕事に面白みを見出し、この仕事を続け今に至っています。
--舞台監督はどんなことをするのですか?
演劇の創作は、美術家が演出の意向を汲んで装置のプランを考えるところから始まることが多いのですが、舞台監督はそこから参加します。提出されたプランを芸術面、技術面、予算面、安全面といった様々な条件と照らし合わせ実現に向けて計画を練ります。図面(劇場に舞台装置を設営するための設計図のようなもの)を描き、各スタッフとの話し合いを経て実施する内容を決め、必要な部材の調達や装置の製作などをします。
そうした事前の準備、劇場での仕込み(劇場にセットを立てたり、照明や音響が機材を設置したりする作業)やリハーサル、本番初日から千穐楽、バラシ(劇場で設営された装置や機材を撤去する作業)までのスケジュールを組んで、創作現場の始まりから終わりまでの道筋を作ります。
本番になると、創り出された作品をリハーサルで決めた通りに進行する仕事に集中します。全てではないですが、“キュー出し”と言って、上演開始の合図、装置や仕掛けの操作の合図、照明を暗い場面から明るい場面に変える“きっかけ”を俳優の演技と合わせてリアルタイムで各スタッフに伝えます。万が一アクシデントが起きれば対処する指示を出すことも。舞台監督の仕事は多岐にわたるので説明するのは難しいのですが、創作や上演の現場での中心を担う“扇の要(かなめ)”と言われています。
舞台監督には様々なタイプがいますが、技術的なことが得意な人は、たとえば舞台の装置や仕掛けなども自分で考えて作ってしまいます。逆に、様々な情報を集約してメンバーに共有することに専念して、技術的な部分については他のメンバーに意見を聞いたり任せたりするタイプの人もいます。もちろん、どちらも大事な仕事で、どちらも担えなくてはいけないのですが、僕はどちらかというと後者の方に強みがあるのかなと思います。劇場で働く人には“プレイヤー”と“マネージャー”というふたつの種類があると思っているのですが、プレイヤーとしてデザイナーや俳優がいる一方で、舞台監督や制作のようなマネージメントをする人がいる。自分はマネージメントの仕事に向いているんだと思います。
俳優、照明、音響、美術、衣裳など専門能力を持った沢山の人が作品に関わる中で、舞台監督はその人たちの調整役とも言えます。劇場ではその人たちがそれぞれ違った作業をしますが、本番までの時間は限られています。両者の間に入り協議し、何を優先するかを判断して、作品が成り立つまでの筋道を描きます。互いに折り合いがつかない場合もありますが、それらがひとつの形になり、本番を迎えた瞬間、この仕事をやっていて一番嬉しく感じます。
--『メナム河の日本人』でのお仕事は?
この作品では、劇場の機構(舞台の上にあるバトンなど演出効果用の機器)に大量の布を吊り、それを組み合わせて各シーンを作ります。何度も沢山の機構を操作するのでとても危険を伴います。稽古はまずリハーサル室でしてから、劇場の舞台上に移り、そこで初めて機構を使います。事前に「このバトンは設計上こういう操作しかできない」とか、「こう操作をするにはこういう危険がある」といったことを踏まえて、「この場面転換はこういう見せ方ができるんじゃないか」と提案するなど、いろいろな判断を織り交ぜ想像し、実際の操作方法を検討していきます。劇場稽古では、機構の動きを含む場面転換に時間をかけることになりますが、安全性を確保しながら稽古全体を仕切るのが、今回の大きな仕事のひとつになると思います。
--中高生へのメッセージをお願いします。
僕は、最初から舞台監督がやりたかったわけではないし、中高生の頃には劇場で働くことになるなんて想像もしていませんでした。クラブ活動の部長とか学級委員長とかリーダーシップをとる立場にはならなかったし、どちらかというとそういうものから逃げるタイプだったし、将来何が起こるかはわからないですね。
自分の場合は、大学の劇場で働いていたときの編集の仕事が、今の舞台監督の仕事に続いていると感じています。あまり関係がないように思われるかもしれませんが、いろいろな人たちから出てくるものを一つにまとめて、全体として成立するように調整していく役割という点では同じだと思っています。
中高生のみなさんも、自分が好きでやっていることや、これから好きになるものがあったときに、そこにある本質的なものを見つめられるといいですね。例えば、運動部のキャプテンをやっている人は、その競技そのものが好きや得意というだけではなくて、試合全体の状況や、チームメイトのコンディションを把握することが好きだったり得意なのかもしれない。そういうところから将来の進路につながっていく部分もあるのではないかと思います。
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SPAC秋→春のシーズン2019-2020 #5
『メナム河の日本人』
2020年2月15日(土)、16日(日)、23日(日・祝)、24日(月・休)、29日(土)、
3月1日(日)、7日(土)
各日14:00開演
会場:静岡芸術劇場
演出:今井朋彦
作:遠藤周作
出演:林大樹、阿部一徳、大内智美、大高浩一、奥野晃士、加藤幸夫、小長谷勝彦、佐藤ゆず、たきいみき、布施安寿香、三島景太、山本実幸、吉植荘一郎、渡辺敬彦
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