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2022年4月16日

『ふたりの女』を初演から振り返る②/アングラに追い込まれる

『ふたりの女』出演俳優 永井健二(光一役)

SPAC『ふたりの女』の初演をご覧になった人に必ず言われるのが、「すごい舞台装置でしたね!」だ。
半円に組まれたパイプ製の装置の上に、積み重ねられた廃材の山。これはその後の再演でも健在。
それから、床板を全部剥がし、床板を張るための下地材である「根太(ねだ)」だけになった床。これは、初演の時だけの演出だ。


2009年の『ふたりの女』舞台装置全景(撮影:橋本武彦)
 
廃材の山も、根太だけの床も、「身体がアングラになる」ための仕掛けでもあった。

初演の稽古が始まり、俳優たちを待っていたのは、ひたすら「アングラの身体性を探る」ことだった。
それはすなわち、「1960年代の学生運動の時代を生きた人たちの身体性や、当時の社会の熱気やエネルギーを求められる」ということでもあった。
「アングラ世代から遠く離れた現代の我々が、現代の身体性のままで演じても唐十郎の世界には太刀打ちできない。唐のセリフを喋るには、当時の熱量や気迫が身体の中になくてはならない」と。
 
たとえば。

当時よく行われた稽古のひとつに、「稽古場の奥から前に向かって歩く」というのがあった。それだけ聞くと「何が難しいのか」と思うだろう。
この「歩くとき」に、全身がヒリヒリするような…身体中の血管から血が噴き出しそうな…激しく興奮するような感覚を押し殺しているような…タライに入った満杯の水を少しも揺らさずに歩くような…そんな状態を求められた(と自分では理解している)。

まあ、仕掛けは何でもいいのだが、なにかそういう「身体中にエネルギーが充満していて、でも発散できず、下手に動くとその充満したものがこぼれ落ちてしまうような」、そういう感覚を求められ、必要以上に身体を鋭敏にさせた。
ちなみに、この稽古の時、よくかけられた音楽のタイトルから、僕たちはその稽古のことを「マホガニー」と呼んでいた(笑)。
今でもこの曲を聞くと、一瞬、心臓を掴まれたような感覚になる。

ほかにも、「根太に見立てた『格子状の垂木(たるき)』が稽古場に敷かれ、流れる音楽に合わせて、その垂木から落ちることなく全力で踊り狂う」という稽古もあったし、「『根太から落ちたら死んでしまう』というルールだから、決して根太から落ちないように」と言われたこともある。
俳優が物理的に安定しないための仕掛けとして舞台装置があり、その装置が、俳優を絶対的にアングラ状態へと追い込んでもいた。
 
また、初演の稽古では、「光一」役と「是光」役と「駐車場係員」役の3役については、3人の俳優が日替わり交代のダブルキャストとなっており、「公演はどちらかの配役のみで行う」とされていた。
たとえば僕は、「光一」役と、光一の友人「是光」役の2役を、一日おきに演じていた。
これが、なかなかどちらの配役でいくか決定されず、劇場入りしてもずっと、一日おきに両役を演じていた。「安定しない緊張状態を生む仕掛けとして、配役を固定しない」という目論見もあったと思うが、「さすがにそろそろ決めてほしい」と演出家へ直談判し、配役が確定したのが初日の数日前。
相手役もずっと日替わりで大変だっただろうと思う。そんなことを思いやる余裕すら、あの時はなかったけれど。

・・・とまあ、初演時は肉体的にも精神的にも、非常に追い込まれた状態で、辛い記憶が多い。
「唐さんが我々の舞台を観劇してくださった」という嬉しい思い出もあるが、「できれば再演は避けたい」とも密かに思っていた。
(今にしてみれば、あの余裕のない、やぶれかぶれな感じが、作品世界にマッチする部分も多かったとは思うが)

ところが2015年に、6年ぶりの再演話が持ち上がり、知った瞬間「!?」と固まったのは言うまでもない。
逡巡ののち、出演することを決めるわけだが、それはまた次回。

これは、2015年の『ふたりの女』プロモーション映像。
2009年の上演映像を使っており、アングラの身体性へ飛躍するための様々な仕掛けは、この映像からも垣間見える。
患者たちの衣裳は露出も多く、たとえば「全身白塗りで褌一丁」などもあった。
出演者は全体的にメイクも白塗り風味で、「分かりやすくアングラ」でもあった(笑)。
 
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『ふたりの女
平成版 ふたりの面妖があなたに絡む

公演日時:2022年4月29日(金・祝)、30日(土)各日18:00開演
会場:舞台芸術公園 野外劇場「有度」
上演時間:100分
座席:全席自由
演出:宮城聰
作:唐十郎
出演:SPAC/たきいみき、奥野晃士、春日井一平、木内琴子、杉山賢、鈴木真理子、武石守正、永井健二、布施安寿香、三島景太、若宮羊市

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