ぶじのくに⇄せかい演劇祭2024『かもめ』の上演にあわせて開催されたスペシャルトーク「トーマス・オスターマイアーの現在とこれから」
世界中で引っ張りだこの演出家トーマス・オスターマイアーさんが、静岡での公演にあわせて来日できる!となってから急遽開催が決定したこちらのトーク。
演劇祭最終日となる5月6日(月・振休)に、司会には演劇ジャーナリストの徳永京子さんをお迎えし、静岡芸術劇場2Fのカフェ・シンデレラで実施いたしました。
有料イベントだったので、トークの詳細な内容についてはご紹介できませんが、どのような雰囲気で行われたのか写真を交えてレポートしていきたいと思います。
初日に公演をご覧になった徳永さんからの質問に、オスターマイアーさんが答える形でトークは進んでいきました。
まず最初に、オスターマイアーさんが「おはようございます」と日本語でご挨拶され、会場は和やかな空気に包まれました。
静岡での『かもめ』千穐楽の開演前ということもあり、参加いただいた方の半数がまだご覧になっていませんでしたが、「ネタバレになるようなこともないから」とオープンに作品について話してくださいました。
ベルリンと静岡では舞台美術が異なる理由や、静岡版で取り入れたライブペインティングが作品にもたらす効果とその演出意図に対する質問には、「こうやって皆さんにお話ししていると、自分自身でも色んな事に気づかされる」と言いながらとても丁寧に答えていらっしゃいました。
すでに公演をご覧になった方はその情景を思い出しながら「なるほど」といった様子でオスターマイアーさんの言葉に耳を傾けていました。
また、ライブペイントの話を通じて、『かもめ』に対するオスターマイアーさんの解釈も語られていたので、トーク後にご覧になる方にとっても舞台を楽しむための大きなヒントになったのではないでしょうか。
続いて、『かもめ』では舞台上客席という形で、物理的に観客を芝居の中に取り込んだことや、ふじのくに⇄せかい演劇祭2018で上演した『民衆の敵』では、観客を巻き込んで議論を行うという演出について、「観客を作品に取り込むことにリスクはないか?」との質問が。
「ほかの演出家に比べて、観客への信頼は大きい」と答えつつ、『民衆の敵』と『かもめ』における観客との関係性の違いや、『かもめ』で舞台上客席にしたのは、「客席に座っていた人が、目の前に現れて芝居をはじめる」というような狙いがあり、この作品で目指した演劇の姿、そして「まだ理想とするものにはたどり着いていない」と正直な心のうちも話してくださいました。
このほかにも、シャウビューネの『かもめ』はチェーホフの書いた戯曲に忠実ながらも、俳優たち自身が自分が演じる役のセリフを考えるという創作スタイルを用いた理由や、新旧芸術家の対立が描かれている『かもめ』のストーリーをなぞりながら、オスターマイアーさん自身がいま感じていることや芸術観といった話にも触れられました。さらに、トークテーマにもある「これから」についてもサービス精神旺盛に教えてくださり、オスターマイアーさんやシャウビューネの今後の活躍にますます期待が膨らみます。
さらに、参加者からの質疑にも真摯に答えてくださり、トークは終了。
60分間という短い時間ではありましたが、『かもめ』という作品について、そして「演劇」について終始オープンな姿勢で話してくださっていたので、非常に充実した内容となりました。
最後に、参加者の皆さんとともに拝聴していた宮城から「この『かもめ』の初の海外公演というチャレンジングな提案に応えてくださり感謝いたします」と挨拶があり、スペシャルトークは締めくくられました。
今回、この『かもめ』は初の海外公演、しかもメインとなる舞台美術が異なるという状況で、年間100ステージにおよぶ海外公演をこなすシャウビューネのメンバーも「我々にとって非常にチャレンジングな上演」と口にし、オスターマイアーさんと出演者のみなさんも、初日の開場時間ギリギリまで稽古をされていました。
そして、多忙なスケジュールのなか、来日したオスターマイアーさんは、上演50回目という節目となる公演の終演を待たず一足先にドイツへと帰られたのですが、静岡芸術劇場をあとにされる際、「演技のハーモニー」について真剣な表情でスタッフと話し込むオスターマイアーさんの姿がとても印象深かったです。
▼ベルリン演劇協会が選ぶ2023年の最優秀作品に『かもめ』が選出され、その授賞式が6月2日に行われたようです。
https://www.schaubuehne.de/en/presse/die-theatergemeinde-berlin-zeichnet-die-moewe-als-auffuehrung-des-jahres-2023-aus.html
*ベルリン演劇協会(TheaterGemeinde Berlin)は、約11,500人の会員を擁するドイツ最大の文化団体。1982年より年間の最優秀作品を選出しており、シャウビューネでは2016/17年にトーマス・オスターマイヤー演出による『ベルンハルディ教授』が受賞しています。
(SPAC制作部・計見葵)
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【演劇/ベルリン・ドイツ】
『かもめ』
日時:5月3日(金・祝)14:00、4日(土・祝)13:00、5日(日・祝)13:00、6日(月・振休)13:00
会場:静岡芸術劇場
上演時間:210分(途中休憩あり)
ドイツ語上演/日本語字幕
演出:トーマス・オスターマイアー
作:アントン・チェーホフ
製作:ベルリン・シャウビューネ
https://festival-shizuoka.jp/program/the-seagull/
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